君がための異世界で、伸ばしたこの手は届くのか

笹丸慶司

【プロローグ】迫る地面と消えない後悔

【プロローグ】 


 目の前には満天の星空が広がっている。

 こんなに綺麗な景色を大切な人と見ることができたら、もう人生に悔いは残らないんじゃないだろうか。


 仰向けで落下する体は風を切り、自分も空の一部になったような感覚に陥ると同時に、自分がこれから死ぬのだと思い知らされる。


 善人は死後、空に昇って星になり、やがて天使に生まれ変わる。しかし、悪人は地獄に落ちて罪を責め続けられるらしい。

 おとぎ話が好きな幼馴染から教えてもらった話だ。


 空が遠ざかって地面に引き寄せられている俺は、どうやら地獄行きということだな……。


 地面に叩きつけられるまでの時間、俺が願ったのは死への恐怖の緩和ではなく、腕の中で泣いている幼馴染の幸せだった。


 思えば俺の人生は、いつも幸せそうな彼女の笑顔に彩られていた。


 小さい頃、何があっても守ると約束した。ただ彼女の幸せを願い、彼女の笑顔を見ることが俺の全てだった。

 そんな彼女は今、俺の胸に顔を埋め嗚咽を漏らして震えている。どうやら約束は果たせなかったらしい。



 ……こんな嘘つきは地獄に落ちて当然だ。



 心臓は風の音をかき消すほど激しく鼓動し、警鐘を鳴らしている。もう地面が近いのだろう。

 俺は死のうが地獄に落ちようが構わない。だが、彼女まで連れて行くわけにはいかない。


 腕に力を入れ、震える体を強く抱き寄せる。

 俺の覚悟に気づいたのか、彼女は顔をあげた。


 最後に見るその顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


 ……頼むからそんな顔しないでくれ。幸せにするって、助けてやるって約束したのに……。ただ、笑っていてほしいだけなのに……。


 俺は不甲斐ない自分自身が憎くて仕方がない。この悔いは、どんなに綺麗な景色を見ても消えることはない。



「……ごめんな」



 そう呟いた直後、背中に強い衝撃を受けた。

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