27発目 混ぜるほど粘る納豆のように

 あれから学校と神薙さんちらしき屋敷の行き来の生活が始まった。俺と二子は離れに住まわせてもらっている。てゆうか、俺が護らなくてもここならそこそこ安全な気がするな。今日もいつも通り学校から帰ると、離れまではもう俺たちは顔パスで入れて貰えている。


「ただいま」


 俺は靴を脱いで部屋に上がる。すると、二子は俺の袖をつまんで俺を引きとめる。


「どうした?」

「今日もトレーニングをするでしょ? その前に……」

「ああ、そうだな」


 俺は二子の頭を撫でると、彼女は嬉しそうにしていた。そして……俺たちはそのままキスを交わした。

 それからは毎日筋トレや刀の素振りをして過ごした。そんなある日、神薙さんが俺を呼びだした。


「水戸夏人」

「ん? なんだ?」

「今日は私と手合わせをお願いします」


 神薙さんはそう言って薙刀を構える。俺は少し考えた。


「神薙さん、俺刀も使えないんだけど」

「……そうですね……ですが、貴方は素人。相手はプロです。なんなら薙刀なんて生易しい武器じゃなくて銃などを使われるでしょう。ですのでこれは手加減です」


 そうか? そうかなぁ? そうとは思えないんだけどな。


「明科二子を護るなら、これから貴方が戦うべき相手は全て格上です。そして貴方は勝つ必要はないんです。護れれば良い。だから死なない事を覚えてください」

「そうだな。わかった。やろう…………ん? それって殺すつもりで稽古が始まるって事か?」


 俺がそう聞くと、神薙さんは少し気まずそうにしていた。どうやら図星らしい。


「まあ良いや。二子を護る為に…………力を貸してくれてるなら文句なんかねーよ」


 本当は俺は戦えるようになれるとは思ってない。けど、少しでも二子が安心してくれるなら強くなりたいんだ。


「さて、それじゃあやりましょうか」


 俺たちは道場へ移動する。二子は少し離れた所から俺たちを眺めている。


「はじめ!!」


 神薙さんの合図と共に俺は突っ込んでいく。先手必勝、相手に何もさせない事が勝つ為の手段だろう。しかし……俺の刀は空を切る。当然避けられるだろうと思っていたけど、思ったより早いな! だけど、もう刀を振っただけでバランスを崩さなくなった。俺は体勢を立て直すと、そのまま攻め込んでいく。


「おお!!」


 神薙さんに攻撃するも、やはり簡単にはいかない。彼女は薙刀を巧みに操り俺の攻撃を受け流していた。それでも何とか何度か刀を振るが全部避けられてしまう。そして……ついに俺がバランスを崩した所で彼女の一撃が俺の体に叩き込まれる。俺は後ろに飛ばされてしまった。薙刀の刃ではない方で突かれたみたいだ。


「うぐ!」


 壁にたたきつけられるも、すぐに立ち上がって構えを取る。再び彼女に突進して攻撃を仕掛けるがやはり当たらないし受け流される。そして、今度は俺の攻撃が終わったタイミングで……彼女の一撃が俺に襲い掛かった。


「うあ!!」


 俺は再び吹き飛ばされた。立ち上がろうとすると、神薙さんは俺に向かって言ってきた。


「死なないことを目標と言いましたが…………わかっていますか? 貴方は先ほどの突きで死んでいてもおかしくないのですよ?」

「あ…………」


 確かにそうだ。俺は防がなければいけないのに攻める事しか考えず挙句の果てには突きまで喰らったのだ。馬鹿すぎるだろ俺。


「それからもう一つ刀を振るっていれば、攻撃が当たると思っているのですか?」

「……ごめん……」

「謝る意味がわかりませんね、ミスを指摘されたら謝れば良いと思っていませんか? それは何に対する謝罪なのですか? 私の指摘がどういう意味か理解せず条件反射で謝っていませんか?」


 俺は神薙さんの言葉を聞くと、何も言い返せなかった。つい口から出た謝罪だが、確かに今は謝る時ではなく、指摘に対していうべき言葉は…………


「失礼しました、ご指摘ありがとうございました」

「…………では貴方がすべき行動は何でしたか?」

「…………攻撃を防ぐこと。相手からの攻撃を受けないこと。むやみやたらに攻撃して隙を作らないことです」


 俺がそう答えると、神薙さんは頷いていた。


「それだけ理解できているならまあいいでしょう。まずはスタミナをつけて動き続けることが必要ですね。ランニングも追加でやりましょうか」


 神薙さんは俺のトレーニングメニューにランニング三時間と記載している。三時間って三時間?


「ゴールなしの三時間ノンストップランニング。まずは控えめにこのルールで毎日やりましょう」

「控えめっ? それは何を控えめにしているんだ?」


 俺がそう聞くと、彼女はため息をついていた。


「貴方……私の手加減もわかりませんか?」


 いや、わからないです。そしてこの日からメニューがどんどん悪化していくことになり、離れに戻るといつも二子にもたれかかるようになってしまった。


「悪いな二子」

「え? …………別にこれはこれでいいじゃない」


 どうやら二子は俺が倒れこんでくれることが嬉しいみたいだけど…………コイツ大丈夫か? あ、俺の汗吸ったシャツに鼻を押し当ててる。…………まあいいか。俺はそのまま倒れこんだまま二子を抱き寄せた。

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