13発目 粘りつくように抱き締めて
あの夜から二子は、少しだけ自分のことをするようになった。それでも制服は俺がアイロンがけするし、服は俺が下着まで洗濯する。掃除も料理も買い出しも全部俺だ。朝、洗濯機回して、昼に掃除機かけて、夕飯の買い物はスーパーまで自転車漕いで行く。最初は「なんで俺が?」って思ったけど、今じゃ二子の世話焼くのが日常になっちまってる。彼女が自らするようになったことって、自分が着る服を自分で用意するようになっただけだ。クローゼット開けて、俺の服引っ張り出してくる姿を横目で見てると、なんか笑えるよ。…………もっと他に優先することあるだろ。洗濯とか洗濯とか洗濯とかさ。俺、洗濯かご見るたびに二子の下着と俺のシャツが混ざってて、ちょっとドキッとしちまうんだよな。
「二子…………お前また俺の脱いだ服着てるだろ。いい加減やめろ」
俺が朝、キッチンでコーヒー淹れながら言うと、二子がソファに座って俺の昨日のTシャツ着てるのが見えた。ダボッとした袖が肩から落ちてて、彼女の細い首がチラッと覗く。女の子が俺の服着てるってだけで、昔ならテンション上がってたけど、今は二子個人に目がいくんだ。
「いいじゃない。洗濯物が減るでしょ?」
二子がクールに返してくる。碧眼が俺をチラッと見て、コーヒーカップ持つ手が一瞬止まる。そんな理由で着る物選ぶような奴じゃねぇだろお前は。絶対俺の匂いが好きって理由だろって思うけど、口に出すの恥ずかしい。
「そんなに俺の匂いが好きなら抱き締めてやるから来いよ」
俺、二子をからかうようにニヤッと笑って言うと、彼女が顎に手当てて考え込んだ。考え込まずに「バーカ!」って突っ込んで欲しかったのに…………お前まさか本当に匂い嗅ぎたいのかよ。思春期の俺、女の子なら誰でもいいって思ってた頃はこういう冗談でドキドキしてたけど、今は二子の反応が気になって仕方ねぇ。
「そうね。それもいいかもしれないわ」
二子がそう言って、ソファから立ち上がって俺のとこに寄ってきた。そしたらギュッと俺に抱き着いてきて、シャンプーの匂いがふわっと鼻にくる。二子の金髪が首に触れて、彼女の体温がTシャツ越しに伝わってくる。昔なら「女の子に抱きつかれた!」ってだけで舞い上がってたけど、今は二子の細い腕とか柔らかい感触に意識がいっちまう。彼女のこういうとこ、ほんと可愛いな。
しばらくそのまま二子は動かずに俺の胸に顔を埋めてた。コーヒーカップ置いて、二子の背中に手を回す。彼女の肩が少し震えてる気がして、なんか落ち着かねぇよ。
「二子……そろそろ離れろ」
「……もう少しこのままがいい。駄目?」
二子が顔上げずに小さい声で言う。そう言われたら、俺、何も言えなくなっちまう。可愛いなチクショウ。二子の声がちょっと甘えてて、昔なら女の子のこういう仕草に弱かっただけだけど、今は二子だからこそ胸が締め付けられるんだ。彼女の謎めいたとこも知りたいって気持ちが、どんどん膨らんでくる。
「なあ二子……」
「……何?」
「今度服買いにいくか」
「どうして?」
「だってお前制服と俺のジャージしか着てないだろ? 出かける時どうするんだ?」
俺がそう尋ねると、二子が頬を膨らませてムッとした顔した。彼女の表情がコロコロ変わるの見てると、なんか愛おしくなる。
「別に制服でも問題ないし、出かけなければいいじゃない!」
「修学旅行は…………私服なんだ。ジャージで行くわけにはいかないだろ」
俺が冷静に返すと、二子が少しだけ考え込んで、唇尖らせて黙った。そしたらついに声に出した。
「ないのよ」
「ない? 何がだ」
俺、首傾げて二子見ると、彼女がゆっくり口開いた。碧眼が俺をじっと見てて、なんか緊張感漂う。
「お金がないの。一円もないわ。持っているところ見たことある?」
俺、二子のその言葉に絶句する。確かにこいつが金使うとこなんて一度も見たことねぇ。スーパーの買い物も、ファミレスの支払いも、ハンバーガーショップも全部俺だ。それに何の違和感もなかった。なぜなら二子の身の回りの世話は全部俺がやってたからだ。財布出すどころか、カバンすら持ってるの見たことねぇよなって今気づく。彼女の謎がまた一つ増えた気がして、頭がモヤモヤする。
「なんで金を持ってないんだよ」
貧乏って感じはしねぇし…………やっぱり俺の家に住み着いてる最大の理由は金なのか? まさか親の会社が倒産して借金で逃げてきたとかか? でも、二子の雰囲気ってそんな悲壮感ねぇんだよな。俺、頭の中で色々想像してると、二子がさらっと爆弾発言かましてくる。
「貴方のお父様とお母様を海外に飛ばすお金で1円も持っていないわ」
「いややっぱりお前の仕業かよ。てゆうか元金すごい金額だよなそれ」
俺、声裏返って二子見つめる。やっぱり俺の両親が何の報せもなく海外に消えたのはこいつのせいだったか。両親が「仕事でしばらく海外行く」って手紙残して消えてから、二子が突然住み着いてきたんだよな。でも、そのせいで金がないってことは…………金がないから俺の家に住み着いてるわけじゃねぇっぽいな。じゃあ何でだよって思うと、二子の謎が深まるばっかりだ。思春期の俺、女の子なら誰でもいいって好奇心は薄れて、今は二子の全部を知りてぇって気持ちでいっぱいだ。
でも、一銭も持ってねぇとなると服は買えねぇか。いや…………
「買ってやるよ。俺んちそれなりに裕福だし金なら出せるから」
俺がそう言うと、二子が俺の身体にもたれかかってきた。彼女の頭が肩に当たって、シャンプーの匂いがまた鼻にくる。二子の体重が軽く感じて、なんか守りてぇって思う。
「そう。貴方にばかり負担をかけるわね…………貴方の望むこと何でも言って。私にできることなら、どんなことでもするわ」
「どんなことでもって…………」
俺、つい二子の身体をジロジロ見ちまう。家事もしねぇこいつができることなんて限られてるよな。頭の中で一瞬バカな想像しちまうけど、彼女、少し震えてるように見えて、俺の腕の中で小さく見えた。
二子はやっぱり本位じゃねぇんだな。そこまでしてでも、ここにいてほしいんだ。俺、そんな二子の手をぎゅっと握る。彼女の冷たい指が俺の手の中で動いて、温かさがじんわり伝わってくる。俺の中で、女の子への興味が二子一人に絞られてきてるのを実感するぜ。
「俺はさ……お前の世話焼くの結構好きだぞ。だから…………服を買うのはお前のためじゃねぇんだ。だからお礼に何かしようって思うなら何もするな」
そう言って二子を抱き締めてやると、彼女が急に俺の肩にガブリって嚙みついてきた。痛ってぇけど、彼女の歯の感触が妙にリアルでドキッとする。
「甘え方がイヌ科すぎるだろ!?」
「…………嫌い?」
二子が顔上げて、碧眼で俺をじっと見る。その聞き方は…………ずるいだろ。彼女の目がちょっと潤んでて、俺の心臓がバクバクする。
「正直、めちゃくちゃ可愛かった」
俺、小声で呟くと、二子の頬が少し赤くなった気がした。さてと、今度の休みに服屋でも見に行こう。彼女の私服姿見てぇし、二子のことももっと知りてぇ。…………でも、女ものの服ってどこに行けばいいんだ?
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