鎌鼬(8)
玄道が触った呪符は強い光を放ちながら二人のちょうど中間点の地面へと落ちていく。
そして呪符の光が地面を伝わるように広がっていき、覚と玄道を円形の光のステージへと導いた。
「――何を!?」
咄嗟にその場から離れようとした覚だったが、地面から放出される光のカーテンが物理的な壁となってその行く手を阻んだ。
「ご安心を。これは私の張った結界です。この中にいれば外から私たちの姿は見えませんし、中の声が外に漏れる事もありません」
それは全く安心出来る要素が無いのではないかと覚は思った。
つまりこの中で何が起きようとも誰も助けを呼ぶことが出来ないというのと同義であるから。
「おっと、言葉を間違えましたね。この中で私が貴方とどのような密談をしたとしても、その情報が外に漏れる事はないという事です」
覚の気持ちを察したかのように玄道は補足する。
「今から話す事は一般の方々に聞かれては不味い話ですので。君のサトリの力の事だってそうでしょう?もし誰かに偶然聞かれてしまったら困るんじゃないですか?たとえその人が信じなかったとしても、面白半分でそんな噂を広められたら、もしかして?と心当たりのある人だって出てくるかもしれませんからね」
「……分かりました。とりあえず話を聞きます。終わったらここから出してもらえるんですよね?」
「もちろんですとも。私は貴方に危害を加えるつもりなんて毛頭ありませんから」
貼り付けたような笑顔が偽物である事くらいは覚にだって理解出来る。
しかしこうなってしまっては、玄道の要求を呑んで話を聞くしか覚に残された道は無かった。
「簡潔に申しますと、覚君。君の力を私に貸してほしいのです」
「……何の為にですか?」
相手がサトリの力を知っていて自分に接触してきた事からも、玄道の要求がその事であるだろう予測はついていた。
問題は何の為に、どのような目的の為に玄道がそれを欲しているのか?という事だ。
ぬらりひょんの事が頭を過った。たとえ相手がカタルと同じ陰陽師だと名乗ったからといって、それが必ずしも正義だとは限らない。欲望の為に覚を利用しようとしているかもしれないのだ。
「もちろん
「……滅する?」
カタルはぬらりひょんを封じた。
殺すことなく結界に封印したはずだ。
しかし今、玄道は妖を滅すると言った。それはつまり妖怪を殺すという意味だと覚は受け取った。
「カタル君はぬらりひょんを封じたのでしょう?それは彼ら物部の持つ力であり流儀です。我々
一瞬だけ玄道の口元が上がったのを覚は見逃さなかった。
玄道は暗にカタルの事を――その一族の事を見下したのだ。自分たちは妖怪を倒すことが出来るが、カタルたちにはそれが出来ないから封印しているのだと。
心の声は聞こえないが、その表情から本能的にその事を感じ取っていた。
「しかし残念ながら我々には物部ほどに妖気を察知する能力がないのですよ。なので正体を隠して潜んでいる妖を見つけ出すことが出来ない。そこでサトリの力を持つ君に協力をお願いしにきたのです」
「……僕に妖怪を探せと?」
「はい。正確には心を読んで妖を捜して欲しいという事ですけどね」
カタルにいずれ消えると言われた力ではあるが、覚醒した今ならば妖怪の心すら読み取ることが出来る。
玄道はその事も知った上で自分に協力を申し込んできたのだと理解した。
「……協力する事で僕に何かメリットがあるんですか?」
「もちろん協力していただけるならそれなりの報酬はお支払いします。この町で人を襲う妖を倒す手伝いをして報酬を得る。正義の味方みたいで恰好良くないですか?」
正義の味方が報酬を貰っているのかどうかは知らない。
エンディングの後で現金を誰かから受け取っているのだとしたら、それはあまり恰好良いものだとは覚は思えなかった。
しかしそんな事よりも――家族を喰らったという
その事に驚いて固まっている覚に対して玄道は言葉を続けた。
「それに今回の件は、君にとっても他人事では無いようですからね」
「……え?」
「君が当事者というわけではないですが、関係者である事はすでに調べさせてもらっています。ですからきっと君は私の要求に応えてくれると確信しているのです」
「僕が……関係者?」
一瞬ぬらりひょんの皺だらけの顔が脳裏に浮かぶ。
「今回君に探して欲しいのは、今世間を騒がせている連続通り魔事件の犯人です。君のクラスメイトである
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