33発目 後味の悪くならないように
「二子…………それがお前の答えか?」
死。確かに俺たちが一緒に死ねば…………残りの人生はずっと一緒だった。そう言えるだろう。でも……
「それは出来ない」
「……どうして?」
二子の声が震えている。彼女は俺の答えがわかっていたはずだ、なのになぜ?
「死ぬまでお前と一緒なのはきっと幸せなまま死ねると思う? でもな、きっとこの先生きていたら、もっとお前を好きになれると思うんだ。お前は違うか?」
「それは……」
二子だって本当はわかっているはずだ。でも……それでも……
俺達はお互いに見つめ合う。二子の瞳には涙が浮かんでいた。俺は彼女の涙を拭ってやると、そのまま抱き締める。
しばらく沈黙が続いた後、彼女が口を開いた。
俺は……本当にそれでいいのだろうか? 確かに……この幸せを手放すのは惜しいと思う。だけど……それでも……
俺の中で葛藤が生まれる。でも……それでも彼女を救いたいと思ったらきっとこうするしかないんだと思った。
だから俺は覚悟を決めることにした。
「やっぱり会いに行こう、お前の祖父に…………」
「!? どうして……」
二子は信じられないといった表情だ。しかし、俺の考えは変わらない。
このまま逃げてもいつかは捕まるだろう。だったら賭けに出よう。死ぬ前にやれることはあるかもしれないんだ。
「いい考えとは言えないわ。でも…………貴方がそうしたいなら私の言葉は一つ」
俺と二子はしばらく三つ合って自然と言葉が重なった。
「「好きにして」だろ?」
すると二子は満足そうに笑う。
「ええ、そうよ」
俺達は荷物を纏めると旅館をチェックアウトした。二子の祖父に会いに行くには簡単だ。俺達の追っ手に自ら会いに行って交渉すればいい。しかし、問答無用で捕まる可能性もある。だから俺は神薙さんに連絡して護衛をつけて貰う事にしたのだ。とにかく家に帰ろう。神薙さん達も呼んでいる。京都から地元まで新幹線で3時間。そこからタクシーを拾って、家に帰った俺達は荷物を下ろして一息つく事にした。二子は疲れたのか横になっている。
「お疲れ様」
俺がそう言うと彼女は小さく微笑む。
「ええ……ありがとう……」
俺は彼女の頭を優しく撫でてやる。すると二子は気持ち良さそうに目を細めた。そしてそのまま眠りについてしまう。無理もないだろう。昨日からずっと歩きっぱなしだったしな。俺も少し休むか……。
数時間後、神薙さんが迎えに来たので俺と二子は家を後にした。そして迎えに来た車に乗り込むと神薙さんが話しかけてくる。
「お疲れ様……大変だったでしょう?」
「まあ、それなりに」
俺は苦笑いしながら答えると神薙さんも笑顔を返してくれる。しかしすぐに真面目な表情になったので俺も姿勢を正した。
「それで? もう逃げるのを止めるなんてとんだ根性なしですね」
「いや…………戦うんだ。根性を見せるのはここからだと思ってる」
「そうですか…………しかし、それでも無謀。私には降伏と判別がつきません」
神薙さんにそう言われ、言葉が続かない。
「まあ、いいでしょう。では行きましょうか」
俺達は車に乗って移動を始めた。俺と二子は神薙さんの家に来ていた。神薙さんの部屋に案内されるとそこには既に神薙さんともう一人男がいる。彼は俺を見ると軽く手を上げた。
「よう! 久しぶりだな!」
「ああ、久しぶり……ってほどでもないか?」
そう、この人は俺親友、二八だ。こいつがここにいるのは意外だ。こいつ神薙さんと付き合ってる以外一般人だろ? …………俺もか。
「なんでお前がいるんだ?」
「まあ親友の顔を見に来たのと…………お前の考えを察してだ」
「いやまずどこで話を聞いて…………いやそれは神薙さんからか…………悪かったな巻き込んで」
俺と二八が納得し合うように会話をすると、二子と神薙さんは顔を見合わせる。
「何を考えているのナツト?」
「ん? ああ、お前の祖父に会ってにこをどうしたいのか聞くつもりだ。もちろん何かあった時の為に逃げ出す準備が必要だけどそれを手伝ってくれるんだろ?」
俺が二八にそう聞くと、二八は目を丸くして驚いていた。違うのかよ。
「なんだよ暗殺するんじゃねーのか?」
「私もてっきりそちらかと」
物騒だなこいつら。俺がそう思っていたら後ろで二子までもが納得したような表情をしていた。
「暗殺…………確かにそうね。そうすれば何もかも解決するものね」
「いやしねーよ!」
確かに二子の祖父が何とかなれば、彼女を執着している人間はいなくなるかもしれない。でもそれで解決するわけじゃないだろう。
「脱出の手引きをすればいいんだな?」
「むしろ暗殺ならお前手伝えたのか? 手伝えたんだな?」
だってそれすることを察してきましたって言ったよな二八。そういえば二八と神薙さんってどういういきさつで付き合っているんだ。まあいいか。
「一応俺も小向と付き合う際にいろいろあってな実は…………」
「やめろ、俺が頭の中でスルーするって決めた話を展開するな」
二八が神薙さんとどういう経緯で付き合い始めたかとか興味ないんだよ。俺が頭を抱えている横で、神薙さんが咳払いをする。
「とにかく……脱出の手はずは整えてあげましょう」
「ああ、助かるよ」
「しかし……本当に行くのですか?」
俺は頷く。すると神薙さんは少し考えるような仕草をしたかと思うと、再び口を開いた。
「……わかりました。では準備をしましょう」
こうして俺達の最終決戦が始まろうとしていた。
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