14発目 粘らせる手は止めないで

 今日は高校が休みの日曜日。俺と二子はショッピングモールに向かっていた。ちなみに現在の服装は制服だ。


 二子は制服しかないし、俺が私服だとなんか浮きそうだったのでお互い制服で出かける事にした。


 家を出ると二子は躊躇いなく俺の手を握ってきた。あたりが強い癖にこういうところは可愛い奴だ。


「お前はどんな服が好きなんだ?」

「そうね…………動きやすくて目立たなくて…………大衆に紛れやすいような人の視線の集まらないけど目立ちも悪目立ちにもならない服よ」

「お前は工作員か何かかよ」


 どんな服を言えばいいのかわからないな。


「…………つまりオシャレで人目を惹くような奴もダメ。逆にダサすぎて悪目立ちもダメ。…………てなるとトレンドを取り入れてなおかつ肌の露出は控える感じだな」

「…………ナツト、ちょっと気持ち悪いわ」


 ムカッと来た俺は勢いよく手を振りほどくと、ものすごい速さで掴みなおされ、すぐに俺たちの手は恋人つなぎに戻った。


「…………何今の動き」

「だってデートの時はこうするのでしょう? …………もしかして腰に手を回すタイプだった? ど、どうぞ?」


 そう言って二子は俺の手を放し、自らの腰を差し出すようにして俺が腰に手を回すのを素直に待っていた。


 じーっと俺を見つめる彼女の頬はほんのりと赤いように感じる。……俺は二子の腰に手を回すと、そのまま彼女の身体を引き寄せた。


「…………そう、次からはデートの時はこうしましょう」


 いかにも冷静な雰囲気で喋る二子だが、耳は真っ赤で頬も紅く染まっていた。俺はそんな二子が可愛くてついからかうように耳元で囁いた。


「せっかく腰に手を回すなら、腰回りが露出した服にするか?」


 俺がそう言うと二子は冷静に返事をしてきた。


「そう。貴方は直接触りたいのね。…………でもさっき貴方が言った通り、露出は目立つわ。必要なら家で言って貰える? そうね、マッサージでもして貰おうかしら。ショーツは履いててもいいかしら?」

「…………とりあえず服探すか」


 俺はこのあと、自分の検索履歴がマッサージ関連で埋め尽くされることになるとは考えてもいなかった。


 そんなくだらない会話をしていたらショッピングモールだ。早速女ものの服を売っている店に立ち入ることにした。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 店員が俺たちの所にやってくると、二子はすかさず俺に話しかけてくる。


「……ナツト」

「え? ああ……」


 俺の後ろに隠れる二子。俺は頷くと二子に変わって俺が口を開く。


「この子に合う服を探しているんだけれど……なんかいい奴ないか?」

「そうですね……お客様の雰囲気ですと、こちらのコーデなどいかがでしょうか?」


 ……よくわからんな。とりあえず着させてみるか。二子の方を見ると彼女はコクンと頷くと試着室へと入っていった。そして待つこと数分、カーテンが開くとそこには当然二子の姿があったのだが……俺は思わず見惚れてしまった。


「どうかしら?」


 二子が着た服は白を基調にした清楚な印象を受ける服装で、スカートの丈も長く二子の長い脚が少しだけ羨ましく感じる。


「え? あ、ああ……いいんじゃねーの?」


 はっきり言って二子は本当に美人で可愛い。そういえば俺の彼女だったと思い出すくらいには別世界の人間と思いそうなほど…………別世界。


 いや、世界は一緒なのかもしれないけど、彼女は…………いや今は考えるのをやめておこう。


「お客様、大変お似合いですよ」


 そう言って店員は二子の事をほめちぎる。すると二子は何を考えたのか俺を手招きしてきたので近づくと、二子は俺の耳元で囁く。


「抱き締めたくなる?」

「店員さん、この服そのまま買います、タグ切って貰えますか?」


 俺はすぐに店員を呼んで二子が着ている服を購入することにした。


「彼女さん、お綺麗な方ですね。彼氏さんが羨ましいです」

「ほんと…………ビックリするくらい綺麗で…………」


 俺にはもったいない女だ。


 旅行は二泊三日。最低でも三日分の服が必要だ。ついでに予備も購入しておこう。他にもいくつか二子に服を選ばせたり、選ばされたり普通のカップルのように俺たちは買い物を楽しんだ。


「貴方も服を買いましょう? 私も選びたいわ」


 二子から提案され、俺は二子と一緒に服を選ぶことになった。

 俺は別にそこまでかっこいい服が似合うわけではないと思うが、二子が選んだ服ならと思い購入。


 ある意味彼女らしい目立ちにくいけど悪目立ちしない服だった。俺も制服のままだとあれのなので着替えて出歩くことにした。


「そうだ、昼は何食べたい?」

「そうね…………ナツトと行くならどこでもいいわ」

「そうか。なら適当にファミレスにでも入るか。ちょっと休憩もしたいしな」


 そして食事を終えた俺たちは何もすることがなくなり迷っていると二子が口を開いた。


「私、今は普通の女の子なのかな」


 その意味が俺にはよくわからず、でも俺は素直に思ったことを口にしてみた。


「普通の女の子は…………彼氏の家に住まねーけどな」

「…………それもそうね」


 二子が何に悩んでいるのか。今の俺にはわからないけど、彼女の支えに慣れているのなら、今はそれでいいのかもしれない。

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