34発目 納豆に…………?

 決意の朝。


「そろそろ行くぞ」


 二八が俺達を呼びに来た。俺は返事をすると立ち上がり、部屋を出ることにした。神薙さんは既に準備を済ませており、いつでも出られる状態だ。俺と二子も荷物を持ち、玄関へと向かう。そして靴を履くと俺達は外に出た。外は快晴で絶好の旅行日和と言えるだろう。しかし、これから行く場所はそんな気分になれるような場所じゃないはずだ。それでも行かなければならないのだ。空を見上げると、雲一つない青さが逆に胸を締め付ける。俺は目を閉じて一度大きく息を吐いた。何か大事なものが終わる予感がする。

 俺達は車に乗り込み出発した。目的地は、少し遠い県の海岸沿いの倉庫だ。そこに二子の爺さんがいるらしい。車窓から見える景色は穏やかで、時折海のきらめきが視界を横切る。でも、その先にあるものが何なのか考えると、心がざわつくのを抑えられない。


「なあ……どうしてまたヘリなんだ」

「簡単な理由ですよ…………向こうに万が一の脱出ルートを空だと思わせるためです」

「…………なるほど?」


 よく分からないけど、神薙さんが言うからその通りなんだろう。俺達は二八と雑談しながら目的地まで向かうことになった。道中は順調で予定通りの時間に到着することが出来た。俺は車から降りると深呼吸をする。これから起こることを考えると緊張するな。足元の砂利が小さく音を立てて、心臓の鼓動が少し速くなるのを感じる。隣に立つ二子は黙ったまま、空を見上げていた。その横顔がどこか遠くを見ているようで、少しだけ寂しそうだった。

 ヘリに乗り込むと、俺達は上空から景色を眺めることになった。眼下に広がる海岸線は美しくて、普段なら感動する場面かもしれない。でも、今はそんな余裕がない。二子は無言だったが、俺の手を握っている。その手のひらが少し冷たくて、細かく震えているのが分かった。不安なんだろう。俺も同じ気持ちだ。俺はそっと握り返して、窓の外に目をやる。遠くに見える倉庫の影が、徐々に近づいてくる。


「そう言えばお前は何をするんだ?」


 俺は正面に座っている二八に声をかけた。


「え? そりゃあ…………何するんだ小向!」


 知らないでここまで来たの肝が据わりすぎてるか馬鹿どっちかだな。神薙さんが説明するには、基本的に倉庫に直接入るのは俺と二子の二人。後はこの二人が脱出の準備をしてくれるらしい。もっとも、向こうが問答無用で捕まえてこようとしてきた場合の最終手段で、使わないならそれに越したことはない。俺は膝の上で拳を握りしめる。こんな状況で冷静でいられる方がおかしい。


「それから…………もし脱出しなければいけないと判断した場合は…………これを…………」


 そう言って神薙さんが渡してきたのは………


「うわっと!? なんだこれ?」


 大きめのケースに入ったそれは…………銃だった。鈍い光沢を放つ金属がケースの中で静かに横たわっていて、俺の息が一瞬止まる。こんなものを手に持つ日が来るなんて、想像したこともなかった。


「残念ですが貴方に剣技及び武術は無理でした」

「そうね、日本刀はかっこよかったのに残念だわ」


 急に二子も会話に参戦する。彼女の声には微かな揶揄が混じっていて、俺をからかうような響きがあった。…………二子にカッコイイって思われてたなら、いざこざが終わった後も習おうかな。そんな考えが一瞬頭をよぎる。でも、今はそんな呑気なことを考える場面じゃない。それはさておき…………


「これは?」

「結論から言いましょう。素人を手っ取り早く強くする方法」

「そして多くの命を奪った兵器よ」


 俺はケースを開けると中身を確認する。そこには俺が思い描いていた通りの物が入っていた。そう、銃だ。触れる前からその重さが伝わってくる気がして、手がわずかに震える。


「……本物?」


 俺は恐る恐るみんなに聞くと、三人とも頷いた。……マジで? 現実感が薄れて、頭の中が一瞬空白になる。


「使い方はわかりますか?」

「一応……ごめん調子乗ったわからねえ」


 その場の空気が凍り付く。いや、普通の高校生がカラシニコフなんて使いませんからね? 俺は苦笑いを浮かべて首を振る。一応指南してもらってから倉庫に向かうことになった。どうやらアサルトライフルの一種らしい。二子もなにやら大きめのケースを持っている。あれもおそらく…………銃だろう。彼女がそれを抱える姿が、どこか現実離れしていて目を離せなかった。


「お前のもアサルトライフルか?」

「そんな…………いえ、そんな銃って言えるほどダメな銃じゃないわね…………私のは違うわ」


 確かにケースが俺のより大きい、いや長いのか。彼女がケースをそっと開ける仕草に、緊張が混じる。


「これはSR-25…………本来なら狙撃銃ね」

「いや俺もお前も敵の目の前なんですけど!?」


 まだ俺の方がいいじゃねーか。何を見越してそれを渡したんだ? 俺は呆れたように笑うけど、心の中では動揺が広がる。しかし運命の時は迫る。俺と二子はヘリを降りて、海岸沿いの倉庫の入り口へと近づいた。古びた鉄の扉を開けると、錆びた音が響き、空気がひんやりと肌に触れる。ゆっくりと歩を進めると、そこには軍服を着た外国人が整列していた。無表情でこちらを見つめる視線が刺さるようで、背筋が冷たくなる。いや、小僧が銃持っただけでなんとかなる空間じゃねーだろこれ。

 倉庫の中は薄暗く、潮の匂いが鼻をつく。足音がコンクリートの床に反響して、不気味な静寂を破る。案内されるまま奥に進むと、不自然に置かれたソファに深々と座る老人が見えた。あれが…………二子の爺さんであり、マフィアのボスなのか。白髪交じりの髪と鋭い目つきが、長い年月を生き抜いた重みを感じさせる。二子が隣で小さく息を呑むのが聞こえて、俺は彼女の肩にそっと触れた。二人でここまで来たんだ。何があっても、俺達ならやれるはずだ。

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