【3-3】リュウ殺しの刀と不本意な弟子入り

「なあ、俺も何か武器が欲しい」


 そう、俺は武器を持っていないのだ。『ある人物』を倒すためには、武器は必要だろう。


「えっ! レンマ君武器持ってなかったの? じゃあ勇者が来た時ってずっと何してたの?」


天使は驚き、俺に純粋な疑問をぶつけてきた。


『何してた』って、あれだよ。戦闘の解説というか、驚き役? ツッコミ的な……。


「レンマは…………、そうね……。場を和やかにしてくれていたわ」


 カルハがフォローしてくれたが、何とも微妙な答えだ。俺、別に和やかにしてないし。


「なんじゃレンマ。武器が欲しいんか? ならリュウが良いもんをやろう」


 リュウはそう言った後、走ってどこかに行ってしまった。


 良いものってなんだろうかと少し期待して待っていると、すぐにリュウは戻ってきた。

 意気揚々と戻ってきた彼女の手には、一本の刀が握られている。

 

 それは刀身の青い綺麗な日本刀だ。

 

「どうじゃレンマ。この刀をお前にやろう」


 ……俺はこの刀を知っている。それは名武将が使っていた刀でも、神話に出てくる有名な剣というわけでもない。

 だが俺は知っている。

 

「なあ、これって最初に会った時、お前に刺さってた刀じゃね?」


「よう覚えとるのう。この刀の威力は保証するぞ。なんせリュウは刺さったけぇなー。致命傷を受けたこの刀は、言うなれば『リュウ殺しの刀』じゃ」


 リュウは、なぜか誇らしげに高笑いしながら刀を振り回している。

 

 『リュウの冒険剣』とか言ってたネーミングセンスなのに、今回の刀は名前かっこいいじゃん。でもその名付け方だと、お前殺されてることになるけど……。

 ……そうか、ゾンビだから死んではいるのか。

 

「本当にもらっていいのか? 近くで見ると、めっちゃ綺麗な刀だな」


 嬉々として刀を受け取ると、天使が俺の手元を覗き込んできた。


「ああっ! それってエンジェちゃんが刺した刀だ! へー、あれって致命傷だったんだー。でも、ドラゴンゾンビが勝手にエンジェちゃんのお菓子を食べたから罰だよ。昔からずっと持ってた大事な刀だけど、欲しいならその刀はレンマ君にあげるー。鞘もあるよー」


「刺さった時点でこれはリュウの刀になっとる。じゃけえ、リュウがレンマにやるんじゃ。それにお前の攻撃なんぞ効いとらん。あの時は刺さってたことに気づかなんだぐらいじゃし、現にリュウは今もピンピン動いとる」


 刀刺したの天使かよ! てか、どんだけこいつら菓子の話で揉めてんだよ。

 

「おっ、おお、二人ともありがとな」


 洋風っぽいこの世界で初めて手に入れた武器が日本刀ってのは……、まあ深く考えないようにしよう。


「それと、この最強の武器もやろう」

 リュウがポケットから何かを取り出した。


 それを受け取ってみたが、何かわからない。

 武器であろうそれは、彼女の髪と同じ空色で指より少し長いぐらいの小さなものだ。どことなくクナイに似ているが、暗器の一種だろうか?


「なあ、これってなんだ?」


「リュウの爪じゃ」


「うわっ!」


 思わず投げ捨ててしまった。なんてもん渡してんだよ。


「こがに凄い武器になんてことするんじゃ! せっかく使いやすいよう加工してやったのに。さては、尊敬するリュウの爪を受け取ることがおこがましくて遠くへ飛ばしたんじゃな。そがに遠慮することはない。お前には見込みがあるけぇ特別にくれてやるだけじゃ。感謝せい」


 彼女は何か勘違いしているようだが、俺が投げたのは単に驚いたからだ。


 いきなり自分の爪を武器として渡すなんてとんでもない奴だ。

 いくら自分の爪が強いからって普通魔物の爪を……魔物? そういえば、ゲームとかで魔物の爪を加工して武器を作るってよくあることだよな。……じゃあこれって普通のことなのか?

 

「ありがとう、リュウ。大切にするよ」


「ドランデッドじゃ。遠慮はいらんぞ。リュウのため存分に戦え」


 お礼を言うとリュウは照れたようにはにかんだ。


「ねえレンマ、私にも見せて。…………どっちも凄く綺麗ね」


「カルハ様、私も見たいです」


 カルハはもらった俺の武器を手に取り、しばらくの間ルーリアと楽しそうに眺めていた。


 初めて会った時、カルハは危険を顧みず命懸けで巨人から俺を守ってくれた。

 

 勇者戦ではほとんど何もできなかったが、今は武器をもらって戦えるようになった。今度は俺が彼女の望みを叶えて恩返しする番だ。

 

 俺はカルハの姿を目に焼き付けて決意を固め、拳を強く握った。

 

 武器をもらってからは、俺の生活にリュウとの戦闘訓練が追加された。

 

「今日もバシバシ稽古するけえ覚悟しとれよ。我が弟子よ」


 リュウは教えるのがよっぽど嬉しいのか、毎日楽しそうに俺に話しかけてくる。

 それと、彼女の中で俺は部下から弟子に昇格した。

 

「流石に今日は疲れたなー」


「もう一セットだけ頑張れ。終わったら今日の晩飯は、お前の好きなもんを作るようにルー子に言うといたる。それに憧れの師であるリュウの必殺技も教えてやろう」


「マジか! それならまだまだやれるぞ、リュウ!」


「ドランデッドじゃ。弟子になったんじゃけえ師のリュウを敬って呼べ。相手の剣に刺さって奪う必殺技と貫手、好きな方を選ばせてやる」


「なんでその二択なんだよ! 刺さる方は技じゃねえし!」


 特訓内容は、傍若無人で自分勝手な彼女からはイメージできないほど、俺のことを考えた丁寧なものだった。

 指導も飴と鞭がうまく使い分けられていて継続しやすく、日に日に強くなっているという実感が湧いてくる。

 

 ここ最近の俺のスケジュールは、朝起きて洋館の掃除。その後、リュウと特訓して昼食。ルーリアと町へ出かけ、帰ってからリュウと再び特訓。食事の準備をして全員揃って夕食を取り、風呂に入った後に就寝というものだ。


 少し前まで普通の高校生だった俺にはかなりハードな特訓だったが、庭で指導される俺に、部屋の窓から手を振ってくれるカルハの姿を見るといくらでも頑張れた。

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