病弱聖女は悪魔を討ち滅ぼす

「君達は」


 女性の方は見覚えがあった

 先程アルトと激闘を繰り広げていたシスター

 男性の方の顔は見覚えがないけど一緒に現れたのならレオナルドさんと戦った聖騎士かなと思う

 男性が加勢と言った、なら味方と考えるべきか

 いやでも先程戦った相手信用していい物か


「少女よ支援は必要無い。信用の必要も無い」

「え?」

「我々はただ我々の為に動く」


 2人は自分自身で支援魔法を掛けているようだ

 そして触手に攻撃を仕掛けている


「どうすりゃいい!」

「我々は触手を捌く、既に手はあるようだからな」


 男性はレオナルドさんの方を見る


「そりゃ楽な仕事だ!」


 シスターは話しながら触手を蹴り飛ばす

 2人が素早く触手を捌く

 アルトと合わせて3人で触手を凌ぐ

 数は増えたが2人は強いレオナルドさんに余裕が出来る、力を握り全力で剣を振るう

 素早く二度振るう


「あれか」

「見えましたか?」

「もう一度試す」

「分かりました」


 光の剣を飛ばして触手を貫く

 もう一度全力で振るう

 そしてレオナルドさんは叫ぶ


「化け物中心部にコアだ」

「破壊します」

「分かりました」


 私は走る、接近して破壊を試みる

 レオナルドさんとアルトが私に続く

 2人は下で近くの触手を切り裂いている


「私は聖女の名を持って悪しき者を拒絶する!」


 走りながら詠唱を始める

 触手を足場にして走る、息が切れるがヒールで無理やり動く

 身体能力を強化した体を酷使する

 触手が襲いかかってくる

 レオナルドさんが前に出て両断して進む


「進め!」

「はい!」


 触手にしがみつき登る

 触手を上を走ってコアのある位置に向かう

 レオナルドさんが再びコアのある付近を大きく切り裂く

 アルトが攻撃してきている触手を切り飛ばす


「聖女の御業は我が声我が命によって顕現する!」


 コアがある位置に近付く


 ……あと少し


 詠唱がもうすぐ終わるこれなら間に合う

 叩き込める

 そう思った瞬間、身体が空に浮く

 私が足場にしていた触手を化け物が自ら自切した


 ……自切……


 落下する

 このまま地面に叩き付けられれば死ぬ

 詠唱は完了し後は名を呼べばいい、あと少しなのに届かない

 自分の意思とは真逆に遠ざかっていく


「アナスタシア様! クッソ退け!」

「アナスタシア!」


 アルトは自分に襲いかかる触手の対応に追われてこちらに来れない

 レオナルドさんは触手を切り裂いて私の元へ向かってくれているが落下の速度の方が早い

 間に合わない


「作戦失敗か」

「ちっ」


 私は考える

 落下中ずっと考える

 何をすればいい、どうすれば助かる、どうすれば倒せる

 頭の中を動かし続ける

 ここで諦めるのは聖女じゃない!

 今ある情報を整理する

 レオナルドさんとアルトの2人は届かない

 なら他には……下に教会の2人が居る

 信用出来ない、いや信用できるかどうかなんて些細な事

 彼らの戦い方は知っている


「命を捧ぐ者に聖女は力を貸す戦聖女の声ベル・フェルース


 私は詠唱を止めて別の詠唱を始める

 支援系魔法を私とシスターに掛ける

 シスターに掛けられている魔法を上書きした


「魔法?」

「私を全力で蹴り飛ばして!」


 敵だからこそ頼める事、彼女は戦闘狂気質の人間なら私の考え通りに行動してくれるはず


「はっ! なら遠慮なく!」


 即答、笑みを浮かべている

 シスターは地を蹴り飛び上がる

 そして全力で私の背中を蹴り上げる

 格闘戦を得意とするほどに元々高い身体能力に聖女の支援魔法が掛かった

 その一撃は人の肉体など余裕で砕き吹き飛ばす


「くたばんなよ!」


 堪えるために目を閉じ歯を食いしばる

 身体をヒールで治して耐える

 骨の軋む音、内臓が潰れた音が激痛を呼ぶ

 痛みを堪えて蹴り飛ばされる

 高く飛ばされた私は目を開ける

 コアのある部位の目の前まで私は届く


 ……これなら!


 止めていた魔法を発動させる

 ここまで来れたら充分

 後は叩き込むだけ


聖女の洗礼ネル・リヌワール


 光が化け物一部を包み消し去る

 光が消えた後、化け物に大きな穴が現れる

 先程確認出来たコアの位置をしっかり消せた

 その穴は再生する事は無く傷口からドロドロと溶けていく

 触手の動きも止まっている、無事コアを破壊出来たようだ

 私はまた落下する

 今度は焦りは無い


「無理をするものだ」

「確かにだいぶ無理をしました。でも何とかなりました」


 優しく抱えられる

 レオナルドさんが見事にキャッチして綺麗に着地する

 アルトも化け物から降りて合流する

 私もレオナルドさんから降りる


「なんて無茶を」

「必要だったから」

「にしても他にもやりようが」

「……あれが最善かなって」

「確かにあれ以外の手を私も考えられん」

「助けに行けず申し訳御座いませんでした」


 アルトが頭を下げる

 あの場では仕方ない、あの状況では助けに行こうにも行けない

 私の無茶に付き合ってくれて充分な働きをしていた

 責める気は無い


「あれは完全に想定外だから仕方ないよ。まさか自切するなんて」

「次は警戒しておきます」

「見事だ」


 声を掛けられ振り返ると聖騎士とシスターの2人が立っていた

 今の2人に敵意は無いように見える


「面白いな! 覚悟もある。戦聖女みてぇだな」


 シスターが私に近付いて興奮気味に話してくる

 物凄く顔が近い、接触してしまいそうなほど近い

 突如シスターの顔が離れる

 首根っこを掴んだ聖騎士が引っ張ったようだ


「こいつは戦闘の事になるといつもこうなる。済まないな」

「アナスタシアはれっきとした聖女だ」

「あぁ、支援魔法を受けた時に理解した。あれは間違いなく聖女の魔法だ」


 そのつもりは無かったが支援系魔法をシスターに使って上書きしたのが功を奏したようだ


「認めるのか。異端者呼びしていたくせに」

「お前らは教会の敵だったからな。教会の敵は大体異端者だろ」

「あれほどの治癒、聖女の中でも数が少ない。これほどの力のある聖女を何故」


 彼女達は呼び出された時点で教会と敵対していた

 敵対していたから出てきたとも言える

 詳しい事情も知らなかったのだろう


「ところで司教様は」

「化け物に呑み込まれた後は知らん」

「そうか」

「聖女と認めるのか?」

「少なくとも我々は認めよう。しかし、あれは教会の総意だ。他の教会が認めるかはわからん」


 教会はここ1つじゃない、他に2箇所ある

 総意となれば彼らも敵


 ……力はもう見せたから後は交渉出来ないかな


 殴り込みも良いが穏便な解決をしないとわだかまりは残るだろう

 まぁもう充分に関係に修復不可能な溝は出来ていそうだけど

 正直もう私も教会に手を借りるつもりは無い

 無いと不便だが無くてはならないとは思わない

 ただ敵対していると何があるか分からないそれをケアしたい


「一介のシスターと聖騎士に過ぎないからな。口添えした所で意味は無い」

「……ここの教会だけでもって事は?」

「……司教様が死んだとしてもすぐに新たな代行者が来る。だが我々なら協力出来る」

「それは2人と言う事か?」

「いや、戦った奴の大半だな。一部はまだ認めてないだろうが」


 聖女の力を存分に示した、信じてもおかしくない

 協力が出来るならそれに越した事は無い

 戦った甲斐があった


「なら裏で取引しよう」

「良いぜ」

「わかった」


 手を出して握手を求めると聖騎士の男性が手を取る

 これで協力関係を結んだ

 聖騎士、シスターの2人とは別れる

 既に化け物は溶け切って跡形もなく消えている


 ……跡形も無く消えた……


 戦いが終わったと思い気を抜くとどっと疲れが来る

 慣れてない長時間移動と戦闘、身体への負荷の疲れが緊張状態で溜まっていたのだろう

 まさか化け物と戦う事になるとは思わなかった


「ところであの化け物は魔物ですか?」

「どうだろうな。あのような魔物は聞いた事がない」

「俺も聞いた事ないですね」

「そうなんですね」


 アーティファクトから出てきた化け物

 あのアーティファクトから召喚されたのか封印されたのか分からないけどどちらにしろ危険な代物


「あのアーティファクトはどうします?」

「探す予定だ。あれは危険な物だ。封印する」

「ですね」


 疲れた身体に鞭打ってアーティファクトを捜索する

 時間は掛かったが瓦礫の下からアルトが無傷の真っ白な箱を見つける


「白い箱ありました!」


 その姿を見ていた私が確認する

 間違いなくあの化け物が出てきた箱だ

 箱は閉じている


「これが出てきた箱」

「こんな小さい箱から……」

「見つかったか」


 危険な代物だから一番実力のある人が持つべきと思い箱を渡す


「なら城に戻るぞ」

「今日は疲れました」

「確かに凄い疲れました」


 私達は城に帰る

 私は軽く咳き込む

 若干違和感を感じて手元を見ると手に血が付いている

 手を握り血を隠す

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