32発目 納豆に
朝目が覚めると、敷かれた布団の中にもごもごと動く正体。俺はこの愛おしい温もりを何か知っている。そう……二子だ。
俺は彼女を抱き締めると彼女は俺が起きた事に気付く。そして嬉しそうな表情をして俺を見た。
「おはようナツト」
「おはよ……」
俺達は軽くキスをすると、二子は俺の胸に顔を埋めた。俺は彼女の頭を優しく撫でてやる。すると彼女は気持ち良さそうに目を細めた。
これが逃亡生活で泣ければどれだけ幸せだっただろうか。俺達は朝食を食べ終えると旅館を出て、京都の街を歩くことにした。二子は俺から離れるつもりはないらしくずっと俺の腕にしがみついている。
正直…………これはこれで目立つのではないか? とも思ったが、彼女の嬉しそうな顔を見たら何も言えなかった。まあ、俺も嫌じゃないからいいんだけどな。
そんなことを考えていると、俺達はある場所にたどり着いた。そこは昨日足を運んだ足湯だ。俺達はそこで並んで座って足湯を楽しむことにした。二子の足がとても綺麗だなと思いながら眺めていると、彼女は俺の視線に気づいたのかこちらを見ると微笑んでくる。
「何? 見とれた?」
「…………ノーコメントだ」
俺がそう言うと、二子は理解したのか嬉しそうにほほ笑む。そして俺の肩に頭を預けてきた。俺はそんな彼女の頭を撫でる。すると二子は気持ち良さそうに目を細めた。
しばらくそのままでいると、二子は突然立ち上がり俺の手を引く。
「ね? もっと一緒に色んな事するでしょ?」
「ああ、そうだな」
有名なところは片っ端から回る。食べたことないものや地元と違うものを口にして感想を言い合う。普通の恋人がすることを今、楽しむ。
短い付き合いだけど、長い間一緒にいた恋人と同じくらいの思い出を得られるように。
この先、どんなことが待ち受けても今日、幸せだったことを思い出せるように。
俺達は、京都の街並みを目に焼き付けるように見て回った。二子の楽しそうな表情を見て俺も嬉しくなってくる。彼女とこうやって旅が出来るならどれだけ幸せなことだろう。
旅館に戻り、荷物を整理し始める。
「次はどこに行きたい?」
「わからないわ…………ナツトはどこが良いと思う?」
京都の次に行く場所か。神薙さんからは西洋人風の見た目の二子が浮かないように、人の多い場所を選べって言われているから、人の多いところにするかな。
いや……………………
「こんな生活いつまでも続くもんじゃねえ…………」
俺がそう言うと、二子の笑顔が曇った。
「そう……よね……」
二子だってわかっているはずだ。いつまでも逃げ切れるものではないと、それでも俺は彼女と一緒にいたいと思う。
「…………終わらせる方法はねーかな? いや、正確に言えば俺とお前が本当の意味でずっと一緒に入れる方法だ」
「例えば?」
わからない。二子の祖父の悪い組織が二子を追っている現場らしき状況は俺も居合わせた。だから俺の地元はもうだめだろう。…………そもそも二子の祖父さえ何とかすれば…………
「説得って出来るかな?」
「出来たら逃げてないわよ」
まあそうだよな。俺なんて一般人だ。できることなんて何もない。それが俺の現実だ。逃げ続けることだって…………本当は難しい。
「人生ずっと一緒にいられる方法…………一つだけあるわ」
「え?」
二子は窓の外を眺めて空を見上げる。…………何を考えているのだろうか。
期待と不安が俺を襲う。
「一緒に…………死んでくれる?」
「二子……」
それが彼女の答えだ。
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