病弱聖女は王に会う

 城の前にも門番2人が立っている

 彼らは問題ない


「アナスタシア様、何用でしょうか」


 丁寧に聞いてくる

 そして私の服を見て直ぐに隣にいる門番に指示を出す


「大きな布を持ってこい」

「分かった」


 駆け足で近くにある小屋に向かい布を持ってくる


「アナスタシア様、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ボロボロな服を隠せる大きな布

 羽織る


「メイドに伝えて服を用意するよう言います」

「いえ、大丈夫です。王に話があります」

「事前に話は」

「緊急です」

「……分かりました。付いてきてください」


 門番の1人が先頭に進む

 城の門番は騎士団の第1騎士団所属、彼らは私に対して偏見などを持っていない珍しい人達

 メイドが見える


「あの人は……アナスタシア様? 何故ここに」

「一丁前に聖女の振りをしているんじゃない?」

「この時間にって常識知らず」

「箱入り娘だからねぇ、知らないのかも」

「というかあの布は何?」

「さぁ? あんな格好で城の中に入るなんてね」


 私はメイド達にも馬鹿にされている

 貴族や兵士、騎士、など私を知る殆どの人に馬鹿にされる

 関わりを持たない平民達は私が居る事すら恐らく知らない


 ……耳障り


「メイド達が申し訳ございません」

「いつもの事なのでお気になさらず」

「……そうですか」


 城の通路を歩く

 反対側から数人の足音がする

 門番の背に隠れる


「どうしたサム」


 反対側から来た1人が門番に話しかける

 全員知っている騎士だ


「団長お疲れ様です。聖女様を王様の元へ案内しております」

「ヒナ様は今城門行ったよな?」

「魔物出たらしいからな」

「……何用だ? アナスタシア」


 門番の後ろに隠れている私に話しかけてくる

 ひょこっと顔だけ出す

 姿を確認する

 騎士団長3人

 それぞれ似た服は着ているが装飾や模様が違う

 騎士の隊服

 先頭に立っている騎士は金髪赤眼の美形、数少ない私とマトモに関わりがあるレアな人物


「緊急で王に話がありまして」

「王は今忙しい、翌日に来い」

「外に出るなんて珍しい事もあるもんだ。だが今は夜だ、夜に訪ねるのは……」


 これがヒナ相手なら彼らはこんな事を言わない


「お前らは先帰れ」


 先頭に居る騎士が2人に命令する

 私が話を渋っている事に気付いたか別の理由か分からないけど2人が居なくなるのは都合が良い


「聖女とは言ってもだな。こんな時間には非常識だ」

「命令だ」


 一番偉い騎士団長は2人を睨み付ける

 身を震わせて2人は早足で通り過ぎる


「わ、わかった」

「怖ぇ」


 離れるのを待って聞いてくる


「それで緊急とは?」


 私の事を本人居るところで様付け無しで堂々と呼ぶ人間は数が少ない

 私を前にしてそう呼ぶのは本来禁止されている

 陰で呼ぶ人は多いが


「出来れば王の部屋で、聞く人が少ないところで」

「分かった。サムは戻っていいぞ」

「はっ!」


 敬礼をしてサムは帰っていく

 案内人が変わる

 近くを通るメイドが私の方を見るが陰口を言わない

 聖女の悪口を彼の前で言う者は居ない

 第1騎士団団長、レオナルド・リヌワール

 美形で騎士団長、男女問わず人気があるが独身で浮ついた話一つ無い

 怖いせいで殆どの人が近寄らない

 優しく良い人ではあるのだけど

 騎士団最強の男


「アナスタシア、その服は? 羽織ってるのは服ではなく布だよな?」

「少し色々とありまして」

「先に服を用意しよう」

「いえ大丈夫です。出来れば早く伝えておきたいので」

「そうか」


 歩き始める

 城門の戦闘で私が帰ってきてる事は恐らくヒナに伝わっている

 そうなれば早ければ今日、もしくは明日には家族に伝えられる

 そうなれば証拠を消される


「他にも色々と聞きたい事があるが聞いても良いか?」

「なんですか?」

「まず家から出られないお前が城に来れた理由」


 家族に監視されている事と不治の病によって家の外を歩ける体力が無いなどを知っている

 家は治療所も兼ねている為、城から遠い

 今までの私1人では行けない


「それに血か、間違いなく襲われているな。魔物か、城壁内に出たという話は無いが……」


 布の間から見える血に気づいたようだ

 一応見えないように隠したつもりだったが


「それらは全て1つの出来事です」

「1つの? とんでもないな」


 フッとレオナルドさんは笑う

 微妙に口が動いてるくらいで余り笑っているようには見えない

 表情筋が硬くよく見ないと表情が本当に分からない

 王の部屋に着きノックせずに扉を開く

 中に入ってすぐに左側を向く


「失礼します」

「レオ、ノックしろとあれだけ……アナスタシア!?」


 紙の山に埋もれて唸っていた王様は扉の方を見て目を見開き立ち上がる

 疲れ切り目の下にはクマが出来ている男性

 この国の王様、20代で王位に就いた苦労人

 いつも忙しく過労死寸前と愚痴を漏らしていた


「そんな動いて大丈夫なのか? それと服では無いな布? 何かあったのか?」


 紙が飛び散っているのを無視して直ぐに私の元に駆け寄ってくる

 本当に驚き心配しているように見える


「は、はい、大丈夫」

「アナスタシアが話があるそうだ」

「話だと? 分かった。座ると良い」


 用意されている豪華な椅子に座る

 レオナルドさんは私の隣、王様は私の対面に座る


「それで話と言うのはなんだい?」


 この2人の事は信用しているが関わっていないとは言い切れない

 何せ片方は騎士団の人間、騎士団の行動は把握しているだろう

 兵士が近寄らない場所についてよく知っている、それだけでなく近寄らないようにと言う指示を出せる

 そしてもう1人はこの国の最高権力者、情報規制などはお手の物

 最もこの2人ならもっと確実にバレずに殺れる方法を取るだろう


深呼吸をして話を始める

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