覚(12)
これは夢だ。
千堂さんや河上の言葉も真実なんかじゃない。
全部僕の考えた妄想。
もちろん父さんが言っている事だって――
「夢なんかじゃないぞ?お前だってもう気付いているんだろう?これが全部現実だってことにな」
そう言った父の顔は今までに見た事がないほど醜悪に歪んでいた。
「父親に向かって醜悪とは酷いな」
――!?
「別に心を読めるのはお前だけの専売特許というわけではないだろう?父親の私が同じことが出来たとして何の不思議もあるまい」
「まさか……そんな……」
「今お前に聞こえているのは、お前が本能的に忌避していた本当の彼らの声。読み取っておきながら、心がそれを受け止める事を避けていた言葉。それが今一つに繋がり、会話という形でお前の耳に届いているのだ。これこそが覚醒の第一歩!なあに辛いのは今だけだ!こんなものは直に慣れる!所詮は私とお前にとっては取るに足らぬ矮小な存在の戯言。いちいち気に病む必要などどこにもないわ」
そんな……そんなこと……。
信じられない。でも信じようとしている自分が確かにいる。
彼らは心の中では僕の事を気味悪がっていた。それを僕は知っていながらこれまで認める事が出来なかった……。
「そうだ!認めてしまえ!これがお前が友人だと思っていた者たちの正体だ!そしてお前はそんなつまらぬ者たちのせいで大切な、貴重な力に蓋をしてしまっている!捨ててしまえ!お前には私がいればそれで良い!簡単にお前を裏切るような存在など全て捨ててしまえ!!」
「僕は……父さんがいれば……」
「ああそうだ!私がいる!!お前の力を活かしてやれるのは私だけだ!!さあ解放しろ!真のサトリの力で世界を私たちのものにするのだ!!そうすれば誰もお前の事を拒絶などしない!!」
「世界を……誰も僕の事を拒絶しない世界……父さんと一緒に……」
ああ、それは何て素晴らしい世界なんだろう。
全てが自分に従う世界。
どんなことを思われようとかまわない。誰も僕に逆らう事なんて出来ない圧倒的な
――パリィィィィン!!
瞬間――視界が眩しい光に包まれる。
「何だと!?」
光の向こうで父さんの驚愕した声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、そこは白と黒の世界。
いや、光と闇に分断された世界だった。
闇の中に立つ父さん。
それを別つように僕と父さんの間に真っすぐにひかれた光の境界線。
陰と陽。
僕はその眩しい光の世界側に立っていた。
「貴様……」
「間に合ったようだな。会長」
聞き慣れた声。
低く、威圧感を感じさせる声。
「物部君……」
「ああ、昼間よりも酷い顔色をしているな」
振り向いた先に立っていたのは、全身を映画で見た陰陽師のような黒装束に身を包んだ物部カタルだった。
「どうしてここに……ここは僕と父さんだけの世界じゃ……」
「会長が危なそうだったからな。割り込ませてもらった」
「貴様!陰陽師か!!」
話に割り込むように父さんが叫ぶ。
陰陽師?確かに恰好はそんな感じに見えるけど……。
「物部君が……陰陽師?それがどうしてここに――」
(妖怪、
あの時の彼女の声が蘇る。
陰陽師、妖怪――ああ、そうか、彼は、僕を、殺しに、きたんだ。
人に
不思議とその事は何よりもすんなりと受け入れる事が出来た。
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