病弱聖女は教会に聖女として認められてなかったらしい

 教会については聖女の本で読んだ事がある

 神に仕える人々で本では聖女の後ろに書かれている事が多い

 聖女の援護をしている、これから本格的に聖女の役目を果たすなら力を借りる事も有るだろう


 ……本で見た事ある


 ワクワクする


「楽しみか?」

「はい、本で読んで気になっていました」

「本ですか?」

「聖女について書かれている本を私はよく読んでいて」

「成程」

「挨拶にも行けてなかったので楽しみです。でもちゃんと礼儀正しくしないとですね」


 すぐに切り替える

 教会を見に行くだけでは無い

 私はこれから聖女として挨拶をするのだ

 しっかりと礼儀正しくしないとならない


「盗賊!」


 歩いていると後ろから声がする

 振り返る


 ……盗賊?


 バックを抱えて片手で剣を持って走っている人物が居た

 こちらに向かって走ってきている

 あのバックを盗んで逃げようとしているのだと分かる

 剣を適当に振り回し危なっかしく一般人に危害を加えている

 男の後ろで血を流して倒れている人も居る


 ……負傷者


「レオナルドさん」

「分かっている」


 突如突風が巻き起こる

 その直後、男の頭上で何かが空を舞う


 ……早い


 視認出来ない程の速度で駆け抜けたレオナルドさんが剣を持つ側の盗賊の腕を切り裂いたのだ

 空を舞っているのは剣を持つ腕だった

 血を大量に飛び散らして腕が地面に落ちる

 男は叫び切られた腕を抑えている


「ひっ……」


 首元に剣先を向けられ盗賊は小さな悲鳴を上げる


「盗賊、タイミングが悪かったな」

「くっそ」


 レオナルドさんに盗賊を任せて私は走る

 盗賊はどうでもいい、今は怪我人の方が重要

 遠目から見ても出血が多い、あの量は命に関わる


「アルト、周囲に他に怪我をした人居ないか確認を」

「アナスタシア様、単独行動はダメですよ!」


 レオナルドさんの横を通って血を流している人物の元へ行く

 邪魔にならないように素早く通る

 駆け付けてすぐに倒れている人物の状況の確認をする

 男性の傷口から大量の血が流れている


「大丈夫ですか!?」


 直ぐに確認すると意識は無い、痛みか出血で気絶しているようだ

 一瞬焦るが息があるかを確認する


 ……息はある。なら


 倒れている男性にヒールを掛けて治療を施す

 みるみるうちに傷が塞がっていく

 傷が塞がり少し経つと目を覚ます


「うーん、あっ俺切られたんだ……あれ?」


 目を覚ました男性は切られた所を見るが傷が無く困惑する


「ゆ、夢?」

「間に合って良かったです」

「盗賊は1人か」


 捕縛し終えたレオナルドさんが隣に来る


「周りを確認していますがそのようですね。見た限り怪我人も居ません」


 後ろを向くとアルトが私を庇うように立っていた

 護衛の役目と私の指示両方をこなしている

 剣の柄を握り周りを警戒している


「アナスタシア怪我人が居るからと突っ込むな」

「つ、つい……」

「何かあったら一大事なんですから」

「気をつける」


 直ぐに助けなきゃという気持ちになった

 だから駆け出した

 確かに考えれば危険な行為、反省する


「貴女は一体」

「私は聖女のアナスタシアです」

「聖女?」

「あぁ、彼女は聖女だ」

「聖女様は1人なんじゃ」

「聖女は2人居る。別に隠している話では無いんだがな」

「あっ、いえ聖女様2人居ると言う話は知っています。ただ教会が現聖女は1人だと断言しまして」

「は?」

「え?」


 首を傾げる

 聖女が1人?

 その1人は間違いなくヒナだと分かるが私も聖女の魔法を使え王様に認められている

 だから聖女ではあるはず、いやこの男性は聖女様は2人居ると言う話は知っていると言っている


 ……ど、どういう事? 聖女が2人いるのを知っているけど教会は1人だって言っている? うん?


 男性の言葉がよく分からずレオナルドさんの方を見る

 無表情で感情が読み取れない


「どういう事だ?」

「詳しくは知らないんですが」

「聞かせてくれ」

「は、はい、教会は平民向けにこの国の成り立ちや神様について聖女様についてなどの話を半年に一回位行うんですが」

「知っている」

「兵士の人達も参加している事あるあれですね」


 ……へぇ、そんな物が、平民向けかぁ


 教会について本の知識しかない

 教会が何をしているかなどはほぼ知らないので私は静かに聞く

 先程の話はよく分からないので一旦置いて平民向けに説明してるなんて凄いなぁ、半年に1回か平民じゃないけど聞いてみたいなと呑気に考える


「丁度2年前くらいですね。突然現聖女はヒナ様だけでありもう1人の聖女など居ないと言い始めました」

「ほう、教会がわざわざ……」

「俺は聞いた事ないですね。騎士内でもそんな話は」

「平民向けなので騎士様達は知らないかもしれませんね。教会の話を信じたいんですが命の恩人を疑いたくない……どちらが正しいんですか?」


 ……教会は信頼されているんだね、教会がなんで? それも2年前?


 2年前に何かあったか思い出そうとするが特に思い付かない

 私の周りでは別に変わった事は無かった

 教会側で何か変化があったのかなと思う


「聖女は2人居る。これは断言する」

「この目でアナスタシア様が聖女の魔法を使っている所を見た! アナスタシア様も聖女だ」

「2年前に何かあったんですか?」

「特に人が変わったと言う話は無いんですよね。本当に突然で」

「問い詰めなければならないな」


 ゾクリと身を震わせる

 周囲の人間は全員理解した

 この騎士はかなり怒っていると

 理由は間違いなく今の会話、話した男性は殺されるんじゃないかと言うくらい怖がっている


 ……あわわ……


 本当に今から剣を抜くんじゃないかとヒヤヒヤする


「今の話を聞いて正直嫌な予感がします。アナスタシア様を連れて行きますか? もし1人で向かうのであれば俺が護衛して寝室まで送ります」


 アルトは億さず聞く

 流石レオナルドさんに認められた騎士

 周囲の人は怯えているのに1人だけ怯えていない


「いや、連れていく。奴らの反応を見る」

「分かりました。動けるよう覚悟しておきます」


 準備でも教会への警戒でもない

 覚悟とアルトは言った

 その言葉の真意は私には分からないが私も覚悟をする

 私を聖女と認めないとなれば私が聖女だと公言するのを許さないはず

 そうなれば教会に行ったら何があるか分からない

 最悪教会は私の敵となりうる

 楽しみにしていた感情はもう無い


「アナスタシア、私達に支援魔法を掛けてくれ」

「はい」


 2人に支援系の魔法を掛けて教会に向かう

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