其の参 覚 ( サトリ )
覚(1)
「ははっ!先輩は本当に自分が人間だと思っていたんですかあ?」
黄昏れに染まる教室に彼女の
「普通の人間にそんな真似出来るわけないじゃないですかあ?それともそれが自分に与えられた特別な才能だとでも自惚れていたんですかあ?」
そんなことを思ったことなど一度もない。
何ならこんな力が無ければ良いとすら思っている。
「先輩は人間の恐れが生み出した紛い物の存在」
やめろ。
「人の姿をして人間の生活に紛れ込んでいるマガイモノ」
それ以上はやめてくれ。
「妖怪、
僕の心の中に残っていた最後の壁に大きな亀裂の入った音が聞こえた。
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「おはよう」
僕は教室に入ると、いつものように誰に向けてというわけでもない挨拶をする。
「あ、会長おはよう」
その声に気付いた近くの席の女子が挨拶を返してくれた。
「おはよう千堂さん。あ、また遅くまでゲームやってたでしょ?」
「え!?嘘!?そんな疲れた顔してる!?」
「目の下にすごいくまが……」
「嘘でしょ!?朝見た時はそんなの――」
「冗談だよ」
「――もう!びっくりしたじゃない!」
「ははは、ごめんごめん。でもいつもより疲れた顔をしているのは本当だよ?夜中までゲームやってたんでしょ?」
「……うん。今やってるイベントの終わりが近いからつい頑張っちゃって……」
「のめり込める趣味があるのは良いことだけど、身体にあまり負担をかけないようほどほどにね」
「分かった……」
(心配してくれてありがとう)
納得してくれた彼女に軽く手を振って自分の席へと向かう。
「お、
後ろの席の
「あと、迷子の子供も助けてた」
「マジか!?」
「冗談だよ」
「いや、お前なら十分にありえる話だからな!他にも何かあったんじゃないのか?逃げようとしてる引ったくりを捕まえたとか、木に引っ掛かった風船を取ってあげていたとか?」
「全部やったことはあるけど――」
「あるのかよ!」
「今日は生徒会室に寄ってから来たんで少し遅くなっただけだよ」
「ああ、今日は新入生への部活紹介があるからか」
「うん。それのプログラムの最終確認をしてきた」
「はあ、生徒会長様ともなると朝っぱらから仕事があるんだなあ。大変大変」
(俺は死んでもそんな事やりたくないけどな)
「僕はそんなに嫌じゃないけどね。ちゃんと予定を立ててその通りに事が進むのは楽しいから」
「そんなもんかねえ……。俺には分からないな」
(こいつは将来ブラック企業に入ってもやっていけるだろうな)
「それはごめんだなあ」
「え?」
「ん?いやいやこっちの話」
危ない危ない。
昔から人の心の声が聞こえる僕は、たまにその声に返事をしてしまう。
こんな他愛もない会話だけならまだ良いけど、人を憎むような悪意のある感情だったりもだ。それは自分の意思とは全く関係なく伝わってきてしまう。
だからだろうか。僕にはこれまでに付き合った女の子もいなければ、親しいといえるほどの友人もいない。親しくなればなるほど、その相手の持っている負の感情に触れることに耐えきれなくなってしまうから。
きっとこれからもそれは変わらないだろう。
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