【2-終】勇者戦の果て
「――勇者たち! そこまでです」
突如、上空から現れた天使によって勇者の魔法はかき消された。
ぼんやりとしていた意識が戻ってきた。危うく心が浄化され、誰に対しても優しく接する人生を歩むところだった。……それは別にいいのか。
「な、なぜこのような場所に天使様がおられるのですか?」
勇者と仮面騎士は茫然と天使を見上げている。
「勇者よ。この者たちは私の配下で敵ではありません。今すぐに剣を収めなさい」
天使はいつものふざけた感じではなく、天使らしい慈愛に満ちた態度で話している。
「しかし、この魔物たちは女の子を人質に取り、我々を襲ってきました」
天使は目を見開き、驚いた表情で俺たちを見た。
はい……、人質にしました……。
「それは……試練。そう、私からの試練なのです。本当に貴方が魔王を倒せる者であるかを見極めるため、私の指示で彼らに貴方を襲わせました。人質を取ったのも、魔王軍はそういった卑劣な手段を取るかもしれないので、それを意識しての行動です」
「なるほど。確かに戦闘中にも関わらず、ふざけているとしか思えないほど間抜けなことをしていたような……。緊張感のない変な行動も、本当の魔王軍ではなく試練だったからなのか」
勇者は俺たちをチラリと見た後、納得したのか何度か頷いた。
「理解していただけて良かったです。貴方たちの実力は十分に伝わりました。この先の城に魔王軍の幹部である『堕ちた聖騎士ギグド』がいます。今の貴方たちなら倒せるでしょう」
「ギグド……、お言葉ですが天使様。奴は聖剣を持っているという情報があるだけで、正体を知るものはおらず、元聖騎士と決まったわけではありません。大方、聖剣を卑劣な方法で奪った魔物でしょう。俺は聖騎士だなんて認めない……。天使様からのギグド討伐の命、承りました。必ずや期待に応えてみせます」
「勇者よ、頼みましたよ」
天使は勇者たちに微笑みかけると、スーッと姿を消した。
天使を見送った後、勇者が剣を鞘に収めて俺たちの方へ歩いてきた。
「どうやら君たちのことを誤解していた。天使様の指示を受けているということは、君たちは悪い魔物ではないんだな。俺たちを試すために色々とありがとう。それに怪我をさせてすまなかった。これからは一緒に平和な世界を目指そう」
「私も誤解していた。申し訳ない」
勇者たちが握手を求めてきた。
さっきまで戦っていた相手に対し、こういう行動を取れる所が勇者たる素質なのかもしれない。
「こっちこそ色々と迷惑をかけてごめんな。そうだな、一緒に平和な世界を目指そう」
俺は笑顔で勇者と仮面騎士の握手に応じた。
どうやら勇者が襲ってくるという初見殺しのようなイベントはこれで終わったみたいだ。
「ところで君、俺の剣『勇者の青春の煌めき』を返してくれないか」
俺が安堵していると、勇者がリュウに向かって言った。
言われてみると、リュウは勇者の剣を奪ったままだ。てか、剣の名前ダサくね?
「嫌じゃ。この『勇者リュウの冒険剣』は、もうリュウの物じゃ」
リュウは駄々をこねて剣の返却を拒否した。
こっちの名前もダサくね? こういう場合にどっちも名前がダサいことってあるんだな。
「リュウ、返してあげなさい」
「じゃけど、これはリュウが奪った戦利品じゃし……」
我が儘を言う召喚獣を召喚師が嗜めた。しかし、リュウはそれでも返却を渋っている。
そんな態度を見て、カルハは何か考えているのか少し黙った。
流石のカルハもリュウを叱るのだろうか。
「ちゃんと返したら、後でビスケットあげるから」
先月の焼き菓子盗み食いの罪をなくそうとしているだけだった。
……気にしてたんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます