病弱聖女は飛ぶ鳥を撃ち落とす

 突風が巻き起こる


「岩陰へ!」


 私はエルリカに手を引かれて岩影に隠れて凌ぐ

 近寄れないどころか吹き飛ばされそうになる程の突風


「2人は?」

「確認しようにも風が強く……」


 突風が石や砂を巻き上げて視界を遮る

 岩から顔を出すと危ないから迂闊に出られない


 ……魔力を感じれば


 集中して周囲の魔力を感じ取る

 しかし、2人の場所は分からない

 この風はエルダーグリフォンの魔力で発生した魔法、だから多くの魔力がこの場には散り動いている


 ……2人の場所が分かれば防御魔法張れるのに


 シールドを無数に張り岩から顔を出す

 シールドで巻き上げられ飛んできた石や砂を防ぎ見る

 殆ど砂で見えないがうっすらと人影を確認する

 見えるのは1人だけ


守聖女の守護リエム・フルールド


 その人影の周囲を障壁で囲む

 誰か分からないがここに居るの人なら味方

 防御魔法は外部からの攻撃を遮断して内部からの攻撃を通す


「感謝します!」


 うっすら声が聞こえる

 大きな声だったからだろうか上手く聞き取れなかったがアルトの声に聞こえた


 ……多分アルト、ならレオナルドさんは?


 探すが見つからない

 何処かの岩に避難したのだろうか

 それとも……

 悪い想像が浮かぶが頭を振って切り替える


 ……考えるな。それは諦めの思考だ。今やれる事を考えろ……まずは


「私は拒絶する、悪しき者を、恐ろしき敵を、私は守護する、正しき者を、勇敢なる仲間を」


 探しながらまた詠唱して準備をしておく

 レオナルドさんだけでなくエルダーグリフォンの姿も見えない

 アルトだけがギリギリ見える


 ……どこに行ったんだろ


 顔だけでなくシールドで風を防ぎながら身体を出して周りを見る

 こっちの方が周囲を上手く見れる


「危険ですよ」

「これは必要な事」

「……何かあれば引っ張ります」


 エルリカが服の袖口を強く握る

 反応速度は私よりエルリカの方が早い


「お願い」


 探すのに集中して回避はエルリカに委ねる

 集中して探す。視覚、魔力、音で探す

 視覚では捉えられない物も音で聞き分ける

 アルトの声で気付いた、風の音がうるさいが別に他の音が聞こえない訳じゃない


 ……金属音、叫び声何でも良い


 耳を澄ませて音を聞くがダメだ聞こえない

 近くに居るアルトの場所なら把握出来た

 今アルトは私の防御魔法の障壁の中に居る

 自分の魔力なら絞って探れば何処にあるか分かる

 他の人の魔力だとしっかり覚えていないと他の魔力に混じってしまう


 ……自分の魔力なら分かるのに……そうだ!


 自分の魔力

 爆発を起こす指輪、あれには私の魔力が込められている

 そうだ、その魔力を探れば位置が分かる

 岩陰に戻って魔力感知に集中する


「見つけた……でも遠い」


 位置はわかったが遠い

 それもアルトと違って激しく動いている

 今戦っているのかもしれない

 指輪に宿る私の魔力の近くに大きな魔力を感じる

 風じゃない、恐らくエルダーグリフォン

 今レオナルドさんは戦闘中だ

 加勢したいが近寄れない


「風を吹き飛ばしたい」

「私の魔法だけでは難しいです」

「……それならアルトと合流する」

「行けますか?」

「魔力には余裕がある。シールドで風を防ぎながら走れば」

「分かりました。行きましょう」


 シールドを張り風を防ぎながらアルトの居る場所に走って向かう

 通り過ぎたところのシールドは解除して障壁を一部一時的に解除して滑り込む


「アナスタシア様!?」

「風を吹き飛ばす。手伝って!」

「策があるんですねわかりました! ところでレオナルドさんは何処にいるか分かりますか? 突風の後見失いまして」

「離れた場所で多分戦ってる」

「そうですか。では急ぎましょう」

「アルト様、風の広範囲魔法が使えますよね? 私の魔法と合わせます」

「成程」


 2人は詠唱を始める


「暴風よ荒々しく吹き荒れ、全てを薙ぎ払え! 我は嵐の代行者なり、この身を持って今宵天をも裂く」

「灼熱よ燃え上がれ、天まで届き全てを焼き払え、我は炎の代行者なり、この身を持って今宵地を焼き払う」


 周囲に風が巻き起こる

 竜巻が発生する

 エルダーグリフォンが使っていた魔法よりも大きな竜巻が巻き起こり周囲の風を巻き込み天まで届くかに思えるほど大きくなる

 そしてその風に火が混じる

 燃え上がり広がる炎の竜巻が周囲の風を空気ごと消し飛ばす


 ……これなら!


 大量の魔力を一気に消費した事で2人は膝をつく

 すぐに2人にヒールを掛ける

 風は消え去り視界が広がった、これから見える

 すぐにレオナルドさんとエルダーグリフォンの位置を確認する

 風が止んだ事で音が良く聞こえる

 剣の音が響く、音のする方を見るとエルダーグリフォンと1人で戦っていた

 激闘を繰り広げている

 攻撃を避けて受けて弾いて攻撃の一撃一撃が確実に敵を殺すと言う意志の塊

 殺意がぶつかり剣と爪がぶつかる

 私では入れないような強い者同士の本気の殺し合いの領域

 空気が震える


 ……これは


 アルトは立ち上がり剣を強く握る


「ヒールありがとうございました」

「アルト」

「俺もすぐに行かないと」


 意を決したように障壁から外に出てアルトは駆け出す

 そして剣を振るう

 鋭く素早い攻撃の応酬

 互いにどんどん速度が上がっていく

 攻撃が掠り服が破け皮膚が切れ血が溢れる


「くっ」


 傷を負ってすぐにヒールを掛けて治す


「構わず本気を出せ!」

「……はい!」


 もう互いにカバーはしない、自由に剣を振るい動いて攻撃を仕掛ける

 連携に意識を割かず2人とも全力を出す

 先に集中力を欠いた奴が死ぬ、更に速度が上がる

 アルトは遠慮なく風蹄を叩き込む


 ……私に出来る事は支援


 私が完璧に2人をサポートする

 障壁を張っているここならだいぶ安全

 サポートに集中する


「エルリカ命預けたよ」

「……お任せ下さい」


 確実に削っていく

 エルダーグリフォンも風の魔法を使っているが2人は上手く躱している

 一部の攻撃はシールドを操って防ぐ


 ……耐えれる


 風の魔法の一部は発動した瞬間に発生場所にシールドを差し込んで封殺する

 風の斬撃が襲いかかる、一部は防ぐが数が多く防ぎ切れない

 風の斬撃の数個が私の元まで届いて障壁を削る


 どんどん傷が増えていく

 順調だ、攻撃の一部は防げている

 余裕が無くなったのか攻撃が大振りになっている

 大振りな攻撃は避けやすいようで2人に届かない


 ……これなら攻め切れる!


 攻め切れると確信した瞬間、風を翼に纏って翼を大きく広げ空を飛ぶ


「飛んだ!」

「風を纏って飛行!?」

「そんな手があったんだ」

「ちっ、飛べたか……アルト!避けろ!」


 2人は上から大量の風の玉を叩き込まれる

 回避しているがこれでは攻められない


守聖女の守護リエム・フルールド


 すぐに2人の周囲に障壁を張って攻撃を防ぐ


 ……これならアルトが動ける


 障壁が攻撃を防いでいる今ならアルトが風蹄を放つチャンスが出来る

 風の玉が障壁を削っていく、まだ壊れないがこのままではそう長くは持たない

 一部はシールドで防ぐ


「吹き荒れろ風蹄!」


 剣に纏った風をエルダーグリフォン目掛けて飛ばす

 風の障壁で防がれる


 ……防御まで隠してたの


 追い込まれても使ってなかった風の障壁

 風蹄では突破出来ない


 ……広範囲魔法なら……


 先程、風を吹き飛ばしたあの魔法なら行ける

 しかし、アルトは使わない


「魔力が足りないのかもしれません」

「あぁ、あんな威力の魔法そう連発出来ないか」


 戦いの中で風蹄を結構な数使っている

 風蹄を打てる魔力はあってもあの広範囲魔法を使う魔力が無い可能性は高い


「聖女たる私が魔の者を撃つ、一矢よ駆け抜けろ炎聖女の弓リリス・フルールド

「アナスタシア様?」


 詠唱して光の弓を作る

 アルトが出来ないなら私が撃ち落とす

 私が攻撃に参加しなかった事で今エルダーグリフォンの意識は2人に集中している

 ここまで追い詰めた2人を集中して潰したいだろう


「アルトが出来ないなら私が撃ち落とす」

「確かにその魔法なら可能性はありますし今は絶好のチャンスですが」


 ただチャンスは一度、これを失敗すればもう一撃は許さないだろう

 標準を定める


「少なくとも今あるチャンスを掴もうとしなきゃ私に未来は無い」


 エルダーグリフォンはその場から動いていない

 風の補助ありでも移動は難しいのかそれとも障壁は設置型で動かせないのか他の理由か

 なんにしても動かないのは都合が良い


 ……落ち着け


 バクバク心臓の音が聞こえる

 これを失敗したらどうなるか分からない

 深呼吸をして落ち着かせる

 落ち着いてから弓を引き放つ

 高速で放たれた矢は真っ直ぐエルダーグリフォンに向かっていく

 風の障壁に当たり貫通する

 そして翼を撃ち抜く

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