【2-5】罪人を裁く白き炎
「勇者! あれを使え」
俺が打開策を考えようとしていると仮面騎士が叫んだ。『あれ』ってのがあるのか。
「そうか、あれならあの子を傷つけることなく魔物だけを倒すことができる」
そんな都合の良い『あれ』があるのか……。
指示を受けた勇者は、剣を胸の前に構えて力を集中させた。すると、徐々に剣先に光が集まり、勇者が切っ先をこちらに向けた瞬間、強烈な光が俺たちを覆った。
「うわあああああああああああああああああ! ああ?」
辺り一面が光に包まれた後、すぐに光は収まった。
てっきり何か攻撃を受けたと思って悲鳴を上げたが、ダメージを受けた感覚はない。周囲を見渡しても、誰もダメージを受けている様子はない。
特に何も起こっていないし不発だったのかと思ったが、光が放たれる前と違って、リュウの胸に白い炎が灯っていた。
「リュウ、何だそれ?」
「あ? なんじゃこの炎は? 白い炎とはかっこいいのう」
リュウは白い炎を見て、キラキラと目を輝かせて嬉しそうに笑っている。
「その炎は、誰かから恨まれている者に罰を与えるもの。恨みの有無で炎が灯り、やがて全身を炎が包み消滅させる。体が灰になることで、その者に対する恨みと罪は浄化されるだろう」
はしゃいでいるリュウに対して、勇者は重々しく古文書を読むような口調で説明をした。
見ると、勇者の足元には白い魔法陣が浮かび上がっている。
魔法の発動条件なのかはわからないが、勇者は魔法陣の中心から動かず、仮面騎士がそれを守るように剣を構えている。
「――嫌じゃ! こがなことでリュウだけ消えとうない。レンマ、何とかせい」
さっきまで嬉しそうにしていたリュウだったが、勇者の説明を聞くと顔色を変えて俺に助けを求めてきた。
「まあお前の罪らしいから、ちゃんと償うべきじゃないか?」
カルハの話では、リュウが色々と悪事を働いたことは事実だ。
珍しく弱気になっているし、最終的に助けはするが、少しは彼女自身に罪を反省する時間を設けてやろう。
「そうじゃ! レンマお前、リュウの武勇伝を聞いた時、リュウの首を勇者に差し出すとか言っとったのぉ。そのことでリュウは傷ついた。じゃけえリュウはお前を恨んどる」
リュウが早口で言い終わった後、ボウッと俺の胸に白い炎が灯った。
……えっ? 発動したの?
「おい、なんてことしてくれてんだ!」
「真剣に対策を考えなんだお前が悪い。ほら、お前も当事者になったんじゃけえ、リュウと一緒に消滅せんでもええ方法を考えるぞ」
まずいことになった。リュウを反省させようと少し怖がらせたつもりだったが、巻き添えを食らうとは。
普段なら取り乱す状況だが、そこまで焦る必要はない。
なぜなら俺は、さっきの勇者の説明から、炎を消せるかもしれない方法を一つ思いついているからだ。
勇者の説明を聞く限り、誰かに恨まれていると炎が灯る。つまり、その誰かに許されたのなら白い炎は消えるはずだ。
「こうなったら仕方ない。お互いに謝ろう」
「謝るじゃと? 最後は綺麗に仲良く消滅したいってことか?」
「そうじゃなくて、恨みが原因なら、謝ってその恨みをなかったことにすれば炎は消えるはずだろ?」
「ほー、なるほどのぉ。まあ、それで助かるんならやってやろう」
怪訝な表情を浮かべていたリュウだったが、渋々ながら承諾してくれた。
では早速。
「なあリュウ、全ての責任がお前にあるとか言ってごめんよ。もう首を差し出すとか言わないから許してくれよな」
「おう許すぞ。リュウの方こそ色々と悪かったな。お前はあれじゃ、何かこうー良い奴な気がするぞ。なんせリュウに憧れとるしな。あと、ドランデッドじゃ。」
互いに謝罪し合ったことで、俺の胸から白い光が消えた。
炎が完全に消えたのを見届け、俺とリュウは目を見合わせ、手を取り合ってから勇者を見た。
「どうだ勇者よ!」
「これでリュウたちは、誰からも恨まれとらん清い体となった!」
「「消火」じゃ」
やはり予想通りだった。これで恨みの白い炎は俺たちには効かない。
自慢げに言い放った俺たちを見て、勇者はなぜか呆れた表情でリュウに視線を送った。
「いや、君への恨みは消えてなさそうだけど……」
勇者の指摘通りリュウの炎は消えておらず、寧ろ若干大きくなったようにも見える。
「なんじゃこれ? おいレンマ、まだリュウを恨んどるんか――」
「――いや、単純に色々な人に恨まれているだけなんじゃ……」
荒ぶるリュウに対してルーリアが呟いた。
ルーリアの意見を聞き、リュウは顎に右手を置いて何かを考え始めた。その間、辺りは静寂に包まれた。
「……やっぱなしじゃ。やっぱ許さん」
リュウが俺を見てさらっと言った。
「えっ、お前、何言ってんだ?」
「せっかく謝ってやったのに、レンマの炎だけ消えてリュウだけが消滅するなぞ気に入らん。どうせリュウは恨まれ過ぎて助からんけえ、お前も道連れにしてやる」
「お前、許すってさっき言っただろ! それにもう俺の炎は消えたし、他に恨みを買うようなことしてねえよ」
怒気を強めて詰め寄った俺に向かって、リュウはニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。
「なければ作るだけじゃ。被害妄想だろうとなんだろうとリュウがお前を恨みさえすれば、お前も仲良く白い炎でボウッと消滅じゃ」
「無駄なことはやめろって、そんな無茶苦茶な理論が通用するわけが――」
ボウッと音を鳴らし、俺の胸に白い炎が灯った。……理論、通用しちゃったよ……。
「自分だけ助かろうったってそうはいかんぞ。ざまぁーないのう」
リュウが両手首をカマキリのように曲げ、白目をむいて舌を出して煽ってくる。
「マジでふざけんなよお前! 何してくれてんだよ。なんだ? 何を恨んでんだ? また謝ってやるから早く教えろ」
焦っている俺を見て、リュウは小馬鹿にしたように笑った。
「それが人に謝罪する態度か? 何を恨まれとるか教えてもらわんと気づけん時点で、たとえ謝罪されても誠意が伝わらんのう」
「何を恨まれてるか知らねえんだよ! 被害妄想なんだろ? どうしようもねえじゃん。俺に心当たり全然ないもん」
ニヤニヤとしていたリュウだったが、俺の反論を聞いた直後、打って変わって真剣な表情でこちらを見つめてきた。
リュウの大きな瞳は、全てを見透かしたかのようにあまりに真っすぐと俺を見つめている。
もしかしたら俺は、自分が気づかないうちに彼女を傷付けていたのかもしれない。
「先月……、リュウが楽しみにしとった焼き菓子が食われとった。リュウはそれを許さん――」
「――どんだけしょうもない理由で恨んでんだよ。そもそも俺先月いねえし」
真剣に考えて損した。
「やれやれ、まったく反省しとらんのう。はい、恨み追加」
リュウが指をパッチンと鳴らした瞬間、ボウッと音を立て俺の炎が大きくなった。
なんでこいつ加害者側のくせに白い炎使いこなしてんだよ。
「――ちょっと待って!」
少し声を張り、カルハが俺たちの話に入ってきた。
彼女の胸に炎はない。召喚獣がこんなに暴れているんだ。きっと召喚師としてこいつを止めて炎を消してくれるだろう。
「……あのお菓子を食べたのは……私よ。ごめんなさい」
ボウッとカルハの胸にも白い炎が灯った。何がしたかったんだよ。
真犯人見つかっても俺の炎消えねえし。
「君ら……、仲間なんだよね?」
仲間内で炎を灯し合っている俺たちを見て、勇者が憐れむような目で質問してきた。
「ああ、多分な……」
「よくわからないが、あの子以外の三人に炎が灯ったのは好都合だぞ」
「そうだな。悪しき魔王軍よ。己の罪を後悔し、聖魔法を食らえっ!」
魔法を発動したのか、勇者の放った聖なる光が再び辺り一面を覆いつくした。
なんだこの暖かい光は……、まるで心を洗い流されて体が軽くなった感じだ。
光に包まれて段々と薄れていく意識の中、もし次に目が覚めた時は、人に優しくして生きていこうという気持ちが湧いてきた。
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