第002匙 カレー海に漂う白き船、船員は豚で乗客は夏野菜:東京カレー屋名店会(有楽町)
JRの「東京駅」を右手に見ながら、ただひたすらに、千代田区の右辺たる「外堀通り」沿いに歩を進めてゆくと、やがて、〈銀座・有楽町エリア〉に辿り着く。それから、JR「有楽町」の方に右折すると、そこに、「ITOCiA(イトシア)」というビルが在って、その地下一階が〈フード・アベニュー〉になっており、その料理店街の中に、カレー専門店「東京カレー屋名店会」(以下「名店会」と略記)が入っている。
名店会は、「共栄堂」「エチオピア」「デリー」といった東京都内の幾つかのカレーの名店が集い、直接、それぞれの店に赴かなくても、名店会の店舗で、参与店のカレーが食べられる、というコンセプトの店である。また、「2種盛り」「3種盛り」、さらには、「5種盛り」といったように、一度に幾つもの名店のカレーが食べられる、そんなコラボメニューさえ有るのだ。
実は、書き手には、〈カレー・スタンプラリー〉を題材にした『カレイなる日々』という、このエッセイ以外にも、スタンプラリー以外のカレー体験を題材とした、『カレイなる巡礼』という随筆もあって、その中で、「名店会」の「5種盛りカレー」を構成しているカレーの一つ一つを〈直接〉店で食べる、という企画を行った事もある。つまり、過去二回のスタンプラリーでの訪店以外にも、何度か「名店会」さんにお邪魔している分けなのだ。
さて、「有楽町イトシア」では、二〇二四年八月一日現在、「Coolになろう! Delicious Summer」という「夏のグルメフェア」が、七月十二日から八月二十五日までの約一か月半の間もよおされていて、イトシアに入っている各レストランは、例えば、「冷や汁」「冷麺」「冷製ポモドーロ」「冷やしフォー」「冷やし(……)担々麺」「冷製明太子」など、〈冷やし〉〈冷製〉〈冷〉という語を使った、涼しげなメニューを提供している。そして、「カレー屋名店会」が、この夏限定企画において供しているのが「豚バラ肉と夏野菜カレー」なのだ。
書き手は、東京駅から有楽町駅までの道すがら、今日は何を頼もうか、「5店盛りコラボ」を名店会で頼もうか、それとも、名店会のオリジナル・メニューにしようか、あるいは、レトルト以外では、この店でしか食べられない「東京スリランカ チキンカレー」にしようかなどと、色々悩んでいたのだが、店の入り口付近に貼ってあったポスターを一目見た瞬間、夏の時期にしか食べられない〈限定〉の二文字に秒で〈落〉とされてしまい、結局、件の夏限定カレーを選んでしまったのだった。
注文してからおよそ十分後に、例の夏野菜のカレーが提供された。
ところで、その参与店のカレーの多く同様に、名店会のカレーは、カレーとライスが別容器のカレー・ライス・スタイルで提供される品が多いのだが、この夏限定カレーは、名店会にしては珍しく、ワンプレート・スタイルの〈ライス・カレー〉であった。
ポスターの写真では、白い円形の皿の中央に、白米がまるで島のように存在していたのだが、実際に、書き手の前に置かれた皿中の白米は、島というよりも〈舟形〉であった。
そして、白米製の舟の上に、夏野菜と茹で卵、そして豚バラ肉が載せられていたのだが、ここで注意したいのは、具材には全くカレーが掛かっていなかった点だ。
つまり、その具材を載せた白米は、そう、まるで海のようなカレーによって取り囲まれていたのである。
カレーの海に漂う舟、その上に居るのは、こう言ってよければ、豚の船員や夏野菜の乗客で、そう、まず形が面白いのだ。
書き手は、その〈カレー海〉のカレー水を一匙掬って、口に運んでみた。その辛さは、いたってシンプルで、ほぼ辛さは感じず、ピリ辛程度であった。もしかしたら、限定カレーは。カレー・ラヴァーの客というよりも、イトシアを訪れる普通のお客さんを想定注文者にしているのかもしれない。
そして、カレー舟上の夏野菜は、オクラやナスで、もちろん、それらを、何も付けずにそのまま食べる事も可能で、書き手は、うち半分はそのまま食した。
だが、そもそもの話、このワンプレートはライス・カレーだ。具材の半分は、言わずもがな、白米の舟上から、ドボンとカレーの海に落として、カレー水に十分に浸してから口に運んだのであった。
さてさて、なるほどたしかに、名店会では、その参与店のコラボカレーや、あるいは、「東京スリランカ チキンカレー」を注文するのが、ここのカレーの主筋かもしれないが、『イトシア』の企画で、期間限定のメニューが提供されている時には、脇道に入って、その時期にしか食べられないカレーを楽しむのも、〈いとをかし〉、もとい、〈いとおいし〉なのではなかろうか。
〈訪問データ〉
東京カレー屋名店会:有楽町
二〇二一年八月一日(木)二十時十五分
豚バラ肉と夏野菜カレー:一一八〇円(現金)
カード02「ミスターカーメン」
〈参考資料〉
『公式ガイドブック』、六十六ページ。
〈WEB〉
「Coolになろう! Delicious Summer」、『有楽町イトシア』、二〇二四年八月六日閲覧。
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