11発目 カラシニコフは壊すものだから

 ある日のことだ。もうすぐ夕飯という時に我が家に来客が来た。インターフォンが鳴ると俺より早く二子が出る。二子がとにかく客を出迎えようとする。


 …………犬かな?


 だからと言って客に懐く訳ではないが、誰が来ても必ず二子が来客対応をしたがるから困っている。


「あらいらっしゃい」


 どうやら知人なのだろうか? 二子の声色はクラスメイトと話すような感じだった。誰が来ているのだろうか。浅葱か光だろうか。


 俺は様子を見に行くとそこにいたのは神薙小向かんなぎ こなた。親友の彼女が俺の家に何か用だろうか。いや…………二子か? でも、神薙さんが二子がここにいる事なんて知るはずないよな?


 そう思っていたら、二子はしばらく黙ったまま。神薙さんもだ。しばらくして二子がこちらに視線を向けるとめんどくさそうに声を出す。


「ちょっと出かけてくるわ。ご飯は…………先に食べてていいわ」

「え? あ、ああわかった」


 そう言って二子と神薙さんはどこかに出かけてしまった。どうしたんだあいつ。


「それにしても…………いつの間に仲良くなったんだ? 記憶が正しければ会話をしている所なんて見たことないぞ」


 気になるな。だが…………ご飯が冷める。しかし…………確認するべきだろうか。家に一人残される俺。時間がたてばたつほど確認することは難しくなるだろう。


 …………ついてくるなとは言われていない。ただちょっとほんのちょっと夕飯前に散歩したくなったんだ。冷めたご飯を温めなおして食べたくなった。それだけ。


 だから俺はこっそりと二子たちの後をつける事にした。二子と神薙さんは俺の家の近くの公園のベンチに座っていた。俺は近くの茂みに隠れて話し声が聞こえる距離までゆっくりと近づく。


「貴女もいい加減にして欲しいわ小向」

「それはこちらの台詞です」


 授業以外で神薙さんが喋っているの久しぶりに聞いたな。それにしても想像より親しいな。こないだのハンバーガー店でもなぜか互いに視線をぶつけていたが…………やはり知人だったのか。


「二子さん。貴女が自由でいられる時間はもうほとんどないと思ってください」

「私は…………それでもここにいる。ナツトの隣が私の居場所だから」


 これは俺が聞き耳を立てて聞いていい話なのだろうか。なんだか聞いちゃいけない話を聞いている気分だ。


「二子さん。貴女の居場所は…………チェルノでしょう? 私にとっての鶴技会つるぎかいのように」

「たとえそうだとして、鶴技の貴女が私に口出しをする理由にはならないでしょう?」


 二子はそう言って神薙さんに背を向ける。神薙さんは立ち上がり二子を見つめる。


「貴女にとって壊されたくないものはいずれ、貴女が壊します。私の大切な物と一緒に」


 そう言って神薙さんは公園を後にする。俺は去っていく神薙さんの背中をただ見つめていると、突然こちらに二子が向いて声をかけてきた。


「何しているの?」

「あ、ああ、いやそのだな……」


 俺はチラリと神薙さんの方を見るが既にいなかった。すると二子は俺の手を掴みながら言う。


「……帰るわよ。ご飯は食べたの? それともまだ?」

「い、いやまだだ」

「そう……なら一緒に食べましょう」


 そう言って二子は俺の手を握りながら歩き出すので、俺はそれに従うことにした。俺と二子は家に戻ると、手を洗って夕飯を温めなおす。


 いつもと同じ電子レンジの音が、いつもよりうるさく感じたのは、それ以外の音が分からなかったからかもしれない。夕飯を食べる。


 温めなおされた肉はもう味がよくわからないくらいのタレでごまかした。


 空気が重い。二子に先ほどの事を聞いていいのだろうか。聞いてはいけない事のように感じてしまう。


「さっきの……」

「何?」

「……いやなんでもない」


 俺は二子にそう返すと、二子は少し間を置いてから言う。


「小向の事は気にしなくていいわ。貴方は余計なことをしないで。貴方は…………貴方のままでいいの」

「どういう意味だよ」

「そのままの意味よ。お風呂入るわね…………覗く?」


 二子の言葉に俺はすぐに返答する。


「の、覗くか! 馬鹿にすんな」

「そう。なら、お風呂に入って来るわ」


 そう言って二子は風呂に行き、俺は一人になる。そして先ほどの神薙さんの言葉を思い出す。『壊される』か……何のことだろうか?


 なあなあにしてきたが…………二子は異常だ。特にここに来た経緯や俺の両親の事もある。彼女は何かを隠していて…………神薙さんはそれを知っている。俺は二子について知らない事が多すぎるな。そう思いながら、二子が風呂から出てくるのを待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る