第034匙 トゥルーズ=ロートレックを眺めながら:マルゴ丸の内(東京・丸の内、有楽町)

 書き手のこの日最初の目的地は、JR東京駅の丸の内口側、否むしろ、お隣の有楽町駅の国際フォーラム側と言う方が、より適切かもしれない。

 書き手は、最初は東京駅から店に向かうつもりだったのだが、どうやら有楽町駅からの方が近そうだったので、後者の駅で降車し、国際フォーラムを通り抜けてから、スマフォの地図アプリに目的の料理店名を打ち込んで、ナヴィの指示に従って移動を開始したのであった。


 だが、機械の指示通りに動いてみたものの、料理店がある〈はず〉の場所の周囲をグルグルするだけで、なかなか目的地に辿り着けない。

 そこで、一回落ち着いて、スタンプラリーのマップで場所を確認しよう、と思い立ち、目に止まった中庭のスペースに入った。


 すると、である。

 その中庭内に、書き手の目的地である「マルゴ丸の内」が在ったのだ。

 思わず苦笑が漏れてしまった。

 あんなに歩き回り、目的地までの距離と到着予定時間が変化する事に困惑していたのに、一歩足を踏み入れさえすれば、それで問題は解決だったのである。


 さて、そのスペースというのは「三菱一号館美術館」の中庭で、実は、書き手は、これまで幾度もこの美術館を訪れた事はあったのに、その中庭に在る料理店で食事を取った事はなかった。


 だがそういえば、カレー・ガイドブックの店の紹介ページには、客層は「平日はビジネスマンや美術館ご利用のお客様が中心」と書かれていた。つまりは、この文言は、この料理店が、三菱一号美術館近くに在る事を示唆していたのである。

 さらに、後日、店の公式ホームページを見てみたところ、「緑豊かな中庭とレンガ造りのレトロな雰囲気が素敵な三菱一号館美術館。この非現実的空間にあるのが当店 ワインビストロ マルゴ丸の内です」と書かれており、事前にこれを見てさえいれば、目的地近くの歩道で右往左往する必要もなかったのに、と思いながら、書き手は入店したのであった。

 

 さて、マルゴ丸の内さんは、フランスのビストロの雰囲気を醸し出している店で、当然カレー専門店ではなく、スタンプラリー参加のランチ限定のカレー・メニューは、「エビMAXカレー」だけである。だから、リストを見る事なく、入店と同時に注文を済ませた書き手は、カレーが提供されるまでの間、なんとはなしに視線を窓の外に向けたのであった。


 実は、二〇二四年九月現在、三菱一号館美術館はメンテ中で、外壁にはシートが掛けられていた。

 そう、確かに掛けられていたのだが、それは、無味乾燥なブルー・シートなどではなく、なんと、そのシートには、トゥルーズ=ロートレックの絵がプリントされていたのである。


 トゥルーズ=ロートレックは、十九世紀後半のフランスの画家で、ポスターを芸術の域にまで高めた画家として知られており、その画題は彼が暮らしたモンマルトル界隈の風俗で、日本でも頻繁に彼の展覧会が催されている。


 そして、三菱一号美術館はトゥルーズ=ロートレックの展覧会を何度も行っており、このミュゼがこの画家を好んでいるのは、美術館の外壁に、このフランスの画家の絵が描かれている事からも明らかで、つまるところ、工事の為のカヴァーは、その壁の絵に合わせた粋な仕掛けなのだ。


 そもそも、マルゴ丸の内が在る「丸の内ブリックスクエア」は、フランスの雰囲気を模しており、そこに在るビストロで、トゥルーズ=ロートレックの絵を眺めながら、口に運ぶエビカレーは、そこに、エビのみならず、フランスのエキスも凝縮されているように思えてしまう書き手であった。


〈訪問データ〉

 マルゴ丸の内:東京駅・丸の内口、有楽町

 二〇二四年九月四日(水)十一時半

 海老MAXカレー :一五〇〇円(クレカ) 

 カード34「ブロッケンJr.」


〈参考資料〉

『公式ガイドブック』、七十二ページ。

〈WEB〉二〇二四年九月二十一日閲覧

 「丸の内ブリックスクエア」

 『マルゴ丸の内』

 『三菱一号館美術館』

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