病弱聖女は風呂に入る

 目を覚ますと既に明るくなっている

 起き上がり周りを見る

 いつも寝ている部屋と違うとボーと思っているとハッとする

 昨日、時間的に今日なのだが、その出来事を思い出す


 ……そうだここって先代の王様の部屋だ


 直ぐにベットから降りる

 服は昨日着ていた服のまま

 起きた後、どうすればいいかとあたふたとする


 ……取り敢えず部屋を出て……出て……レオナルドさんを訪ねる? いや迷惑じゃ……


 そう考えて部屋の中をウロウロしていると扉が叩かれる

 ビクッと身を震わせるがただのノックのようだ


「アナスタシア様、入ってもよろしいでしょうか?」

「あっ、はいどうぞ!」


 返答する

 すると扉が開き中にメイドが入ってくる


「失礼します……どうかなさいましたか?」


 部屋の中で何もせず突っ立ってる私を見て首を傾げている


「あっ、いや何もありません」

「そうですか。レオナルド様に命じられ服を御用意致しました」


 ガラガラと音を立てて服を掛けてあるハンガーラックを持ってくる

 半分は装飾が派手な服、半分は装飾が抑え目な服


「どれに致しますか?」

「ええっと……」


 いつまでもボロボロの服なのは困ると思っていたが私の今までの境遇のせいで高そうな服が並び選ぶのすら烏滸おこがましいと思ってしまう


「一度着てみるのも良いですよ?」

「い、いえ、大丈夫です。……でしたらこれを着ます」


 装飾が少ない服の中でも目立たないような色の服を選択する

 メイドは頷く


「分かりました。それでは着替えを手伝わせて頂きます」

「え!? 1人で着れます」


 誰かに着替えを手伝って貰うのに抵抗がある

 貴族だが私は手伝って貰った事の記憶が無い

 有っても昔なのだろう


「これもメイドの仕事ですので」


 そう言ってメイドは私の着替えを行う

 メイドは素早く丁寧に服を脱がせる

 質素な下着が露わになる

 貴族の令嬢らしくも無いだろう、普段身につけている服自体適当に見繕われた物ばかり


「聖女様は貴族の筈……いえ、境遇のせいですね」


 小声で何かを言っているが聞き取れない


「……昨日風呂に入られていませんね」

「あっ、そうですね。昨日は色々とありましたので」


 昨日体拭きをするタイミングが無かった

 本来なら夜に行うがその前に森に捨てられた

 まぁ彼女の言う風呂自体は最後に入ったのがいつか覚えてすらいないのだけど


 ……風呂自体私は入れてないからなぁ


 殆ど部屋を出ていない上嫌われていた私は使用人が用意する道具で体を拭いていた


「それでは先に風呂に入りましょう。服は一先ず別の服で、案内します」


 素早く着させられ浴室に案内される

 魔法で身体能力を高める

 王様や極一部の人しか使えない大きな風呂に案内される

 浴室の前の部屋で服を脱がされ中に通される

 浴槽は大きく豪華絢爛な装飾に目が痛くなる

 私達以外に人は居ない、貸し切り状態


 ……目に優しくない。まさか風呂にまで入れるとは……


「体を洗わせて頂きます」


 バスタオルを体に巻いたメイドが身体を洗う道具を手に取り小型の椅子に私を座らせる


「隅々まで綺麗にさせて頂きます」


 手馴れた動きで素早く丁寧に仕事を終える

 肌を傷付けないような丁寧な仕事、着替えの際といいプロだと分かる

 2人で湯船に浸かる

 丁度良い温度、身体の中まで温まるのを感じる


「申し遅れました。私はエルリカと申します」

「私はアナスタシア・ティロス、聖女です」

「存じております。貴女様の事を王直々に世話するように命じられておりますのでなんなりとご命令を、それと敬語はお辞め下さい。立場ははっきりとされた方がよろしいです」


 位の高い者が下の者に敬語を使う事は無い

 特に聖女はそこらの貴族など比では無い程の位の存在

 言われた通り敬語を辞める


「……私を聖女と認めているの?」

「私が認めるも何も聖女の魔法を扱える方は聖女です」

「そう」

「この後、少ししたら昼食の時間になりますので食堂に案内致します」

「食堂?」

「はい、王様とレオナルド様も御一緒に取られるとの事です」

「え!?」


 2人と同じ所で食事を取るなんて普通有り得ない

 緊張で喉に通らないかも知れない

 昨日かなり自分勝手に動いた……その事を咎められるかも知れない

 今更になって心配になってくる


「お話があるそうです」

「お話……」


 ここで私は確信する

 昨日、何か粗相をしたなと

 2人が寛大だっただけで今になって思うに態度が良くなかったと思えてくる

 表情に出ていたのかエルリカはクスッと笑う


「御心配無くお2人はただ貴女様を心配しているだけですので」

「そ、そうなんだ……それは良かった」


 少し経った後湯船から上がり身体を拭く


「代わりの下着も用意しております」

「えっ」

「聖女様ならば中もしっかり着飾らないと、見せる見せないは貴女様の自由ですが」


 選んだ服を着させられる

 その後時間があるので部屋に戻る

 移動中何人かのメイドに遭遇するが陰口を言うような行動、聞こえる悪口などは言われていない


「2人と食事で驚いたけど昼まで寝てたんだ私」


 朝なら朝食と言う所を昼食と言っていた

 つまり今は昼に近い時間


「そのようですね。それ程までにお疲れだったのでしょう。軽くしか聞いておりませんが昨日は大変だったと」

「本当に大変だった……けど悪い事だけじゃなかった」


 家族に捨てられたし魔物に襲われて死にかけたし散々ではあったがそのお陰か私の力は強くなった

 そしてあの家から出られた、そう考えれば感謝の気持ちすらある


「良くも悪くも運命を変えた日ですね」

「……運命……そうだね」

「そろそろ昼食の時間になりますので御案内します」


 食堂に案内される

 大きな長机に大人数が座れる椅子

 そこらの貴族とは規模が違う

 まだ誰も来ていないようだ

 そして指定があるらしくその席に向かう

 そこは王様が座る席の隣の席


 ……なんで!?


「ここ?」

「はい、遠いと話しづらいとの事で」

「それはそうだけど……ここは近過ぎない?」

「近いですね。本来なら奥様などが座られる席です。最も現王は独身なので何の問題有りません」


 エルリカは私の後ろで待機する

 2人が来るのを待つ

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