13発目 粘りつくように抱き締めて
あの夜から二子は、少しだけ自分の事をするようになった。それでも制服は俺がアイロンがけするし、服は俺が下着まで洗濯する。掃除も料理も買い出しも俺。
彼女が自らするようになったことは、自分が着る服を自分で用意するようになったのだ。…………もっと他に優先することあるだろ。洗濯とか洗濯とか洗濯とか。
「二子…………お前また俺の脱いだ服着てるだろ。いい加減やめろ」
「いいじゃない。洗濯物が減るでしょ?」
そんな理由で着る物を選ぶような奴じゃないだろお前は。
「そんなに俺の匂いが好きなら抱き締めてやるから来いよ」
俺は二子をからかうように言うと二子は顎に手を当てて考え込む。考え込まずに突っ込んで欲しかったのだが…………お前まさか本当に匂い嗅ぎたいのか。
「そうね。それもいいかもしれないわ」
そう言って二子は俺の元に寄ってきて、ギュッと俺に抱き着く。……シャンプーの匂いがするな。
しばらくそのまま二子は動かずに俺の胸に顔を埋めていた。
「二子……そろそろ離れろ」
「……もう少しこのままがいい。駄目?」
そう言われたら、俺は何も言えなくなってしまう。可愛いなチクショウ。
「なあ二子……」
「……何?」
「今度服買いにいくか」
「どうして?」
「だってお前制服と俺のジャージしか着てないだろ? 出かける時どうするんだ?」
俺がそう尋ねると、二子は頬を膨らませる。
「別に制服でも問題ないし、出かけなければいいじゃない!」
「修学旅行は…………私服なんだ。ジャージで行くわけにはいかないだろ」
俺にそう言われると二子は少しだけ考え込んでそしてついに声に出す。
「ないのよ」
「ない? 何がだ」
そして二子はゆっくりと口を開く。
「お金がないの。一円もないわ。持っているとこ見たことある?」
俺は二子のその言葉に絶句する。確かにこいつが金を使うところなんて一度も見たことがない。支払いは全部俺だ。それになんの違和感もなかった。なぜなら二子の身の回りの世話はすべて俺がやっていたからだ。
「なんで金を持っていなんだよ」
貧乏って感じはしないし…………やはり俺の家に住み着いている最大の理由は金なのか。まさか親の会社が倒産とかして借金で逃げてきたとかか?
「貴方のお父様とお母様を海外に飛ばすお金で1円も持っていないわ」
「いややっぱりお前の仕業かよ。てゆうか元金すごい金額だよなそれ」
やはり俺の両親が何の報せもなく海外に消えたのはこいつのせいだったか。しかしそのせいで金がないってことは…………金がないから俺の家に住み着いている訳ではなさそうだな。
しかし、一銭も持っていないとなると服は買えないか。いや…………
「買ってやるよ。俺んちそれなりに裕福だし金なら出せるから」
俺がそう言うと二子は俺の身体にもたれかかりながら喋る。
「そう。貴方にばかり負担をかけるわね…………貴方の望むこと何でも言って。私にできることなら、どんなことでもするわ」
「どんなことでもって…………」
俺はつい二子の身体をジロジロ見てしまう。家事もしないこいつができる事なんて限られている。でも…………彼女は少し震えているようにも見えた。
二子はやっぱり本位じゃないんだな。そこまでしてでも、ここにおいてほしいんだ。俺はそんな二子の手をぎゅっと握る。
「俺はさ……お前の世話焼くの結構好きだぞ。だから…………服を買うのはお前の為じゃないんだ。だからお礼に何かしようって思うなら何もするな」
そう言って二子を抱き締めてやると、二子は俺に嚙みついてきた。
「甘え方がイヌ科すぎるだろ!?」
「…………嫌い?」
「その聞き方は…………ずるいだろ」
正直、めちゃくちゃ可愛かった。さてと、今度の休みに服屋でも見に行こう。…………女ものの服ってどこに行けばいいんだ?
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