病弱聖女は実験の成果を知る

 普段は魔力操作の特訓をしてその成果を偶に確認しに来るヒナに見せる

 数日経ったが今はまだ4個しか保てないそれもヒナのような綺麗な球形では無い


「4個、良いペースだよ」

「そうなの?」

「普通の人は5個で半年かかるんだって、だからお姉ちゃん早いよ」

「そうなんだ」


 ヒナは褒めて伸ばすタイプのようで物凄く優しい

 少し会話をしてヒナは仕事に戻っていく


「5個で半年か」

「どうしました?」

「いや、何でもない。どこか行くか?」

「今日は研究室に1週間の経過が終わった頃だと思うので」

「なら研究所まで送ろう」


 研究室に行くと前に回収した魔物の素材を解体して液体をかけて確認している

 厳重な装備をしている、危険な物なのだろうか


「アカリさん何を?」

「反応を確認してたんだよ」


 器具を置いて実験を辞めて私の方を見る


「それと魔物の素材感謝する。あれだけあれば色々な実験を試せるし魔物の素材は良い効果を得られるようだからな」


 アカリさんは笑みを浮かべている

 魔物の素材は入手が難しいと言っていたからこの量が手に入って嬉しいのだろう


 ……やっぱ凄い美人


 総力戦で倒した魔物の特に私が倒したゴーレム2体と百足の魔物の素材の一部を優先的に研究室に回して貰った

 私が倒したので文句は出なかったようだ

 最も必要な部位だけで残りの素材は他の研究や別の用途に使われるらしい


 ……結構回収したから足りると思いたい。あの百足に関しては一部消し去ったけど


「あの戦いで倒したので」

「あぁ、ゴーレムに関しては一撃だったらしいな。それで1つ分かった事がある」

「経過の件ですか」

「……経過確認の方は失敗だ。悪くない効果は出たけど特効薬になれる程の効果は無い」

「……そうですか」


 そう簡単には見つからないと考えてはいたがショックはある

 成功すればそれだけ早く人を救える


「だが成果が何も無かった訳じゃない。その話には続きがある」

「本当ですか!」

「あぁ」


 それは間違いない成果

 研究が一歩先に進めたという事、これは大きい一歩


「これで成果は得た。次の予算会議の時に増やして貰えるだろう。それでその成果なのだが」

「はい」

「魔物の素材を研究していたところ、魔物の体にある成分の1つが使える可能性が出てきた」

「魔物の成分ですか? それは魔物以外には?」

「魔物以外には無い物、魔素だ」

「魔素って確か魔物が持つ魔力ですよね」


 魔物の身体の中で変容した魔力が魔素

 正確には魔力ではなくマナらしいけど私はそこに詳しくない

 魔素は他の生物や鉱石には無い、魔物にだけ存在する物


「そうだ、その魔素が使える。あくまで可能性だけどね」

「でも魔素は毒ですよね?」


 人や他の生物には魔素は猛毒となる

 それを過剰に取り込むと死んでしまう

 多少であれば死ぬ事は無いが毒は毒、危険な事には変わりない


「もちろん、魔素をただ取り込むのではなく他の薬剤や成分で上手く調整して毒を出来る限り排除した状態、純マナに少し近付けてからだから、その実験は時間は掛かるがいずれ出来るだろう」

「成程、それで必要な魔物の素材は?」

「……それがな」


 急に表情が曇る


「まだ試してみないと分からないが恐らくだが特効薬に使えるレベルの高濃度魔素の持ち主は少なくともゴーレムやサンドワームよりも強い魔物だ」


 あの2種よりも強い魔物

 サンドワームは恐らく百足の事を言っているのだろう

 あれより強いとなると倒すのは難しいかも知れない


 ……私なら倒せるかな


 正直に言うとこの2体は楽に倒せた

 この2体以上と言ってもそこまで強い訳でも無ければ倒せる可能性は充分にある

 他の人が倒した魔物では素材がこちらまで回ってくるか分からない


「魔物の種類は」

「何種類か居るが高濃度魔素を持っていれば多分大丈夫だ」

「なら私が行きます」

「無茶だ! 活躍は知っている。だが危険だ。高濃度魔素を持つ魔物は強い。あの2体が比では無い程だ!」


 アカリさんは必死に私を止める

 それだけ危険なのだろう

 ここまで言われると少し意思が揺らぐ

 だけど私が倒せば確実に素材が使える


「……それでも必要なんですよね?」

「少なくともあれば研究は大きく進むだろう」

「なら迷う必要が無いです! 私が行けば素材は確実に手に入ります」


 素材を確実に得る

 それが私の考える最善

 アカリさんの言う通り今の私では叶わないかも知れない、だけど諦めるにはまだ早い

 自分がやれる事を考える


「何度でも言うが危険だ」

「ただ」

「ただ?」

「今の私では確かに危険かもしれません。戦闘経験も少ない、聖女の魔法に頼りきりで技術力の無い私では」


 ヒナに教わってから未熟さを痛感した

 無理やり行って私が死んだら意味が無い、確実に倒して素材を回収して戻らないと無駄になる


「技術がどうかは私には分からないが危険なのはそうだな」

「なので強くなってから挑みます」


 だから考えた、まだ私は挑まない

 先に実力を上げて準備も万端にする


「恐らく時間は掛かりますが準備も整えて強くなってから素材を取りに行きます」

「それなら……いや……意思は揺るがないよね」


 そう易々とOKは出せないのだろうが若干諦めているようだ

 ここを押し切る


「揺るぎません」

「分かった、でも強くなってからだからな! 絶対に、後1人では行かない事!」

「はい」


 ……絶対強くなる。最低限ヒナに認められるくらいの技術とレオナルドさんに認められる実力を得てから、それまでは行かない


 やる事を決めた

 後は達成する為に動く、強い意志で決める

 出来ていないのに動く事はしない

 焦る気持ちはあるが抑える


「実験もします」

「実験は偶に来てくれればいい。もう充分な働きをしてくれている」

「……分かりました。一先ず訓練に集中します」

「実験も戦闘も同じだ。絶対に焦るなよ。焦りは愚行を招く」

「肝に銘じておきます」


 実験室を出て1人で城に戻り訓練を再開する

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