29発目 納豆に絡みついたのは

 浅葱に通された部屋は和風の客間だった。俺と二子は並んで座り、対面に浅葱が座る。浅葱がお茶を入れてくれてお茶の湯気があがるが、俺は手を付けなかった。二子は普通に飲み始めている。


 しばらく沈黙が続いたが沈黙を破ったのは、浅葱だった。


「それで? どういう状況なんですか?」

「ああ、実はな…………浅葱にはどこから話そうか。俺たちの同棲生活からか?」

「同棲生活? それが今の状況に繋がるんですか?」


 俺達は浅葱に洗いざらい話すことにした。浅葱は最初こそ驚いたが、しばらくして落ち着いたのか黙ったままだ。こいつは頭の良い人間だ。この後の事を考えているのだろう。


「それで、あなたたちはこれからどうするつもりですか?」


 浅葱の質問に二子が答える。


「私は…………この街を出ようと思っているわ」

「俺は、二子についていく」

「そうですか……」


 浅葱は俺たちの答えを聞いて考えるような素振りを見せる。そして何かを思いついたのか、言葉を発した。


「では……私も連れて行ってください」


 浅葱の提案に俺と二子は顔を見合わせる。はっきり言えば巻き込めない。しかし、俺たちが彼女側だったら友達に対して自分ならどうするか。


 はっきり言えば、ただの友達だったら人生をかけるなんて出来ない。俺は二子だから人生をかけるのだ。だったら…………浅葱の場合は、俺なのだろうか。


「二子」

「何?」

「逃げる先だけどさ、多重婚ができる国とかねーかな?」


 俺の提案に、二人はすぐに理解し、顔を真っ赤にしてしかりつけてきた。


「ちょっと! 私がいれば十分でしょ!!」

「な!? なんて事考えるんですか納豆君気持ち悪いですよ!!」


 二人に責められている事はわかるが、俺は板って真面目だ。女の子二人と一心同体の人生を歩むのに、彼女たちどちらかは結婚できないのは、やはり可哀そうではないだろうか。え? 俺だけ? 飛躍しすぎか?


「そもそも結婚は行き過ぎですよ!」

「そう? 私はナツトと結婚するけど?」


 二子は堂々と言い放った。その言葉に俺はドキッとしたが、浅葱は顔を真っ赤にしている。まあ二子は少しぶっ飛んでるからあまり気にする必要はないだろう。


「私も納豆君が…………いやでも結婚はまだ先の事で」

「あのねアサギ、これについていくって事は人生をすべて私たちの為に犠牲にするのよ。ナツトと結婚するくらいの覚悟がないなら、ついてこないで」

「そ、それは……」


 浅葱は二子の言葉に口ごもる。そしてしばらく考え込んだ後、口を開いたのだ。


「私は……納豆君、いいえ夏人君の事が好きです。その気持ちに嘘はありません、でも、それでも……私は時間が必要です。先ほどの連れて行ってくださいは衝動的な発言でした」


 それはそうだ。俺だって衝動的と言われたらそれまでだ。だけど、俺は二子の為に人生を捧げられる。それがちっぽけな事しかできなくても、彼女が自由になれるその日まで、俺は彼女を支えたいんだ。だから浅葱にはついてきてほしくない。


 彼女の人生は、俺なんかの為に捧げるべきじゃないんだ。

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