異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~【カクヨムコン10参加作品】
八月 猫
其の壱 絡新婦(ジョロウグモ)
絡新婦(1)
五月初旬。雲一つない爽やかな朝にも関わらず、GW明け初日の登校日ということで彼女の気持ちは少し重かった。
まとまった休みの後はいつも憂鬱な気分になり、世間でいうところの五月病になる人の気持ちが痛い程理解出来る。
まあこれはGWに限らず夏休みだろうと冬休みだろうと同じなので、その全てが五月病と何故呼ばれないのかと彼女は不思議に思いながら歩いていた。
そう、彼女は社会人には学生のような長期の休みが無いことを完全に失念してたのだ。
家を出てからずっとそんなことを考えながら歩くこと二十分ほど。通い慣れた高校の正門に辿り着いた彼女に話しかけてくる女生徒の姿があった。
「
腰の辺りまで長く伸ばした明るい茶髪。少し濃いめのメイクに長い睫毛の少女が、晴香の後ろから小走りで近寄ってきた。
「あ、おはよう
「ん?だってたっぷり休んだんだから元気に決まってるじゃん?逆に晴香はあんまり元気ないみたいだけど……何かあった?」
「あのねえ、何も無くても普通の人は休み明けって嫌なもんなのよ。あんたは勉強嫌いなくせに、どうしてそんなに嬉しそうに学校に来るのか理解に苦しむわ」
「えー、だって学校来たら晴香やみんながいるから楽しいじゃん!」
「……どうして私はそんなあんたと同じ偏差値の学校に通ってるんだろうね」
小学校からの幼馴染である愛莉は幼い頃から勉強は嫌いだ。家に帰って勉強をすることもなければ、出された宿題すらほとんど提出することはない。しかし、学校で友達たちに会うのが好きであるため、小中高と皆勤賞を取るくらいにきちんと出席している。その結果、真面目に授業を受けている晴香との学力差はほとんどついていない。そもそも愛莉は地頭が自分よりも良いのだと晴香は考えている。
晴香はこのことを考える度に神様に生まれついての不公平を心の中で訴えるのであった。
「んー?好きこそものの上手なれ?」
「ちょっと何言ってるか分からないわ」
「えー、こんな時に使うことわざじゃなか――ヤバッ!」
話している途中で何かに気付いた愛莉が素早く晴香の背中に隠れるように回り込む。
「ちょ、急にどうしたのよ」
「シー!このまま私を隠して校舎に入って!」
「いや、そんな大声でシーって言われても……」
「おい」
正面から真っすぐに二人に向かって歩いてきていた男子生徒が声をかけてくる。
その顔を見た時に、晴香はどうして愛莉が隠れたのかを理解した。
「後ろのお前、隠れてないで前に出てこい」
低く威圧感のある声。
切れ長の少し吊り上がった目尻にすっと伸びた鼻筋。
180近くある身長にバランスの取れた四肢。
清潔感を感じる短く切りそろえられた黒髪の少年。
一見すれば他の生徒から羨望の眼差しを向けられそうなイケメンな彼だったが、この高校において彼の集める視線はまた別のものであった。
半袖の制服の左腕に巻かれた腕章に書かれた「風紀」の文字。
近年なし崩しに緩くなっている校則に残る最後の良心とも呼ばれたり、生徒の自由意思を弾圧する独裁者と陰口を叩かれたりする存在。
風紀委員長――三年生の
その常に不機嫌そうな表情と風紀において一切の妥協を許さない高圧的なまでの姿勢。校則の抜け道を
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