30発目 カラシが馴染む

 俺たちは浅葱を置いていくことにした。浅葱もそれを了承する。


「せめてこれをお持ちください」


 浅葱が渡すのはスマートフォンだ。


「明科さんのスマートフォンはもしかしたら突き止められかねないですし、我が家にある業務用みたいなものです。これなら私から明科さんに連絡できますからね」

「ありがとうアサギ、貴女は私の親友よ」


 そう言って俺たちは浅葱の家の屋敷から出ていくことにした。バレないようにウィッグをつけて茶髪の女性になった二子に、何人かが金髪の女性が集まってきた。


「この人たちは?」

「金髪の女性を多めに集めました。これでカモフラージュになるでしょう。顔が見えないようにみんなで出入りして貰って一部黒髪や茶髪の女性も出入りさせます。その中に紛れ込んでください」


 なるほどな。金髪の女性たちをたくさん出入りさせてその上で更にブラフの黒髪や茶髪の女性をで出入りさせるのか。これなら屋敷からでてもすぐに俺たちを追いかけてくることはないだろう。それに女性陣も複数人で行動するみたいで中には男性も混じっている。これは俺と二子が男女の二人組とバレている可能性を考慮してだろう。俺たちは金髪、黒髪、茶髪と様々な髪をした女性陣の後ろを歩くことにした。


 そしてみんなで様々な方向にばらけていく。俺達もその動きに合わせてばらけていくと、なんとか尾行を撒けたみたいだ。


「どこに行く?」

「そうね…………小向から逃亡費用は貰ってるからどこへでも行けるわ。偽装パスポートもあるわ」

「え? 嘘それ大丈夫?」

「…………わからないわ、念のためって言われただけで」


 おいおい……本当に大丈夫なんだろうか。俺達はとりあえず変装をして街を歩き始める。行く当てもない俺たちが最初に選んだ場所は、本来修学旅行で行くはずだった京都だった。


「京都? 都市部は目立たないかしら?」

「いや、ああいう場所は逆に人も外国人も多いから金髪は紛れやすいだろ」


 と、神薙さんに言われたことをそのままいう。

 俺がそう言うと、二子は納得してくれたようだ。乗るのはわざとローカル線。途中下車をしやすいように選んだ。電車の中では首都圏から離れるにつれ人が減っていく。


「こういうのも悪くねーな」

「…………そう? 私はもっとゆっくりできると良かったのだけど」


 確かにこれはのんびりとした旅行ではない。俺たちはこれから逃亡生活を送るのだから。


 そういえば海外に飛ばされた音の両親の事だが、二子に聞いたところ、俺の両親は時間を空けて日本に戻るようにしてくれているらしい。二人とも無事で安心した。が…………息子が蒸発しているなんて夢にも思ってないだろうな。


「どうしたの?」

「いや…………親父たちは俺を探すかなって思って」

「…………戻ってもいいのよ」

「馬鹿言うな」

「馬鹿は…………お互い様ね」

「そうだよ」


 そして俺たちは京都駅に到着した。宿泊先の旅館に向かうことにする。京都の街並みは、想像よりは近代的だ。と言っても駅の周囲だからかもな。俺たちは旅館に向かい荷物を置くことにした。


「いらっしゃいませ」


 女将に挨拶をして、俺と二子は通された部屋へと向かう。そして一息つくと二子が俺に向かって口を開く。


「……本当によかったの?」

「何がだ?」

「疑問に思うってことは本当に後悔がないのね」


 なんとなく二子が何を言いたいかは分かった。それでも俺は…………二子と一緒にいたいから。


「後悔なんてしてない」


 俺がそう言うと、彼女は俺の胸に飛び込んでくる。彼女の温もりを知らない頃には、もう戻れそうにないな。

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