病弱聖女は教会に行く

 別の盗賊に遭遇するなどという事は無く教会に着く

 教会は大きい建物で歩いている途中でも見つけられた

 周囲を柵で覆われていて1箇所大きな扉がある、今は開いているようだ

 綺麗な建物、新しい訳ではなく古い印象はあるが綺麗に保たれている

 壁は大量のガラスが張られ太陽の光が中を照らしている

 人は居るのに静かで周りとは全く違う印象がある、ここは神聖な場所と思う


「これが教会……ん?」


 若干変な感覚に襲われる

 分からない変な感覚、2人を見るがその感覚に襲われているような反応は無い


 ……元々外に出た事なかったから疲れかな


 太陽の光にこれだけ当たっている事も珍しく慣れてない事による疲れだと思う


「どうした?」

「少し疲れた? っぽいですが大丈夫です」


 自分にヒールを掛ける

 疲れによって生じる身体への負担を回復させる

 変な感覚は残っているが身体は元気になった


「そうか」

「一旦休憩しますか?」

「大丈夫、行こう」

「分かりました」


 レオナルドさんが先頭で柵の中に入り教会の建物へ向かう

 後ろからついて行く

 すると1人一般の方とは全く違う服装の人が私達を見て近付いてくる


「レオナルドさん、アルトさん今日はお祈りですか? 珍しい組み合わせですね」


 女性は笑顔で対応する

 アルトの名前も覚えているとなると彼女は記憶力が良いのかもしれない

 アルトは騎士、騎士というのは沢山居る

 レオナルドさんのように騎士団長ならともかくそうでは無い騎士の名前を覚えているのは凄いなぁと感心する


「いや、違う。挨拶だ」

「挨拶ですか? 見覚えのない方ですね」


 彼女は私の方を見る

 名乗らないと無礼だと思い名乗る


「アナスタシアです」


 軽く会釈すると返してくれる

 聖女とは言わない

 私が言うより2人のどちらかが伝えた方が良いと考えた


 ……教会の人? 良い人っぽいけどなぁ……見た目から悪人っぽい人は少ないか流石に


 服装が違う事、対応している事から教会に勤めている人なのかなと思う

 みんなこう言う服装なのかなと彼女の服を見る


「アナスタシア・ティロス、聖女様だ。彼女は聖女の挨拶をしていないからな」

「聖女様? ……少々お待ちください」


 笑顔でそう言って女性は教会の中に早足で向かう


 ……今


 一瞬彼女の表情が険しくなったように見えた

 ここは聖女を1人だと言っている人達の集まりだ

 彼女もその1人と考えるべきなのだろう


「アナスタシア様離れないようにお願いします」

「分かった」


 アルトに軽く近付く

 今の表情の変化を見ていたのだろう

 暫く待っていると教会の中から中年の男性が出てくる

 先程の女性とは違う服装をしている

 私は偉いですと顔に書いてあるような人、多分教会の中で高い位の人なのだろう


「おまたせしました、シスターから話は聞きました。彼女が聖女だと」

「あぁ、そうだ」

「申し訳ございませんが教会は聖女をヒナ様しか認めていません」

「それはどういう事ですか?」


 言い訳をするでもなく真正面から言ってきた

 私は目を丸くする


「理由はどうでもいい、お前達が認めるかどうかの話では無い」


 すぐにレオナルドさんが言い返す

 聖女の魔法を使える者が聖女であって誰かの許可を得て名乗る者では無い

 ちゃんと王様に力を見せて聖女の魔法を使えると認められている


「これはこの国の教会の総意であり例えそこのアナスタシア様が聖女と名乗っていても力を貸す事は難しいのです」

「それが総意か」

「えぇ、ですが1つ提案があります」

「提案だと?」

「ここで聖女の魔法を見せては貰えませんか? それが出来なければ聖女とは認められません、もし使えればこちらとしても聖女様だと認めざるを得ない」


 男性は怪しげに笑みを浮かべている

 この反応から私の事を良く知っているのだろう

 前の私は聖女の魔法を殆ど使えなかった

 前の私だったら使っても疑い否定出来る

 聖女の事に詳しい教会の人間の言葉なら嘘だとしても他の人は信じる


 ……多分繋がってるのは家族か一部の騎士など今を知らない者達


 現聖女の家族なら教会と繋がっていてもおかしくは無い、聖女が1人の方が都合が良いのかも知れない

 何故そう思うかは単純、今の私にこの作戦は悪手

 少なくとも今の私を知っているのならこの手は取らないと考えている

 上に立つ人間ならそんな隙のある事をするとは思えない

 前の私なら通じた小賢しい手は今の私には通じない


 ……どの魔法にしようかな


 どの魔法が一番効果あるか考える

 ここには怪我人は居ない、治癒系の魔法は効果が薄い

 支援系の魔法は目に見える効果は無い

 防御系の魔法も言い訳が出来る

 治癒系、防御系は劣化版を教会の人間が使える

 そうなると一番良い魔法は攻撃系の魔法になる


「本気でやっていいですよね」

「えぇ、構いません。出来るのなら」


 なら選ぶ魔法はただ1つ

 聖女の魔法の中で切り札とされる魔法であり聖女の名を冠したあの魔法

 そして私が死の淵で使った物

 あれなら示すなら丁度良い


「考えたか?」

「はい、攻撃系の魔法を使います」

「こ、攻撃魔法ですか」


 男性は目を丸くする

 家族と繋がっているのなら私が治癒系以外使えないと知っている

 だから攻撃系の魔法と言われて思わず反応したのだろう


「ダメですか? 攻撃系の魔法も聖女の魔法にありますが」


 ……自分が言ったのだから駄目なんて言えないよね?


「確かにありますね。聖女の魔法を使って証明しろなら別に問題無い筈です」

「それなら問題は無いな」

「……構いませんよ」


 彼が言ったのは聖女の魔法を見せろ

 つまりどの聖女の魔法でも構わないという事、だから彼は拒否は出来ない

 もしダメだと言っても護衛騎士2人がそれを許さない


「攻撃系ですか、ならば的を用意しないと」

「その必要は無いよ」


 的は要らない、こちらで用意してケチを付けられなくない

 狙いは既に決めている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る