【1-10】三人そろって四天王。魔王軍にいる天使

 カルハに案内され、二階の通路から一階の大広間に繋がる階段を下った。


 大広間では三人の影が俺たちの到着を待っていた。

 ……あれ? 三人? 四天王って言ってたよな。

 

「揃っているようね。みんな、レンマに自己紹介してあげて」

 大広間に集合している四天王にカルハが声をかけた。

 

 揃ったんだ……。

 どうやら四天王は三人で正解らしい。

 

 なるほど、これが四天王か……。


 一人は全身を赤いローブで覆っている。

 さっき巨人に襲われた時に助けてくれた人だろうか? 口元しか見えないので、どんな姿かまったくわからない。

 

 他の二人は、中学生のくらいに見える魔法使いのような恰好をした少女とお嬢様風の見た目で角と尻尾が……って。

 

「――お前らかよっ! 」


 思わず声が出てしまった。

 三人のうち二人は、すでに名前もわかる知り合いだった。

 

「なんじゃ? そがに大声を出て、まあ良い。リュウの名前はリュウ・ドランデッド。弱い奴にはそれ以外教えん。じゃけど、お前はリュウに憧れとるみたいじゃけえ、特別に『ドランデッド』と呼ぶことを許そう。良かったのう」


 リュウは鋭い歯を見せて笑った。

 どうやら彼女の中で、俺は彼女に憧れているということになっているらしい。

 

「そうか、これからよろしくな。リュウ」


「――ドランデッドじゃ」


 さっき見た巨人との戦いは素直に凄いと思ったが、俺は別に憧れてはいないので彼女の言う通りにする必要はない。

 

 それ以降、リュウは満足したのか口を閉ざしたので、俺はもう一人の知り合いの方へ話しかけようと向かった。

 

 俺が近づくと、ルーリアはペコリと頭を下げた。

 

「レンマさん、さっきは助けていただきありがとうございました。私、また気絶しちゃったみたいで……」


「いやいや、礼なんていいよ。元気になったみたいで良かった」


 頭をあげたルーリアはニコニコと笑っていた。

 やはり彼女と一緒にいると心が安らぐ。

 

 ……だが、何かがおかしい。

 カルハの話では、彼女も魔王軍の一員でこの洋館の四天王とのことだが、とてもそうは見えない。

 

「なあ、俺たちは魔王軍らしいけど、ルーリアは何の魔物なんだ?」


「彼女は人間でこの洋館の参謀よ」

 俺の問いかけに答えたのはカルハだった。

 

「人間? 魔王軍なのに魔物じゃないのか?」

 カルハに言われて再びルーリアを見た。


「……私は人とはうまく馴染めないし……、おばあちゃんがいなくなってから、ここ以外に居場所がないので……。それに幻覚魔法も気味悪がられて……」


 俺の疑問に答えるルーリアの声は徐々に小さくなり、目線も下に落ちていった。

 何気ない一言で、完全に地雷を踏んでしまったようだ。

 

 やばいとは思ったが、何も知らない俺がフォローしても逆効果になる可能性がある。ここは、とりあえず無難に励ましておこう。

「そうか? 幻覚魔法って自分の理想を創れるし、幻想的な魔法だと思うけど――」


 俺が言い終わる前に、ルーリアはバッと顔をあげ、目を輝かせて詰め寄ってきた。

 

 しまった。無難にと思ったはずなのに……、幻覚魔法を褒めることは……。

 

「そうなんです! 幻覚魔法の魅力は創造性であり、使用者はアーティストと言っても過言では――」


「――よし、一緒に頑張ろうな」

 俺は無理やり彼女の言葉を遮った。


 ルーリアは、幻覚魔法のこととなると目の色が変わり熱弁を振るう。

 申し訳ないが、勇者が迫っているこの状況で相手をしている余裕はない。

 

 四天王の二人とやり取りをしたので、残すは後一人だ。


 四天王最後の一人である赤ローブは、怪しく不気味な雰囲気を纏っており、自分から話しかけるにはかなりの勇気がいる。

 

 俺が気になってチラチラと視線を送っていると、そいつは俺の視線に気づいたのかにやりと口元を歪ませて笑った。

 

「やぁーっとこっち見てくれたー」


 最後の四天王は、纏う雰囲気とは正反対の活発とした声を発し、バサーッとローブを脱ぎ捨てた。

 

 ローブの中身は、リュウや俺と同い年ぐらいの長身で美人な巫女さんだった。


 巫女といえば黒髪という暗黙の了解を無視したギャル風の明るく派手な髪色は、本来巫女服とは相容れない組み合わせだが、彼女の幻想的な美しさによって異論を許さないほど完璧に合わさっている。


 ただ、彼女の異質さは、派手な髪色でも洋風っぽいこの世界での和装でもない。背中から生えている真っ白な翼だ。

「天使っ!」


「あー、やっぱりわかっちゃうかー。天使ってバレちゃうかー」

 思わず声が出た俺を見て、天使は嬉しそうにニヤニヤしている。

 

 明らかに一目で天使とわかる見た目だが、本人は隠しているつもりなのだろうか。

 

「この姿では初めましてだよね、レンマ君。私は、エンジェル.(ドット)巫女天使。気軽に『エンジェちゃん』って呼んでね! それか、この中だと一番頼りになるし、年上だからお姉ちゃんでもいいよー。そうだ! 呼び方はお姉ちゃんにしよう。ほらほらー、恥ずかしがらずに呼んでみてよ。せーの、お姉ちゃーん」


「えっ、ああ、ええっと……」

 目の前の人物からもたらされる情報が多すぎて、処理が追い付かない。


 天使といえば、教会のシスターのように誠実で堅実なイメージを持っていた。

 しかし、目の前の天使は軽くふざけた飄々としたテンションで、とても神の使いである天使には見えない。

 

 ……あと名前、特殊過ぎるだろ! なんだよ『ドット巫女天使』って。明らかに偽名だし、ネットアイドルみたいな名前してんな。

 

 他にも天使がなぜ巫女服なのかなど気になることは多いが、俺は一番気になったことをカルハ、ルーリア、リュウの三人に聞いてみた。

 

「なあ、天使ってこういう魔王対勇者みたいな場合は大体勇者側の味方で、俺ら魔王軍の敵なんじゃないのか? なんでここにいるんだ?」


 俺の疑問に対して三人は顔を見合わせる。


「そういえばそうね。なんでかしら?」

「言われてみればそうですよね」

「こがなやつのことなぞ、知りとうもない」

 三人は口々に言った。

 

 なんで誰も天使がいる理由を知らないし気にしてないんだよ。

 明らかにおかしいだろ。

 

「エンジェちゃんは、聖なるものの使いで君たちの味方だよー」


 俺が不信感を持っていることに気づいたのか、天使は両手を前に出し、ハグをする姿勢でヘラヘラと笑っている。


「あのー、あれじゃないですか? 堕天使とか」

 少し考えた後にルーリアが言った。

 

 確かに堕天使が魔物側の味方にいるっていう展開は、色々な作品でも見たことがある。

 

「堕天使なんかと一緒にしないでよ! 堕天使は羽が黒くなるの! ほぉーらエンジェちゃんの羽は真っ白ー」

 天使は自分の羽を摩って見せた。

 

 なるほど、堕天使ではないのか……。じゃあ、結局こいつは何なんだ?

 

「まあいいんじゃないかしら。レンマが言った理論だと、人間のルーリアも勇者側の味方になってしまうわ」


「……確かにな。それもそうか」


 カルハの意見はごもっともだった。それに俺も人間だしな。

 ……あれ、このメンバーって魔物の方が少なくね?

 

 この天使には実際、巨人に襲われた時に助けてもらったし敵ではないのだろう。それに勇者を迎え撃つにあたって戦力は多いほうが良い。

 

 俺はそう都合良く自分に言い聞かせ、改めて天使を見た。


「これからよろしくな、天使」


「お姉ちゃんでいいのに……。それに、エンジェちゃんはずっとレンマ君の味方だよー」


 天使は俺に向かってウインクをした。どうにも掴みどころのない天使だ。

 

 それにしても、このメンバーで勇者と戦うのか……正直不安しかない。

 全員個性が強すぎて、紹介を受けるだけでどっと疲れた。

 

 俺は近くの椅子に座って一息ついた。


 異世界に来てすぐに看板の道をぐるぐる歩き、巨人に襲われ、今ようやく落ち着けた。

 

 かなり疲れているのだろう。椅子に深く腰を掛けてリラックスした途端に瞼が重たくなってきた。それに、少しうとうとして欠伸も出てくる。

 

 四人は何か話しているみたいだし、彼女たちが話し終わるまで少し休憩しよう。


 そう思って、落ちてくる瞼を受け入れた。

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