28発目 納豆に加えるなら
神薙さんの家の道場に通いながらも、学校生活はおろそかに出来ない。俺は学生の本分を果たすために授業を受けてきた。二八には軽く事情を話しているので融通がきくが、浅葱や光には二子の事は話せない。なので俺が今、神薙さんちでお世話になっている事は伝えていないのだ。
浅葱たちは何も知らないから、ばれないようにしているが…………浅葱は何の前触れもなく俺の家に来るしな。やはり何か言っておくべきだろうか。
本当は学校に通う事もやめるべきか考えたのだが、それは神薙さんに止められた。
「下手に普段と違う行動を控えるべきですね。それもカップルで学校に来なくなるのは噂になります」
「それの何が問題なんだ? 噂になる程度なら…………」
「時代はSNS時代であることと、高校生の拡散力は異常ですよ。私は明科二子がうかつに学校に編入してきた時点で頭を抱えたくらいだというのに、更に目立つ真似はよした方がいいかと…………」
「そ、そうか……」
神薙さんの勢いに押される形で俺は学校に通う事を決めた。しかし、浅葱や光に何も言っていないままだと、いつかバレる気がするんだよな。
特に警戒すべきは浅葱だ。あいつは俺の家に何の連絡もよこさずに現れる。幸いな事に浅葱との旅行から彼女は俺に少しだけ距離を取っていた。光は俺の家までくることはあまりないから、そこまで警戒する必要はないのかもしれない。
「納豆! 今日はいつもと通学路違くない?」
早速校門で遭遇した光の第一声がこれだ。確かにうかつだったわ。
「えっと……こっちから来たから?」
「え?」
「あーっと…………」
俺は嘘が下手かもしれない。隣にいた二子がやれやれと言った感じの表情をしている。よし、二子に任せよう。
「ヒカリ…………私達外泊から直接登校しているの」
「え!?」
「…………そう来たか」
何も嘘じゃないのだが、カップルの外泊朝帰りはやばすぎだろ。しかし、嘘はない。これは嘘が下手というよりはごまかすのが下手だ。超絶下手。いや、隠す気がないのか? 違うな、素だ。
「外泊してたの?」
「えっと…………まあそのちょっと予定が被ってな」
かなり苦しい言い訳だが、光もこの後は授業なので自分のクラスに向かって行く。教室であったので浅葱には何も言われない。
「納豆君、明科さんおはようございます」
「ああ、おはよう浅葱」
「おはようアサギ」
俺たちは挨拶する。ぎこちなく、空気も悪い。決して仲たがいをしたわけでもないのに、時間だけがゆっくりと動いてるような感覚。そんな空間を壊すように予鈴がなり、俺たちは自然と自分の席につく。放課後になり、俺は周囲を警戒するが、二子は何事もなかったように朝と同じ方向に帰ろうとする。
「馬鹿かお前は!?」
「馬鹿は貴方よ、警戒する方がよっぽど怪しいわ。放課後こっちに遊びに行く。それでいいじゃない?」
まあ、そう言う場合もあるが、何も今朝来た道をそのまま帰らなくても、もし光に見られたらどう思われる事か。確かに堂々としている方が目立たないものか。俺は二子の言う通りに、真っすぐと神薙さんちの屋敷の方に帰る事にした。
そして高校から離れて五分ほど歩いた頃だ、二子が俺の服を引っ張る。
「どうした?」
「つけられているわ。気を付けなさい」
俺は足を止めて、辺りを警戒する。すると後ろの方から声をかけられた。振り返るとそこには光が立っていたのだ。
「やあ、お二人さん……そっちは家じゃないよね? どこに行くの?」
「えっと…………」
俺が言いよどむと二子が俺の前に遮るように立つ。
「こっちで間違っていないわ。今、ナツトの家は一部リフォーム中なの。それで仮住まいとして知人の家を間借りさせてもらっているわ」
今朝とは違い、完璧な言い訳だ。
「そうなの?」
光は少し疑っているような表情で俺を見てきた。
「えっと……そうなんだよ。だから今日はそっちの家に帰るんだ」
「……そっか、じゃあまた今度ね」
そう言って光は去って行った。俺は安堵してため息をつくと二子が話しかけてきた。
「これで大丈夫かしら?」
「多分な……」
俺たちは再び歩き始めるが、やはり尾行されている気がする。しかし、素人の俺ではわからない。気にしすぎなだけか?
「なあ、やっぱり……」
俺がそう言いかけた時、二子が俺の口をふさいだ。そして耳元で囁かれる。
「やばいわ。ヤツらよ」
二子があからさまな警戒をしている。これは二子を探しに来た連中か?
「見つかった?」
「いや、わからない。でも確実にこっちを見てるわ」
二子はそう言うと俺の手を引いて走り出す。俺もそれに従って走り始める。突然走るなんて明らかに目立つ行為だが、ちんたら歩いている余裕なんてない。とにかく二子を連れてどこかに逃げなくては…………俺は走る。
「二子! 屋敷に向かうか?」
「…………バレている可能性もあるわ…………一度
だったらどこに…………俺の家? いや、あそこは防犯がしっかりしているわけではない。ここから安全に二子を連れていける場所なんて…………俺は走りながら考えていると、一つの場所に思い当たった。
「浅葱の家は?」
二子は少しだけ考え込む。しかし考えても仕方ないだろう。なぜなら彼女は浅葱の家がどんなところか知らない。だが、あそこなら下手に攻め込むのは難しいはずだ。俺の表情を見た二子はこくりと頷いた。
「場合によってはアサギとその家族にも迷惑をかける事になるわ」
「ま、付き合いが長いし大丈夫だろ」
「そう…………妬けるから後でお仕置きね」
「いや…………えっと…………はい」
まあ、妬いてくれるならいいか。俺はそう考えながら走り続ける。
そして浅葱の家の前に着いた俺と二子、彼女の家も神薙さんに負けず劣らずの御屋敷だったことに二子は少しだけ驚いていた。そして周囲の塀の中にある扉の錠を開けていると二子は少しだけ不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「後で説明する」
「嫉妬ポイント2」
ポイントせいかよ。俺は扉を開けると二子の腕を掴んで中に入って行く。そして扉を閉めて鍵をかけた。
「さて、ここまで来れば安全か」
「そのようね……それにしてもここは?」
「まあ簡単に言うと……ここら一体の大地主だった家の屋敷だな」
俺がそう言うと二子は納得したようにこっちを見ている。俺は急いで浅葱に連絡をすることにした。さすがに無断で入るわけにはいかないしな。
「浅葱か? ああ、旧で悪いんだけど俺と二子を少しだけ匿って欲しい。今はお前んちの屋敷の敷地内にいる。ああ、そのいいから! 後で説明する」
俺は少し強引に電話を終わらせる。そして二子の方を見た。
「これで大丈夫だろ」
「そうね、でも……」
俺たちは屋敷の塀の外の様子に聞き耳を立てる。聞きなれない言語を喋る男たちの声に、二子は顔を青くする。しばらくして男たちの声は消えたが…………
「やっぱりお爺様の差し金ね」
「え? お爺様?」
二子の祖父…………海外の犯罪組織のボスらしいが、この様子だと二子を探しているみたいだな。だったらなおさらここにきて正解だったのかもしれない。なぜならここの家は全員が柔道の達人級でなおかつ門下生たちまでいるくらいだ。俺もここに通っていた頃があるが、全員一般人であることにかわりないが、簡単に攻め込めるような場所ではない。
「ねえ、ナツト……アサギにはどこまで説明をするの?」
「ここまで来たら全部だろ」
「…………そうね」
そう言いつつ俺たちは屋敷の近くにある道場に向かう。ここには多くの門下生たちがいて人の目も多い。ここで何かをやらかすのは愚策とも言えるからだ。そしてここに入れるのは一部の人間のみなので変な奴らが混じってくることはない。
そして奥の方から俺たちに気付いた浅葱がこちらに向かって歩いてきた。
「事情を説明して頂きたいので、こちらまで来てください納豆君、明科さん」
浅葱はそう言うと俺たちを奥へと案内する。俺たちはそれについていく。道場の奥にある居間へ通される。
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