【4-1】打ちのめされる真実
【第四章】
次に意識が戻った時、目に入ってきたのは見知った天井だった。
「ここは……」
そう呟いた後、まどろんだ意識がはっきりとしてきた。
ここは洋館の自分の部屋で、俺はそこにあるベッドの上に寝かされている。
「目が覚めましたか?」
心配そうにルーリアが顔を覗き込んできたが、俺は返事をせず周りを見渡した。そこにハルカの姿はない。
しかし、俺が今一番会いたい人物の姿はあった。
俺はふらつきながらも、そいつの元へと足を進める。
「おい、天使。どういうことだ!」
俺は怒気を帯びた口調で、壁際に立って気だるげに羽を触っていた天使に問いかけた。
「何? 何? エンジェちゃん、そんなに迫られても困っちゃうぞ」
天使はいつものおどけた口調で大げさに手をばたつかせ、あたふたと焦った演技をしている。
「どうしたんですかっ? レンマさん、まだ動いちゃダメです!」
ルーリアが慌てて止めに入ろうとしたが、俺は構わず天使に言葉をぶつけた。
「お前らグルだったんだな」
「『グル』って何? エンジェちゃんいきなり言われてもわかんないよー」
天使はなおも、おどけた態度を取っている。
「俺が崖から落ちた時、脳内に響いたのは天使の声だった。あの時、ハルカを助けてくれたのはお前なんだろ? そして、お前は助ける代わりに俺の記憶を奪った」
俺の言葉に天使は動きを止めた。
「じゃあ、なんであの騎士が俺の記憶を持ってんだよ!」
俺が天使に詰め寄ると、さっきまで感情豊かだった彼女の顔から表情がスーッと消え、人形のように不気味な無表情になった。
「……気づいたのね。いや、思い出した……というべきかしら。思い出した時のショックが少ないよう、私も貴方に少しずつカルハとの記憶の映像を『どこかの世界の記憶』として見せていたけど、それはどうやら無駄だったようね」
天使はいつもの砕けた喋り方ではなく、勇者を諭した時と同じで落ち着いた声色で言葉を放っている。
「認めるのか?」
「認めるも何も、初めて会った時に言ったでしょ? 『私は聖なるものの使い』だと」
……こいつ、やっぱりグルだったのか。
彼女の言う『聖なるもの』とは、堕ちた聖騎士ギグド。つまりは、聖騎士ジグロスのことだったのか。
天使の裏切りに俺は怒りで体を震わせ、彼女を鋭く睨みつけた。
「お前がずっと俺たちの情報をあいつに流して、ハルカを連れ戻す機会を――」
「――彼女に関して、私の知っていることを全て話すわ」
俺の言葉を天使は遮った。
いつになく真剣な表情の天使を見て、俺は自身の感情を何とか抑え、話に耳を傾けることにした。
「カルハ……いや、ハルカをこの世界に召喚したのは、私とジグロス。私たちは魔王を倒せる人材を探していた。そこで目を付けたのが、異世界召喚だった。異世界から来た者は、前の世界の経験と願いから、特別な能力を発現することがあるの。レンマ君は、この世界に召喚されるための条件は知っている?」
「ああ、ルーリアから聞いた。今の世界に絶望して、別の世界に行きたいって思った奴がこの世界に召喚されるって」
回答を聞いて、天使は腕を組んで深く頷いた。
「ハルカは才能を持っていた。彼女がまだ小さかった頃、一度この世界に召喚したの。だけど、その時は能力が発現せず、彼女は元の世界に戻った。でも、彼女の肉体はこの世界に馴染み過ぎて、元の世界の空気に対応できないほど弱ってしまったの」
天使の話で、ずっと疑問に思っていたことが解決されていく。
ハルカを召喚したというのは、彼女が天使に会ったと言っていた行方不明になった小学生の時のことだろう。
そして、彼女の性格が変わったことや原因不明の体調不良に悩まされていたのも、こいつらに召喚されたせいだったのか。
「私は苦しむハルカを見て、すぐにでも再召喚しようとしたわ。だけど、彼女はこの世界に来なかった。……貴方がいたからよ。彼女はどんなに辛くても、生活に支障が出るほど体が悪くなっても絶望することなく、貴方がいる世界を選んだ……」
……ハルカが選んだ……。本当にそうなのか?
ハルカが行方不明になったあの時、俺が自分勝手に帰ってきてほしいと願って、嫌がる彼女を無理やり連れ戻したんじゃないのか……?
本当は異世界に行きたいのに、俺の存在が、体調不良で苦しむ彼女を元の世界に縛り付けてしまったんじゃないのか……。
「でも、あの日レンマ君が死んでから、生き残った彼女の精神は不安定になった。そして何かのきっかけで、彼女は再びこの世界に召喚された。以前とは違い、死者を生き返らせるネクロマンサーの能力を持って……」
天使が話した内容は、俺が知らないことばかりだった。
俺のせいでハルカは……。
いや、まだ感情的になってはダメだ。他にも聞かないといけないことがある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます