聖女は役目を再開する

「はぁはぁ」

「……まさか死の獣が」

「案外やってみる物ですね」


 死の獣は倒れている

 私は立っている

 死闘の末に私は勝った

 魔法は使ってきたが治癒魔法は無かったようだ

 だから削り切れた

 こっちは致命傷でもヒールで全回復する、単純に相性が良かったようだ

 攻撃が厄介ではあったが何とか勝てた


「死の獣って何体も居ますか?」

「知りません。そもそも本来なら勝てないのです」

「かつての聖女様方のお陰です」

「その聖女達では勝てなかったのだが」

「今何か?」

「何でもありません。ただ倒したとしても何かあるかは私も知りません」

「そうなんだ」


 ……まぁ誰も勝った事無いならそうか


 死の獣が消滅する

 そして扉が形成される

 禍々しい印象の扉


「新しい扉?」

「禍々しい」


 扉の中は真っ黒、真っ暗で何も見えない

 白い扉か黒い扉か

 白い扉は死後の世界ならその逆の黒い扉はなんだろうか

 考えられるのは2つ

 別の死後の世界と生者の世界


 ……死の獣を倒した結果、どうなるんだろ


 扉の中に入ろうとする

 ネルは何も言わない

 足を止めて聞いてみる


「止めないんだ」

「その扉は私には分かりません。ただ扉の中に入るという選択であれば私は意見を言う事はありません。扉への案内人ですから」

「それではさようなら、ネル様」


 扉の中に入る

 私が勝ち取った道、なら進むしかない

 その先がどうかなんて分からないけど、希望を胸に

 真っ暗な世界で意識が暗転する


 そして私は目を覚ます

 今回の天井は見覚えがあった

 少し前に私の自室となった部屋だ、相変わらず私が使うには豪華過ぎると思う部屋

 起き上がる、手足を動かしてみるが身体に違和感は無い

 むしろ思い通りに動く

 苦しさも無いし吐血しそうにもならない


「これはどっちかな」


 周りを見る

 見覚えがある部屋、しっかり綺麗に保たれている

 部屋には誰も居ない


 ……エルリカも居ないか。どうしよう、歩いていくかな? 何か無いかな


 そう思って周りを見ると近くにボタンを押すとエルリカに通知が行く道具が置いてある

 私が意識を失う前に押せなかったボタン

 手に取る、普通に取れる


「これ押せばいいかな」


 ボタンを押す

 何も起きない、これで通知が行っていれば良いが

 ベットから降りて立ち上がろうとするが上手く行かない

 暫く寝ていたのだから動けないのは普通か


「命を捧ぐ者に聖女は力を貸す戦聖女の声ベル・フェルース


 支援系魔法を使い強化して立ち上がる

 これなら問題無く歩ける


「誰ですか? 通知を飛ばしたのは」


 エルリカが来る

 通知が鳴って何かと思い来たようだ


「あっ、エルリカ」

「……え?」


 エルリカは私を見ると目をパチクリさせている


「あ、アナスタシア様!? えっ、ほ、本物?」


 私に駆け寄ってペタペタと身体を触る


 ……幽霊か何かだと思われてる?


 物に触れられると分かるまでは幽霊なのではないかと思っていたがこの感覚はちゃんと身体がある感覚だ


「そ、そうだよ」

「目覚めたんですか!?」

「そうみたいだね」

「あ、えっ……い、医者を呼んできます!」


 慌しく部屋を出ていく

 そしてすぐに複数の足音がする

 ドタバタと走ってきている


 ……騒がしいなぁ


 開いている扉から中に入ってくるのは医者とエルリカだけでなくヒナも居た

 偶然近くに居たのだろうか


「お姉ちゃん!」


 ヒナは私目掛けて飛び込んでくる

 受け止める

 思ってたより勢いが強かった


 ……これ支援魔法使ってなかったら倒れてた


 少しよろめき少し焦る


「なんか目覚めたみたい」

「良かったぁ」


 ヒナは涙を流している


「け、検査をします」

「お願いします」


 医者がじっくり検査を行う

 そして検査結果が出る


「症状が消えています。蝕まれた肉体も完全ではありませんが回復しています」

「薬出来たんですか?」


 死の獣との戦いと扉の事は覚えているがそれで戻ったとして肉体が回復する事は無い

 肉体が回復したのなら薬が出来たのかも知れない


「は、はい、2時間ほど前に作られた薬を打っては見ましたが1時間前の検査では変化は有りませんでした。1時間でここまで回復するとは……これは薬以外の要因も有りそうですね。心当たりは?」

「……心当たり」


 死後の世界への道での出来事くらい

 でもあれが回復の要因になったと言うのに違和感がある


「特には有りませんね。そもそも眠っていたので外の事は分かりませんから」

「そ、そうですよね。一先ず経過を見ます。今は安静に、初めての事なので何があるか私も分かりませんから」

「分かりました」


 今は回復しても突然悪化する事や眠った後起きなくなる事も有り得る

 まだ安心は出来ない


 しかし、それは杞憂に済んだ

 翌日以降も問題無く私は目覚めた


 ……やっぱ寝るの怖いなぁ


 もう目覚めないかと思ってしまう

 エルリカも私が目覚めるのを見ると安堵するようだ

 そして検査の結果、症状もゆっくりとだが回復傾向にあると言う


「アナスタシア!」

「レオナルドさん」

「目覚めたか……良かった」

「お騒がせしました」

「全く、本当にな」


 レオナルドさんの表情が変わる

 ここまで分かりやすく表情が変わったのを見るのは初めてかもしれない


「おぉ、アナスタシア、元気そうだな。まさか薬が間に合うとはな」


 王様も安堵しているようだ

 薬の開発に王様も協力をしてくれていた


「はい、あっ、アカリさん達に感謝しないとですね」


 薬を作る際の一番の功労者達、アカリさん以外には会った事は無いが皆、私の命の恩人


「あぁ、そうだ。アカリという研究者から伝言だ」

「伝言?」

「元気になったら顔出してくれと」

「その予定です」


 検査をして慎重に確認していた医者も半月経つと気が楽になったのか少し余裕があるような表情をする


「もう山場は超えました?」

「えぇ、もう後遺症も無く完璧に治ってます。最も初めての事例なので慎重にはなってますが」

「貴方が居なかったら私は死んでいたでしょう。本当にありがとうございました。まぁこれからもお世話にはなりますが」


 多くの人の協力で救われた

 なら私は恩に報いなければならない

 今の私にはその力がある


「助けられて良かったです」


 それから1ヶ月経った

 私の症状は完治して動いていいという許可を得た

 あくまで様子を見てだが久しぶりに役目を果たせる

 久しぶりの外とだけあってウキウキ


「今日治療が入った」

「そうですか、分かりました。行ってらっしゃいませアナスタシア様」

「うん、行ってくる」


 城から出ると護衛騎士の2人が待機していた


「アナスタシア様、我々が護衛します」

「うん、お願い」

「アナスタシア行けるか?」

「えぇ、行けます!」


 不治の病を克服した聖女の話は瞬く間に国中に、大陸中に広がった

 不治の病と言われた病が完治した最初の事例であり奇跡の生還

 彼女が聖女であった事から聖女の奇跡とも言われている


 その聖女はもう1人の聖女と一緒に多くの事件を解決し多くの人々を救う事になるがそれは別の話

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病弱聖女は生を勝ち取る 代永 並木 @yonanami

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