病弱聖女は目覚めるか分からない深い眠りにつく(途中から三人称)

 吐血の頻度が上がった

 その時々で血の量は変わるが苦しさが長引く


「アナスタシア様」

「大丈夫では無いかなぁ。まぁ仕方ない」


 エルダーグリフォンの時に多少なり無理をしていた

 それが響いたのかも知れない

 これは仕方が無い事

 安静にしている分、酷く悪化している感覚は無い

 医者の判断でエルリカ以外の人とは余り会えていない


 ……ヒナ元気かな


 アルトやレオナルドさんは心配する必要が無いほど元気かなと思いただ心配なのは血の繋がった妹のヒナ

 聖女の役目をたった1人で担当している

 私は自分が聖女として役目を果たすなら無理をするのは当たり前と考えているがヒナには無理をして欲しくは無い

 本当に長生きして欲しい、私は出来そうに無いから


「今日の天気ってどう?」

「今日は軽く雨が降っています」

「雨か……私雨音好きなんだよね」

「そうなんですか」

「うん、心地良い音だから」

「……確かにそうですね」


 安静にしているとやる事が少ない

 エルリカが本を持ってきてくれるから暇は少ないがやっぱり身体を動かしたくなる


 ……まぁ少しの間、動けただけ良いかな。本当なら一生動けなかったかな


 定期的にアルト、レオナルドさん、王様、ヒナが来る


「今日は顔色が良さそうですね」

「今日は少し身体が楽、訓練の調子はどう?」

「今は新魔法の練習をしています」

「どんな?」

「風の弓です」

「風の弓、あぁ、炎聖女の弓リリス・フルールドみたいな」

「そうです。威力重視の遠距離魔法」

「確かに1つあれば戦術の幅は広がる」


 遠距離魔法1つあれば戦い易い


「必ず習得します」

「頑張ってね」

「はい、出来たら見せますね」

「楽しみにしてる」


「調子はどうだ?」

「少し話すくらいなら出来る程度ですね」

「そうか、研究は順調のようだぞ。王様の計らいで研究員も増えて予算も増えている」

「そうなんですね」


 アカリさん1人でやるより研究が進みやすいだろう

 1人だと時間がかかり限界もある


「それでも時間が掛かるようだがな」

「研究は時間掛かりますから」

「こちらでも協力出来る事をやっては見る」

「お願いします」


「動いていないよな?」

「はい、もう外に出る力もないので」

「……そうか」

「外に出られた事自体奇跡みたいな物ですから」

「そうだな。本当に奇跡だったな……」

「そういえば問題行動起こす人って少ないんですか?」

「そんな多かったら俺が胃痛で死んでるわ。短期間で2回も謹慎処置与えるの初めてだったぞ!?」

「皆さんちゃんと守ってるんですね」

「守らないと怖い騎士に捕まるからな」

「あぁ成程」


「お姉ちゃん、なんの本読んでるの?」

「今は地形の本かな」

「地形?」

「この大陸には色んな地形があるんだって」

「へぇ、そうなんだね」

「本は読まないの?」

「本は余り読まないかな。訓練し続けてるから」

「余り無理しちゃダメだよ」

「しっかり休憩も取ってるよ」


 偶に会う彼らを楽しみに日々を過ごしている


「ぐっ……」


 心臓を圧迫されるかのような苦しみが来る

 そして口から大量の血を吐いてしまう

 今まで以上の出来事だ

 エルリカを呼ぼうと道具を使おうとするが力が入らず地面に落としてしまう


 ……届かない


 手を伸ばすが届かずに私は意識を失う



 エルリカが部屋に入ったのはそれから30分後の話であった


「アナスタシア様!」


 すぐに駆け寄り確認するが意識がない

 医者を呼び検査をして貰う

 ヒナ、王様、レオナルド、アルトが集まる


「また進行しています。……ここから2日以内に目覚めなければ目を覚ます事はなく死に至ります」

「……そうですか」

「嘘……お姉ちゃん……」


 ヒナはその場に座り込む

 病気の事は知っていた、悪化している事も知っていた

 だけど早すぎる

 まだ時間があると聞いていた


 ……もっと話したいのに


「どうにかならないのか!」

「今の技術では……」

「延命治療は無理なのか? 特効薬が出来るまで」


 生きていれば薬で治療出来る可能性はまだある


「……この段階に入ると特効薬が作れたとしても治すのは難しいかと……この症状は最終段階です。検査の結果八割以上病が蝕みもし薬で治ったとしても一生目覚めない可能性もあります」

「くっそ!」


 レオナルドが横の壁を殴る


 ……遅かった、遅過ぎた! もっと俺が早く動けば!


 話を聞いた時点で動いていれば、いや最初から病の研究を手伝っていれば間に合ったかもしれない


「私がもっと早く気付けば……」

「まだ目覚めないとは決まっていませんから2日間様子を見ましょう。目覚めたとしてもそう長くはないと」


 2日後、アナスタシアは目覚める事は無かった

 医者の意見が正しければこのまま目覚めずに衰弱して死に至る

 その話はアカリにも届いた

 研究者達が実験を続けているが成果は出ていない


「残念ながらまだ薬は作れていない。急いではいるが……」


 ……最初から間に合うとは思っていなかった。だけどこうも現実を見せられるときついな……


「アカリさん、まだ時間はあります! まだ諦めるのは早い!」

「……そうだな」

「急ぎましょう!」

「あぁ、まだ時間はある!」

「参加出来る奴全員、掻き集めろ!」

「急げ!」


 研究者達は研究を続ける

 周りに呼び掛け一部の研究を止めてまで参加する者も現れた

 残りの時間は短い、関わる皆が動く


「素材が足りるか分からない。覚悟ある者は俺に付いてこい!」

「はい!」


 編成を組んで危険度A、アンティリギアの討伐に赴く

 それぞれが動き出す

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