病弱聖女は生を勝ち取る
代永 並木
病弱聖女は森に捨てられる
ゴホゴホと咳をする
口に覆っていた手のひらにはベッタリ血が付いている
私は不治の病を患っている
既に長くないと医者に言われ持っても後2年だと言う
今の私の年齢は16、2年となると20歳まで生きられない
寧ろここまで生きられただけ良いと思っている、後は死を待つだけ
ここに希望は無い
ノックも無しに扉が開かれ声が聞こえる
「仕事だ早くしろ」
「わ、分かりました」
いつもの流れ、ゆっくりとベットから降りる
立ち上がるが力が上手く入らず体勢を崩す
「あっ……痛い……」
そのまま前に倒れ地面に頭を打つ
かなり強く頭を打ったようでジンジン痛む
「何をしてる。早く立て、その程度に魔力は使うなよ」
厳しい言葉を掛ける人物は私の父に当たる人物
血の繋がった親子だが優しい言葉など最後に聞いたのはいつだろうか、もうその言葉すら覚えていない
「は、はい、すみません」
ゆっくりと立ち上がり部屋の外に出て父の案内の元、部屋に向かって歩く
よろめくが転ぶのを耐えて歩く
病気のせいで殆ど部屋の外に出られなかった事もあり体力も少なく少し歩くだけでも息が切れる
歩くのも上手くない
父はそんな私を見て舌打ちをする
「お前は本当に役に立たないな。お前に比べてヒナは優秀だ」
また始まった、いつも両親は私を下げて妹を上げる
それも私の目の前でわざとらしく言う
ヒナとは私の妹に当たる人物
私と違い人当たりがよく元気で活発な美少女、人気者でもある
両親、兄弟は皆ヒナの事を愛している
それだけでなく周囲の人々もヒナを嫌っている話は聞かない
「そうですね。ヒナはとても優秀です」
肯定する、合わせる為の嘘では無い
実際魔力量も私より多く治癒魔法の才も優れている
私とヒナは同じく聖女と呼ばれているがその実力は圧倒的な差があると言われている
私と違いヒナが優秀なのは間違いない
「着いたぞ」
父はある部屋の前で止まる
父の案内など要らないくらい何度も来た事がある部屋
深呼吸をする
「何してる。早く行け」
「はい」
部屋に入るとそこには多くの怪我人が居た
ここは怪我をした兵士が治療を受ける部屋でここが私の仕事場
「遅い!」
待機していた兵士の1人に怒られる
私がモタモタしていたからかなり待たされていたのだろう
「すみません」
「早く治癒魔法を」
「早くして」
「早く訓練に戻らないとダメなんだよ」
「姉妹でもこう違うか」
「ヒナ様は優秀だ。比べるのは失礼だろ」
「それもそうだな」
兵士達は私を嘲笑い罵倒する
いつもの事、今更何も思いはしない
兵士達はヒナの信者なケースが多い
その為、同じ聖女で無能な私を嫌う者は多い
早く仕事を終わらせる為に部屋の中心に行く
聖女の魔法は普通の魔法とは異なり高い治癒能力を持つ
その為こうやって怪我した兵士達を集めて纏めて治療する
聖女の治癒魔法はその分魔力の使用量が多い
傷だらけの兵士に治癒魔法を掛ける
……この程度の怪我、安静にすれば治る
傷を見るが深い傷を負った人物は居ない
私の力は認められておらず軽い怪我をした人の治療のみを担当している
聖女の治癒魔法を使わずとも問題ないような傷
「ヒール」
部屋中の兵士達に治癒魔法を掛ける
みるみるうちに傷が治っていく
全員を治しきった後、私は膝をつく
治癒魔法を一度使うだけで所有している魔力量の殆どを使い肉体に負荷がかかる
「お、終わりました」
「遅せぇよ」
「この程度の怪我で疲れるのか」
「本当に同じ聖女か?」
悪態を付かれ小突かれる
殆ど役に立てていないから仕方がない
兵士達は戦場に出ていたり普段も様々な仕事をしている
この程度の怪我の治療に時間を取られたくなかったのだろう
「仕事は終わりだ。とっとと部屋に戻れ」
「はい」
父に言われ立ち上がり自分の部屋に戻る
机に食事が置かれている、見るからに質素
私の家は裕福な部類に入り他の家族は良い物を食べている
私だけ部屋で質素な食事を取っている
触れずとも分かる、既に冷えている
美味しくないが文句を言わずに食べる、食べないと怒られる
質素なのはいつもの事でもう慣れている。食の楽しみなんて覚えていない
食事が終わった後、眠気に襲われる
……疲れたのかな? 何か変だけど……
違和感を感じるが眠くなり頭が回らない
意識が朦朧としてきて意識を失う
どのくらい時間が経ったか分からないが揺れを感じて目を覚ます
私の部屋で揺れなんて殆ど感じる事は無い
「う、うーん?」
目を開くと見知らぬ景色が目に映る
木組みの布の天井、起き上がって周りを見渡す
「ここは……馬車? それも動いて……」
馬車の荷車に乗っていると分かる
起きてからも揺れを感じる
この馬車は今動いているのだと分かる
寝たのは自分の部屋だったとしっかり覚えている
少なくともこのような場所ではなかった
寝ている間に部屋から馬車に寝床が変わったと言う可能性は否めないけど
「ちっ、目が覚めたか」
「めんどくせぇ、この辺でもう捨てるか」
「そうだなぁ、そろそろ魔物が出てくるかもしれないしな」
「そんじゃさっさとやるか。魔物出たら不味いし」
布の先から声が聞こえる。男性2人の声だと分かる
突然大きな揺れを起こして馬車は動きを止める
体勢を維持出来ず転がり頭を打つ
「痛い……何が……」
全く状況が掴めない
なんで馬車で運ばれているのか
そう考えていると布の扉が開かれる
そこには男性が2人、それも兵士の格好をしている
「大人しくしろよ」
「何が……」
「お前は捨てられた。それだけだ」
「私は捨てられた……」
私は役に立たないと言われていた
けれど捨てられるとは思っていなかった
どうせ短い命、聖女として治癒魔法を使わされてすぐに死ぬのだと思っていた
聖女としては少しでも役には立っていたと思っていた
兵士の1人に強い力で腕を引っ張られる
「や、やめて……離して!」
抵抗しようにも力のない私では叶わない、そのまま引っ張られる
「大人しくしろ」
兵士の1人が剣を抜いて腹に剣を刺される
激痛が走る
私は激痛に叫ぶ
傷から大量の血が流れる
……や、やばい死ぬ……治療を早くしないと……
このままでは死ぬと思い治癒魔法を掛けようとするが止められ馬車から引き摺り下ろされた後、森の中に放り投げられる
背の低い木の枝や草が身体に傷を付け傷口に触る
「少しぐらい遊ぶつもりだったんだがな」
「お前が刺したんだろうが」
「抵抗しててウザかったからな」
兵士達が喋りながら馬車に乗る
「待って……助けて……」
声を上げようとすると腹が痛み大きな声があげられない
無情にも馬車が走り去っていく音だけが聞こえる
私は1人森の中に残された
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