覚(13)
「何故ここに陰陽師がおるのだ!!」
父さんが物部に向かって叫ぶ。
でも僕は愚問だと思った。
彼は妖怪を倒す陰陽師で、僕は――その父である父さんも妖怪なんだから、彼が何故ここにいるのかなんて聞くまでもないんだ。
父さん。彼は僕たちを殺しにきたんだよ。
「何故ここにいるのかはお前の方がよく知っているだろう?それとも昔の事は忘れてしまったのか?」
「忘れるはずがあるものか!!千年にも及ぶ封印の日々!!貴様らに闇の世界へと封じられ、力の全てを奪われたあの屈辱の時を!!たとえ貴様らが忘れたとしても、私が忘れるはずがあるものか!!」
「覚えているのに繰り返すとは愚かだな。千年程度では反省の時間にもならんのか」
「反省だと?――ふざけるなああああ!!!貴様ら人間が我らを生み出しておいて勝手な事をほざくな!!」
「ああ、それについては謝罪の言葉もない。だからといって人に害を成さんとするお前たちを放っておくわけにはいかないからな。自分たちで蒔いた種は自分たちで刈り取らせてもらう」
「させるかあああああ!!!」
父さんが叫ぶと同時に、黒の世界から触手のような影が物部に向かって幾本も伸びていく。
「
しかしその触手は突如現れた光の五芒星に阻まれ、触れた先から闇の残滓と化していく。
僕は今何を見ているんだろう?
まるで映画の世界のような出来事が現実に僕の目の前で起こっている。
「覚!!何をぼおっとしている!!早くこっちに来い!!」
「え……」
「その場所は奴の結界の中だ!そこにいてはお前の力が使えん!!こっちにきて私に手を貸せ!!」
「手を……貸す……?僕が物部と戦う?」
「当たり前だろう!!そいつはお前を殺しにきているのだぞ!ならば先に殺さねばならんだろう!!お前の力があれば必ず奴を殺せる!!」
僕が物部を殺す?
僕のサトリの力で物部を……。
それは許される事なの?
妖怪である僕が、自分の命の為に正義であるはずの彼を……。
父さんを見棄てる事は出来ない。
でも僕はそうまでして生きていたいともすでに思わなくなっていた。
それに――
「……無理だよ父さん。僕は……彼の心を読むことが出来ないんだ……だから父さんの力になることは――」
「出来る!!こちらの世界にくればお前の望みは何でも叶うのだ!!だから早くこっちへ来い!!」
「僕の……望み……」
その時自然と頭に浮かんだのは母の顔だった。
優しい微笑みを浮かべた母さん。
あの日以来見せる事の無くなったあの笑顔。
取り戻せるの?あの幸せだった日常を……。
「ふん。さすがに人の心の隙を突くのが得意だな」
それまで僕らの会話を黙って聞いていた物部が吐き捨てるようにそう言った。
「これまでも父親という立場を使い、自分の都合の良いように会長を操ってきたのだろう?サトリの力が覚醒させる為にいろいろとやってたみたいじゃないか。一流大学への進学に一流企業への就職。生徒会長になるように言ったのもお前か?そして母親の件も含めて、会長にストレスを与え続けた」
確かに生徒会長に立候補したのは父さんの言葉があったから……。
ストレスを与える為?
母さんの事も父さんが何かやったの?
「息子の将来の事を思ってやったのだ!それのどこが悪いというのだ!!」
「普通の家庭の話なら他人の俺が口出しする事じゃないのは分かっているが――息子の為?自分の為だろ?それに貴様は妖怪だ。そこにどんな意図があったとしても俺には関係ない。人に害成す鬼を封じるのが俺の役目だからな。それにお前は――」
物部の顔に怒りの感情が浮かんだように見えた。
そして――
「会長の父親なんかじゃないだろう?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます