【2-1】勇者対策会議

【第二章】


「よし、勇者を迎え撃つにあたって、こっち側の戦力を確認するぞ」


 大広間に集まった四天王とカルハに声をかけた。


 俺はこの世界に来たばかりだ。勇者を撃退してほしいというのであれば、状況把握も兼ねて自分たちができることを知っておく必要がある。


「まずは攻撃役だが」


「そがなことリュウに任せておけ」

 リュウが天高く拳を振り上げた。


 巨人との戦いを見る限り、攻撃力はかなりあると思うし異論はない。

 勇者とはリュウを軸にして戦おう。


「よし、次に回復はどうだ? 誰か回復魔法とか使えるのか?」


 ここは異世界でルーリアは幻覚魔法を使っている。それなら回復魔法があってもおかしくはないだろう。


「回復なんて……、それは無意味な質問だわ」


俺の質問をカルハは鼻で笑い、涼しげな表情で手を挙げた。


「おおっ、カルハが使えるのか」


「私はネクロマンサーよ? もし死んでしまったとしても私が生き返らせるわ。その後は回復なんて必要なくなる――」


「誰かー、死ぬことが前提以外の回復を頼みまーす!」

 カルハはさも当然といった表情をしている。


「確かにそうじゃのう。リュウにそがなもんはいらん」


 リュウがカルハに同意した。

 確かにゾンビなら回復はいらないかもしれないが、俺はまだ死にたくない。


「レンマさん、私の色々な魔法が回復に使えますよ」

 今度はルーリアが真っすぐ手を挙げた。


「さっすがルーリア、頼りになるな」


 こだわりの強さから、てっきり幻覚魔法しか使えないと思っていたが、どうやら他の魔法も使えるようで安心した。


「えへへっ。実はおばあちゃんが病気だった時、痛みを軽減させるために覚えた魔法があるんです」


「そっかー、ルーリアはおばあちゃん思いだなー」


「そう……ですかね。『ダメージトランス』っていう、相手の痛みを自分に移す魔法が使えます。これでみなさんの痛みを私が受けて回復を――」


「――そんな魔法使えねぇよ!」

 なんだよ、その自己犠牲魔法。


 説明を遮ると、ルーリアはきょとんとした顔で俺を見つめた。どうやら遮った理由がピンときてないらしい。


「いや、だって回復した分はルーリアが傷つくんだろ? そんな魔法使えないって」


「なるほど、そういうことですか。もちろん私の体はズタボロになります。でも安心してください。心の傷に比べたら、体の傷なんて大したことありません。ちなみにおばあちゃん曰く『禁術』です」


 今の説明の一体どの部分に安心できる要素があったのだろうか? 

 後、なんで禁術なことを誇らしげに言った?


「うーん、それも良い魔法だとは思うんだが、何か他に使えそうな魔法はないのか?」


「他ですか……。私の幻覚魔法で傷がないように見せることはできますけど……」


 色々な魔法と言った割に、ルーリアは何とか絞り出すように意見を出した。


 この時点でかなり不安だ。

 今後、彼女からまともな意見が出るとは思えない。


「それって何の意味があるんだ?」


「こんなに攻撃したのに傷一つないなんて……みたいに相手を驚かせます」

……そうか、やっぱりな……。


 俺はニコッとルーリアに笑いかけ、無言で彼女から視線を逸らした。


「うわあああっ待ってください! まだとっておきのがありますから!」

ルーリアは必死に俺を引き留めた。


 今度こそ期待して良いんだな


「そんな不安そうな目をしなくても大丈夫ですよ。次の魔法は、実際に苦しみを取り除いた実績があります」


 俺の疑いの目に気づいたルーリアは、自信に満ちた表情で言い放った。


「おおっ! で、どんな魔法なんだ?」


 このメンバーは俺を含めて結構ポンコツ揃いなんじゃないかと思い始めていたが、そうでないことを俺に証明してくれ。


「まずは魔法を使う前に、怪我人と回復薬を準備します」


「うん、うん? もうおかしくね? すでに回復薬があるじゃん」


「そして怪我人に回復薬を触ってもらい、その状態で私の魔法『リキッドイン』を使うことで、回復薬を直接体内に流し込めます」


「体に直接とかこえーな。でも、それって魔法を使う意味あるのか? 魔法を使うことで回復量が増えるとか……」


「いえ、回復薬は苦いので、この方法なら楽に摂取できます。このリッキドインを使えば、他にも液体なら何でも体に流し込めますよ」


 ルーリアは自慢げに胸を張って説明の補足をしてきた。


 現代にも似たようなのがあったぞ。子どもに安心して薬を飲んでもらうみたいなやつ。


 説明の序盤から思っていたけど、回復魔法っていうよりは、それって単に回復薬で回復しているだけなんじゃ……。


「ああそうだ、そういえば実績って?」


「回復薬を飲む苦しみのことです。あれって本当に苦いんですよ。だから、この魔法を使うとおばあちゃんも喜んでくれました」


「そっか、良かったな」


「はい! 今後の戦いで使うかもしれないので練習しておきますね」


 俺がおばあちゃんと孫のほっこりエピソードに笑みを漏らすと、ルーリアも元気よく笑顔で返事をした。


「頼りにしているわ。ルーリア頑張ってね」

「お任せくださいカルハ様」


 カルハに声援を送られたことで、ルーリアは期待されている幸福とそれに応える覚悟に目覚めたのか、持っていた指揮棒ぐらいの大きさの杖を強く握った。


 練習って……、今後使うことあるのか? この魔法……。

 これはあれだ……。よし、ケガしないようにしよう。


「ねえ、レンマ君」


「どうした天使?」


 怪我をしない決意を固めていたところ、天使に話しかけられた。


「エンジェちゃん回復魔法使えるよー」

「エンジェちゃん回復魔法使えるのっ?」


 驚きのあまりオウム返しをしてしまった。

今までのやりとりはなんだったんだよ。


「あー、今エンジェちゃんって呼んでくれた! でもね、相手に直接触れてないと回復量は低いから戦闘中は使えないかもしれないんだー。他にも微弱だけど、身体強化や毒とかの耐性付与の支援魔法も使えるよー」


 天使はあだ名で呼ばれたことが嬉しかったのか、自分の能力を色々と教えてくれた。


「そんなこともできるのか、万能じゃん」


「だってエンジェちゃんは天使だよ!」


 天使は人差し指を立てながら、俺の目を見て言い放った。


まったく説明になってないが、確かにゲームとかの天使には、そういう回復や補助の魔法が使えるイメージはある。


「そんな色々使えるなら、何で早く言わなかったんだ?」


「だって、エンジェちゃんは戦わないもん」


「は?」

 天使の返答に驚いて自然と声が出てしまった。


 戦わないってなんだよ。

 さっきカルハが『四天王が共に戦う』って言ってたし、一人だけそんな選択肢ないだろ。


「考えてみてよ。エンジェちゃんは天使だよ、勇者と天使が戦ったら変じゃない? エンジェちゃんは聖なるものとは戦わないの!

 天使だからって言い訳万能過ぎないか? 

『まあ天使なら仕方ないかー』って感じでなぜか腑に落ちてしまうんだが……。


「のうレンマ、色々言っとるがお前は何ができるんじゃ?」

 リュウが俺に話を振ってきた。


そうか俺かー、俺……。そういえば俺って何ができるんだ?


「お、俺はあれだよ。全員の指示役的な……そう、参謀みたいな」


「参謀ならルー子がおるじゃろ」

リュウがルーリアを指差す。


「それも気になってたんだけど、参謀がルーリアってのは何か理由があるのか?」


「勇者は人間よ。人間のルーリアなら、相手の行動が読めるかもしれないじゃない」


 カルハが説明してくれたが、その理論だと別に俺でもいいだろ。


 ていうか、そんな軽はずみな感じで参謀を決めてもいいのかよ……。そうか、それがカルハの名前の由来だった。


「じゃけえ、レンマは何が――」


「――と、とにかく戦力はだいたいわかったな。次は対勇者用の作戦を考えよう」


「なんじゃ、何もできんのんか」


 決して俺が何もできないわけではないが、大体の戦力は把握できたので話を進める。


 それにあれだ。

 俺の能力はまだ発現していないだけで、ある条件を満たすとチート級の力が出るかもしれないから。


 ……俺はそう信じてるから。

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