31発目 箸休め
二子が落ち着いたところで、俺たちは旅館の部屋に用意された浴衣に着替える事にした。二子が着替えるだろうから俺は部屋を出ようとすると二子に引き留めた。
「ナツト…………なんで手伝ってくれないの?」
「あ…………」
旅館といえば、間違って浅葱を着替えさせようとしたせいだろうか。女子の着替えを待つために部屋を出そうになってしまった。いや、本来はこうすべきなんだけどさ。
「悪い」
「そう……じゃあ手伝って?」
二子はそう言って両手を広げる。脱がせろと言う事だろう。俺は二子の後ろに立つと彼女の衣服を脱がしていく。まずはブラウスからだ。そしてスカートのファスナーを下ろすと、彼女の白い足が見える。
「下着姿もいいな」
二子の下着は、黒と赤のブラジャーにショーツだった。シンプルだけどとても綺麗だ。
「? 見せるために着替えさせている訳じゃないのだけど? あと浴衣着せて」
「あ、はい」
俺は二子の浴衣を羽織らせると、今度は帯を持って彼女の後ろに回る。そして彼女の前で膝をつくと、その腰に手を回して帯を巻き付けていく。
「ちょっと……くすぐったいわ」
「我慢しろ」
俺はそう言って帯を締める。そして最後に伊達締めをして完成だ。しかし、この着付けって結構難しいな。まあ、二子だから簡単にできたけど。
「じゃあ俺も着替えるから待っててくれ」
俺がそう言うと二子は、生き生きとした顔をして手を伸ばす。
「脱いだ服は受け取るわ」
「いいよ別に」
しかし、そのまま彼女は話し続ける。
「下着も脱いで良いのよ!!」
今度は心なしか先ほどよりキラキラしているように見えなくもない。よほど脱ぎたての俺の衣類の匂いを嗅ぎたいらしい。てゆうか、下着も嗅ぐのかこいつ。…………俺だってまだ二子の下着の匂い嗅いでないぞ? 手洗いして干してるだけだぞ?
「わかった、脱いだ服だけ持っててくれ」
そう言ってシャツやズボンを脱いで二子に渡す。まだ嗅がないな。俺はあえて視線を背けた。しかし、部屋に置いてある卓上ミラーには二子がしっかり写っている。すると二子は、それに気付かずシャツやズボンに顔を突っ込んだ。
幸せそうだな。俺も二子の衣服の匂い嗅いで良いかな。…………さすがに気持ち悪いって言われるかな。
「終わったぞ二子」
俺がそう言うと、二子は満足そうに俺の脱いだ衣服を自分のカバンにしまっていた。何してるのこの子。
「何してんだ?」
「別に? 何か問題でもあるのかしら?」
いや、問題だろ。俺の衣類回収され続けたら新しいの買わないとだぞ?
「返してくれるのか?」
「当然じゃない」
「……わかった」
ならいいか…………いいのか? まあいい。二子が個人的に楽しむだけだろう。…………やっぱりおかしくない?
しかし、彼女の匂いフェチは今に始まったことではないし、もういいか。それよりも二子を大人しくさせるには簡単だ。
俺の匂いが好きな彼女は当然、俺に抱き寄せられると一瞬で無抵抗になる。
俺は二子の手を引いて抱き締めてやると、二子はすっかり大人しくなった。顔を俺の身体に押し付けて幸せそうにしてやがる。さてと、京都の滞在日数は一週間ほどだ。今日一日は旅館から出ないのもいいかもな。
「二子、温泉入ってくるから」
「え? …………ああ、そうよね混浴じゃないわよね」
どこまで一緒にいて欲しいんだこいつは。でもそうだな、二子を一人にするのは不安だ。そう言った意味では浅葱が来てくれると心強かったりもするのだが。
「一応部屋には備え付けの風呂があるけど、そこで済ませるか?」
「そうね、大浴場に入る必要なんてないわ、ここの部屋風呂は温泉みたいだしここでいいじゃない。むしろここしか使わないわ。一緒に入るんでしょうね?」
よほど一緒にいて欲しいらしい。俺も彼女を一人にするのは不安だしもう腹をくくろう。部屋風呂の広さを見ると家族で入る前提の大きさをしている。これなら二人で入っても問題ないな。
「一緒に入るよ」
俺がそう言うと二子は嬉しそうに微笑んだ。しかし、部屋風呂に入るならすぐに入る必要もないな。ならこの旅館内で出来ることは何かあるだろうか。
「夕飯まで時間があるけど…………和風の旅館って昼は布団ないから寝て休めないんだな…………」
「そうね…………でも京都っていったらやっぱり和風一択じゃない!」
言いたいことはわかる。俺もそうするしな。まあウダウダ言ってもしかたないし、二人で旅館付近を散策でもしてみるか。
「旅館の入り口に足湯があったな、あそこでも行くか」
「そうね」
俺たちは浴衣のまま旅館を出て、近くの足湯に向かうことにした。その日は夕食まで時間をつぶし、二人で部屋風呂に入って同じ布団で抱き合って眠った。
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