27発目 混ぜるほど粘る納豆のように
あれから学校と神薙さんがいる屋敷の行き来が日常になった。俺と二子は離れに住まわせてもらってる。っていうか、俺が護らなくてもここならそこそこ安全な気がする。屋敷の周りには屈強な男たちがいて、門の監視も厳しい。今日もいつも通り学校から帰ると、離れまではもう顔パスで通してもらえる。門番が軽く会釈してくるのが慣れてきた。
「ただいま」
靴脱いで部屋に上がると、二子が俺の袖をつまんで引き止めてくる。細い指がシャツを掴んで、少し引っ張られる。
「どうした?」
「今日もトレーニングをするでしょ? その前に……」
「ああ、そうだな」
二子の頭を撫でると、彼女が嬉しそうに笑う。柔らかい髪が手に触れて、ちょっと落ち着く。そしてそのままキスを交わす。彼女の唇が温かくて、少し甘い匂いがする。それからは毎日筋トレや刀の素振りに励んで過ごした。腕が筋肉痛で悲鳴を上げる日もあるけど、二子がそばにいるから頑張れる。そんなある日、神薙さんが俺を呼び出す。道場の入り口で待ってて、鋭い目がこっちを見てる。
「水戸夏人」
「ん? なんだ?」
「今日は私と手合わせをお願いします」
神薙さんがそう言って薙刀を構えてくる。刃が朝陽に光って、少し緊張する。俺は少し考える。
「神薙さん、俺刀も使えないんだけど」
「……そうですね……ですが、貴方は素人。相手はプロです。なんなら薙刀なんて生易しい武器じゃなくて銃などを使われるでしょう。ですのでこれは手加減です」
そうか? そうかなぁ? そうとは思えないんだけどな。薙刀が軽く振られただけで空気がビリッと鳴る。
「明科二子を護るなら、これから貴方が戦うべき相手は全て格上です。そして貴方は勝つ必要はないんです。護れれば良い。だから死なないことを覚えてください」
「そうだな。わかった。やろう…………ん? それって殺すつもりで稽古が始まるってことか?」
俺がそう聞くと、神薙さんが少し気まずそうに目を逸らす。頬が微かに引きつってる。どうやら図星らしい。
「まあ良いや。二子を護る為に…………力を貸してくれてるなら文句なんかねえよ」
本当は戦えるようになれるとは思ってない。でも、少しでも二子が安心してくれるなら強くなりたいんだ。彼女が笑ってくれるなら、それでいい。
「さて、それじゃあやりましょうか」
道場へ移動すると、畳の感触が足裏に伝わる。二子が少し離れた場所から俺たちを眺めてる。彼女の視線感じて、少し気合が入る。
「はじめ!!」
神薙さんの合図と共に突っ込んでいく。先手必勝、相手に何もさせないのが勝つための手段だろう。でも刀を振ると空を切る音が響く。当然避けられるだろうと予想してたけど、思ったより早い。彼女の動きが流れるみたいだ。だけど、もう刀を振っただけでバランスを崩さなくなってる。少し成長した気がする。体勢を立て直して、そのまま攻め込んでいく。
「おお!!」
神薙さんに攻撃を仕掛けるけど、やっぱり簡単には当たらない。彼女が薙刀を巧みに操って俺の攻撃を受け流してくる。刃が擦れる音が耳に届く。何とか何度か刀を振るけど全部避けられてしまう。そしてついにバランスを崩した瞬間、彼女の一撃が俺の体に叩き込まれる。後ろに飛ばされてしまう。薙刀の刃じゃない方で突かれたみたいだ。鈍い衝撃が胸に響く。
「うぐ!」
壁にたたきつけられても、すぐに立ち上がって構えを取る。息が少し乱れるけど、再び彼女に突進して攻撃を仕掛ける。でもやっぱり当たらないし受け流される。今度は攻撃が終わったタイミングで彼女の一撃が襲い掛かってくる。薙刀の柄が風を切る音がする。
「うあ!!」
再び吹き飛ばされてしまう。畳に転がって、立ち上がろうとすると、神薙さんが俺に向かって声をかけてくる。静かな声が道場に響く。
「死なないことを目標と言いましたが…………わかっていますか? 貴方は先ほどの突きで死んでいてもおかしくないのですよ?」
「あ…………」
確かにそうだ。防がなきゃいけないのに攻めることしか考えてなくて、挙句に突きまで食らった。馬鹿すぎるだろ俺。汗が額から滴って、畳に落ちる。
「それからもう一つ、刀を振るっていれば攻撃が当たると思っているのですか?」
「……ごめん……」
「謝る意味がわかりませんね。ミスを指摘されたら謝れば良いと思っていませんか? それは何に対する謝罪なのですか? 私の指摘がどういう意味か理解せず条件反射で謝っていませんか?」
神薙さんの言葉を聞いて、何も言い返せなくなる。つい口から出た謝罪だけど、確かに今は謝る時じゃなくて、指摘に対して言うべき言葉がある。頭整理して、深呼吸する。
「失礼しました、ご指摘ありがとうございました」
「…………では貴方がすべき行動は何でしたか?」
「…………攻撃を防ぐこと。相手からの攻撃を受けないこと。むやみやたらに攻撃して隙を作らないことです」
俺がそう答えると、神薙さんが頷いてくれる。少しだけ目が柔らかくなる。
「それだけ理解できているならまあいいでしょう。まずはスタミナをつけて動き続けることが必要ですね。ランニングも追加でやりましょうか」
神薙さんが俺のトレーニングメニューにランニング三時間と書き込む。ノートにペンが走る音が静かに響く。三時間って三時間?
「ゴールなしの三時間ノンストップランニング。まずは控えめにこのルールで毎日やりましょう」
「控えめっ? それは何を控えめにしているんだ?」
俺がそう聞くと、彼女がため息をついてくる。肩が少し落ちてる。
「貴方……私の手加減もわかりませんか?」
いや、わからないです。そしてこの日からメニューがどんどん過酷になっていき、離れに戻ると俺はいつも二子にもたれかかるようになってしまう。足がガクガクして、汗でシャツがびしょ濡れだ。
「悪いな二子」
「え? …………別にこれはこれでいいじゃない」
どうやら二子は俺が倒れ込んでくれるのが嬉しいみたいだ。彼女の膝に頭預けてると、安心する。でも……大丈夫かこいつ? 俺の汗吸ったシャツに鼻押し当ててくる。ちょっと笑えてくるけど、まあいいか。そのまま倒れ込んだまま二子を抱き寄せる。彼女の温かさが疲れを癒してくれる。
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