病弱聖女は加減なく魔物に魔法を放つ

 今魔物の意識はヒナに向いている

 危険な状態、いつ魔物が攻撃を仕掛けるか分からない

 爆発音からして何らかの魔法が使えるのかもしれない

 だから即仕留める


「私は聖女の名を持って悪しき者を拒絶する!」


 詠唱を始める

 使うのは確実に仕留める為の魔法

 私が一番使っている魔法

 空を飛んでいる訳でも遠くにいる訳でもない

 巨体故に狙いやすい

 百足の身体は細長い為当てれば確実に胴体を抉れり両断出来る


「聖女の御業は我が声我が命によって顕現する! 聖女の洗礼ネル・リヌワール


 魔物の体に触れて魔法を発動、光が魔物の身体の一部を消滅させる

 魔物は身体が分断され倒れる


「これで倒せたはず」


 魔物を見るとまだ動いている

 体勢を崩しただけで殺し切れていない


 ……胴体抉ったのに


 起き上がりヒナに襲い掛かる

 攻撃した私ではなく目に入ったヒナを襲っている


 ……こっち向かない!?


「光よ聖女の名を持って命じる、剣となりて悪しき者を打て! 光の罪剣ジャッジメントソード


 無数の光の剣を飛ばすが外殻が硬く弾かれる


 ……硬い……


 傷口に数本突き刺してから百足の身体を見る

 外殻と外殻に隙間がある

 狙うならそこ、何ヶ所も何ヶ所も光の剣を突き刺す

 魔物は苦しんでいるがまだ元気

 胴体分断して倒せないなら頭を貫く

 動いているが負傷によって動きは鈍っている


「聖女たる私が魔の者を撃つ、一矢よ駆け抜けろ炎聖女の弓リリス・フルールド


 これなら頭を狙える

 弓を構えて頭を狙える位置に行く

 ヒナを追い掛けている、私の攻撃に気付いているが目の前の獲物を狙っているようだ

 光の礫が魔物に襲い掛かる、顔面に命中し怯む

 百足の口を不気味に動かして魔物は叫ぶ


 ……今!


 魔物が叫んでいる今、こちらへの意識は割かれていない

 素早い一撃に反応は出来ない!


「何、可愛い妹に手出してんだ!」


 弓を引き矢を放つ

 放たれた矢は高速で真っ直ぐ飛んでいき魔物の顔を撃ち抜く


 ……これでどう


 光の剣を構えて様子を見る

 仕留め切れていれば良い、出来ていなければ追い討ちする

 魔物は倒れ動かなくなる


 ……よし倒せた


 前衛部隊にヒールを掛けてからヒナの元に駆け付ける


「す、凄い。今の聖女の」

「ヒナ」


 ヒナの手を取り移動する

 ここは危ない、早く城壁の上に行かないと


「お姉ちゃん、今のは」

「色々と有ってね。話は後」


 城門に向かったが閉まっている

 魔物が入らないように頑丈に閉めている


 ……他に入れる場所は……


 前衛部隊が撤退する為の物がある筈


「こんなところで何をしてる」


 丁度、レオナルドさん達が合流する

 余裕が残っている西側の前衛部隊のメンバー

 数はそれ程多くないがこれで戦力が増える、押し返せる可能性が上がる


「先に行ってんぞ」

「そうだな。続け!」


 先頭を走っていた2人が乱戦しているところに突っ込み暴れる

 付いてきた者達も雄叫びを上げて突撃する


「ヒナを連れて城壁の上に戻る予定です。ただ撤退口が分からなくて」

「そうか、東側は……あそこだな」


 レオナルドさんが指を差した方向で小さな門を見つける

 探していたが普通に見逃していた


 ……あんな場所に


 あそこを通れば中に入れる

 中に入れれば一先ず安全


「それじゃ私は行く」

「ご武運を」

「お前らもな」


 別れてからヒナを連れて小さな門へ向かう

 そして叩く


「誰か居ませんか?」

「聖女様!」


 中から声が聞こえ門が開く

 私が降りた際に1人が門の近くで待機していたようだ


「聖女様方、早くこちらへ魔物が来ないうちに」


 武器を持った兵士が警戒しながら入るように促してくれる

 中に入る


「はい」


 すぐに兵士が門を閉める

 近くに他には誰も居なかった


「無事で良かったです。話を聞いた途端飛び降りたのでビックリしました」

「それはごめんなさい……ヒナを預かって」

「えっ、あ、はい」

「お姉ちゃん?」

「私は戻るから」


 兵士にヒナを預けて急いで上に登る

 魔法を詠唱して上に登り切ってから魔法を放つ

 乱戦しているところではなく味方が比較的少ないところを狙い撃つ

 少しでも数を減らす

 後衛部隊と合流

 西側前衛部隊が合流した事で勢いが増す

 どんどん魔物を倒していく


「押せ!」

「形勢逆転だ。押し込むぞ!」

「潰れろ!」


 ゴーレムと百足の魔物を倒した事で士気が上がっている

 前衛部隊にヒールを掛け続ける

 もう私の魔力は少ない、聖女の名を関する魔法は使えない

 何とか魔力が尽きる前に魔物を倒し切れている


 ……良かった……


 軽い咳をする

 口を抑えた手に血が付いている

 魔法を使い続けて魔力が減った、それだけ身体への負荷が大きくなっているようだ


 ……血……無理をしたからかな


 魔法で症状を抑えられているが身体への負荷は弱った身体に響くらしい

 化け物と戦った後にも起きたがあの時もだいぶ無理をしていた

 早めに知れて良かった

 対策が取れる


 ……これだけ動いてこの程度なら支障はない


 多少血を吐く程度なら充分に役目を果たせる


「おぉ! 勝ちだ!」

「やったぁ!」

「まだ油断するな! 残党を排除する」

「は、はい!」


 私はこの場に座り込む

 もう魔力が残っていない

 暫く休憩しているとアルトとレオナルドさんがやってくる


「アナスタシア様お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「今回、お前の力が無ければ被害はもっと出ていた。助かった」

「これも役目なので」

「東側の被害は」

「まだ確認は取れてないが東側の総戦力の5分の1くらいは減ってる」

「そんなに……」


 5分の1となるとかなりの数だ

 この戦いでそれだけの人が死んだ

 それだけ激しい戦闘だった

準備してこれだ、準備が出来てなければもっと死んでいただろう


「ゴーレムと百足の魔物に苦戦したそうだ」

「西側はゴーレム1体でしたしね」

「それもお前が倒したからな。西側が多いと踏んだが逆だった訳だ。調査不足だったな」

「時間がなかったので2方向から来ると分かっただけ充分な成果だと思います」


 東側の方が圧倒的に魔物の質が違かった

 これが逆の配置だったらもっと被害は少なかっただろう

 私がもっと多く魔物を倒せれば被害ももっと少なく済んだかもしれない

 もっと強ければと後悔が残る

 ヒナも死にかけていた、今回は間に合ったが


 ……もっと強ければ……


 今の私は強い

 複数の聖女の魔法を使えゴーレムを一撃で仕留められる攻撃、欠損を再生出来るヒール、それを複数回使える

 だけどまだ足りない

 どうすればいいかを考える


「私達はまだ残るが先に帰ると良い。疲れただろ」

「はい、かなり疲れました」


 戦闘が終わった後、魔力が残ってない私はやれる事が無いのでアルトに護衛して貰って城に戻る

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