河童(10)

「なんだよ。どうしてもおれたちとあそびたいのかよ」

「……うん」

「ええー。だってのぞむはどんくさいからなー」

「だよなー。いっしょにあそんでもつまんねーよ。ことねもそうおもうよなー」

「え?わたしは……」

「じゃあさ、このかわのむこうまでわたれたらいっしょにあそんでやるよ」

「え……」

「だなー。ここをわたれるゆうきがあるやつじゃなきゃいっしょにはあそべないなー」

「ふたりともやめなよ……。むりだよ……」

「……やる」

「だめだよ……。のぞむくんもやめときなよ……」

「よーし、じゃあおれたちがな」

「がんばれよー」



「…………」

「どうしたんだよー。はやくわたれよー」

「…………」

「はやくしないとかえっちゃうぞー」

「……こわい」

「なんだ、やっぱりのぞむはどんくさいな。そんなやつとはいっしょにあそべないよな」

「のぞむくん、もういいよ……。あぶないよ……やめようよ……」

「じゃあおれたちがてつだってやるよ」

「え?……ぼくのランドセル」

「えいっ!」

「ああー!!」

「ほら、はやくとりにいかないとながれていっちゃうぞー」

「ランドセル!ランドセル!!――わあっ!!」

「のぞむくん!!」

「おい!!」

「たすけっ!!あぶっ!あしがっ!――ぶふぁっ!」

「ねえ!はやくのぞむくんをたすけないと!!」

「え!?いや!むりだよ!おれおよげないもん!」

「お、おれも……。そ、それに、このさきはあさいからだいじょうぶだって!ほらっ!なつはいつもかわのなかであそんでるじゃん!」

「そうだけど……」

「お、おれかえる!」

「あ、おれも!」

「ねえ!まってよ!ねえって!」




「まさか……今の話は……」

「三人とも最初に聞き込みした時には、希のことは知らない。見ていないと言っていた。それが急に揃って証言を変えた。本人たちが言うには、希が流されたのを見ていたのに助けなかったことを怒られるのではないかと思ったかららしい。でもおかしいだろ?あの子らはどこから希が流されていくのを見たんだ?あの堤防の上からか?あの場所から、この長い草が生い茂っている河原にいた希を見つけることが出来るのか?俺は自分が希の父親だということを伏せて、西村祐輔に本当の事を話すように説得した。希の事は事故だから、自分たちが何をやっていたとしても何の罪もない。ただ、警察の仕事として、本当の事をまとめないといけないんだ、と言ってな。そしたら簡単に話してくれたよ。自分たちが河原で遊んでいる時に希がやってきたことも、そして仲間に入れて欲しいと言った希に対して何をやったかもな」


 豊峰の言っていることが真実なのかどうか、それは袴田には判断がつかなかった。

 しかし、おそらくはすでに二人の子供を手にかけるているだろう豊峰である。そんな凶行に彼を走らせた理由があるのだとしたら、彼の言っている事も本当なのかもしれないと思えた。


「もし、その話が本当のことだとしても、自分の父親がそんな復讐をして希くんが喜ぶとは思えません」

「復讐?ああ、そう思われてもおかしくはないか。でも別に復讐するつもりなんてない」


 豊峰は一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに合点がいったという顔をした。


「……違うんですか?」

「西村祐輔に聞いたんだ。どうして希と遊んでやらなかったのかって」

「……え?」

「そしたら何て言ったと思う?希は別に「いらなかった」んだとよ」


 顔色一つ変えることなく淡々とそう話す豊峰。

 そこには一切の怒りの感情など感じ取れなかった。


「それは俺にとっても同じこと。俺にとってこの子らは「いらない」子だ。必要なのは希一人。どんな姿になっていても良い。希が、希だけが帰って来てくれればそれで良いんだ」

「それなら……どうして……。そんなことをしても希くんは……」


 川に流された希。

 同じ川で行方不明となった二人の児童。

 復讐ではない。


 いらない……。


 いらなかった……。


 必要なのは希だけ。


 どんな姿になっていても……。


 袴田の頭の中に一つの考えが浮かび上がる。

 しかしそれは口にするのがはばかられるような悍ましい考え。

 それでも、答えはそれしかないのではないかと。



「警部……あんたまさか……希くんの遺体を捜す為だけに……」



「なあ袴田。同じ場所から同じような体格の子供を流せば、今も見つかっていない希がいる場所に辿りつくとは思わないか?」



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