病弱聖女は交渉する

 盗賊団のリーダーは

 こちらの決め手となる一撃に即座に対応して接近して攻撃を阻止した

 相手の視点では他の魔法は詠唱していないように見える筈

 だからこそシールドを張る隙も与えずに追撃を選んだ

 支援魔法で強化された状態でこの一撃は避けれない

 完璧な流れ、隠し札も出さずに勝てる


 だからこそ彼は警戒をしないとならなかった

 考えなければならなかった

 近接は魔法使いの弱点、数百年前にその対策をされている事を

 弱点を知っている初代聖女様が編み出した御業


 超近距離攻撃魔法

 この魔法は自身を巻き込まずに零距離で放てる


 振るわれた拳を防ぐように手を添える


 ……範囲調整


 光が盗賊の殴ってきた左手と左胸付近まで包み込む


「こいつは」

「切り札です」


 そして消滅させる

 盗賊は大量の血を流して倒れ込む

 腕だけでなく左胸の一部も抉れている

 その痛みはとんでもない程だろう、そして戦闘はもうほぼ出来ない負傷


 ……あっ、魔法が込められた道具まで消滅させちゃった


 後で少しだけ回収する予定だった


「くっ、なんだお前……強ぇな」

「死にたくないなら条件を飲んで」

「条件? 良いぜなんだ」

「魔法が込められた道具を頂戴」


 小声で会話をする

 周りにバレないように

 最も避難していて周りにはもう人は居ないが

 この装備は役に立つ


「魔導具の事か? どれが欲しい」

「防御魔法と爆発」

「それならほらよ」


 首に付けていたネックレスと指輪の1つを私に放り投げる

 受け取る


「魔力を込めりゃ使える。事前に貯める事も可能だ」

「成程」


 条件と言った通り止血をする

 逃げられないように完全な治療はここではしない


「他には何がある?」

「他? 使ってねぇ魔導具はあるが……優秀なのはこいつらだな」


 羽織っていたマントと腕輪を外して放り投げる


「これは?」

「隠匿のマント、魔力を通す事で一時的に所有者の姿が見えなくなる。時間は使用した魔力による。そっちのは無重の腕輪、所有者の身体及び身に付けている装備の重さを消す。こいつは常時発動型、魔力消費も少ない」

「倒したのか」


 盗賊が丁度説明を終えたタイミングでレオナルドさんが合流する

 すぐに道具を入れているバックに詰め込む

 マント以外小物なのですぐに入れられる

 マントも無理やり詰め込んで何とか入る


 ……危ない。急いでたからバックの中身少なくて良かった


 バックは大きくないが中に余り物が入ってなかった

 魔導具なる物を交渉して手に入れた、バレたら回収されかねない


「急いで来たんだがな」

「最強の騎士てめぇを倒す算段はあったんだがな」

「それに勘づいてアナスタシアが自ら相手取った。油断したな」

「噂は聞いていたがまさかこれ程強いとは思っていなかったな」


 レオナルドさんが引き連れてきた騎士が盗賊を捕縛して連行していく


「治療が必要な人は居ますか?」

「かなりの数が居る。頼むぞ」

「はい!」


 負傷者が集められている所に行く

 痛みに悶え苦しむ声、呻き声が聞こえる

 すぐにヒールを掛けて回復していく

 戦闘で魔力は使ったがまだ余裕がある

 欠損していない傷であればヒナも治せる為別れて治療する


「私が欠損治療する」

「ならそれ以外は私が担当する」


 私が駆け付ける前から治療をしていた筈、まだ魔力に余裕があるようだ

 時間を掛けて治療を終える

 建物の被害は大きかったが人的被害は最小限で抑えた

 それでも数人の死者は出ている


「治療完了……」


 魔力がかなり減った

 戦闘もあって身体への負荷が大きい

 血を吐いてはないが不味いかもしれないと思う


「お姉ちゃん盗賊団のリーダーを捕まえたんだってね。怪我はしてない?」

「うん、怪我はしてないよ」

「盗賊団のリーダーはかなり強い人物だけど本当に良く勝てたね」

「不意打ちみたいな感じかなぁ。知ってるの?」

「何度か戦った事がある。騎士団長が居る時でも追い詰め切れなかった。頭が切れるし魔導具を複数同時に操る厄介な相手」

「確かに魔導具が厄介だったし頭が切れる」


 不意打ちでやらなければ恐らく避けられていた

 そうなれば負けていただろう

 戦闘中、戦闘経験の差を理解した


「2人とも、治療助かった。これで被害が最小限に抑えられた」

「私は瓦礫の撤去の手伝ってきます」


 ヒナはそう言って駆け足で立ち去る


「アナスタシア、魔力に余裕はあるか?」

「支援系魔法を掛けるくらいなら」

「なら頼む、これから作業があるからな」


 力仕事、なら支援魔法が役に立つ

 私は支援魔法を掛ける

 魔法を使い終えた後、体調が崩れる


「大丈夫か?」


 突然の事で平然を保てなかったようだ


「少し頭がクラっとしただけです」

「そうか、体調も悪そうだし早く帰るか」

「そうですね。これ以上は私はやれる事もないので」

「レオナルドさん、ニール騎士団長が呼んでいます」

「そうか、ならアルト、アナスタシアを護衛しろ」

「分かりました!」


 レオナルドさんはニール騎士団長の元に向かう

 代わりにアルトが護衛をするようだ

 アルトはずっと忙しく仕事をしていて城に来る事も無かったので久しぶりに会う


「久しぶりかな」

「そうですね。ここ最近はずっと忙しく護衛として動けなくて」

「仕方ないよ。私は遠出もしてなかったし」

「そう言って貰えると助かります。アナスタシア様、最近訓練をしているそうですね」

「そうだよ。魔力操作をヒナに教わってる」

「ヒナ様に、ヒナ様凄いですよね」

「凄すぎてもはやよく分からない」


 足元にも及ばない

 追い付くには数年、いやもっと掛かるかもしれない


「その気持ち分かります。聞いた話ですがヒナ様の技術は歴代聖女の中でも上位に君臨するそうですよ」

「ヒナは凄いなぁ」


 雑談を交わしながら城に戻る

 自室の前で別れて中に入る

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