8発目 米も葱も納豆にあうから
浅葱と光に呼び出された俺たちは放課後、四人でファミレスに向かうことになった。
「悪いな二子。俺の問題なのに」
「気にしないで。私のせいでこうなったとも言える訳でしょ」
確かに浅葱たちの様子がおかしくなったのは二子と付き合い始めてから。そして決定打は今朝から二子が俺の家に宿泊していた疑惑が発覚したことだ。
まあ、正確には宿泊ではなく同棲でステップはもっと上なんだけどな。
俺たちは誰も悪くない。ただ、かみ合わなかっただけだ。だから俺は堂々としていよう。そう決めた。
空気が重い。浅葱は怒っているようだし、光はソワソワしてこちらをチラチラ見ては落ち込んでいる。そんなに俺は悪いことをしたのか? 高校生男子が可愛い女の子を彼女にしたいと思って行動することは悪い事じゃないはずだ…………なのになんでこんなに重い気持ちになるんだ。
ファミレスに着くと、光は人数分のドリンクバーを頼んだ。ちなみに俺のおごりになった。
「それで? お前らはどうしたいんだ?」
だんまりが続きそうだと思った俺は全員が飲み物を取ってきたところで声をかける。
浅葱はまだ下を向いていた。光はチラチラこちらを見てついに声に出す。
「私は…………納豆…………いや
「じゃあ俺を振り続けたのはなんだったんだ?」
俺の問いに光はだんまりだ。そしてやっと浅葱は顔をあげた。浅葱の表情は……怒りと悲しみが混ざったような表情だった。
「沢山の誰かみたいな扱いが嫌だったんです。だから私の得意分野で勝てるようになった納豆君となら…………きっと私一人を見てくれていると思いました。でも、本当の納豆君はただ可愛い女の子とお付き合いしたかっただけで複数人相手にするつもりはなかった」
「あ、ああそうだな…………」
俺だって浮気なんて不誠実なことはしたくない。今まではフリーだったからこそ色んな女子に告白していたんだ。それが彼女たちに勘違いを助長させていたのだろう。
「今からでも私を選んでと言ったら…………納豆君は私と、
浅葱は泣いていた。そして泣きながら俺をまっすぐに見つめる。
「俺がお前を選ばなかったら?」
「……それでも納豆君を想う気持ちは変わりません。ただ、貴方に振り向いてもらえないのは悲しいです」
そう言って彼女はまた下を向いてしまう。俺は二子を見るが、彼女は何も言ってこないし表情も変えない。そして光も話し出す。
「私もおんなじかな? ううん、なんか好きって認めたら私ってこんな軽薄な人をって思うのが嫌でさ。でも毎日告白しに来てくれる夏人の事、楽しみにしていた事に気付いてね。あー、諦めないんだなって思って次の誕生日まで粘られたら…………良いよって言うつもりだったんだ」
「そっか…………」
浅葱も光も俺の事が好きだったのか。嬉しいけど…………でも俺はもう二子の彼氏だし、他の人を選ぶなんて不誠実な事をしたら、それこそ浅葱や光の嫌だった俺になってしまうな。
「でも納豆君、今朝も言いましたが諦めません。学生の恋なんて儚いものです。一週間もしないうちに別れるカップルだっているんですよ!」
「急に何言いだすんだよ。こえーな」
「確かに…………私たちはあくまで一途だから、夏人の事好きになってもいいし、諦めなくてもいいんだよね?」
浅葱と光は何かに納得した様子だ。俺は呆れて物も言えない状況。堂々と略奪宣言をされるとは思わなかった。
そして現在、恋人を略奪宣言されているはずの二子は、なぜかクスクスと笑っていた。
「あー! 明科さん! なんですかその余裕の笑みは!!!! 昨日は納豆君の家にお泊りだったみたいですが今日はご自宅に帰るんですよね!?」
「え? お泊り!?」
どうやら光の耳には今朝の件は入っていなかったらしいし、やはり浅葱は同棲をお泊りと勘違いしている様子だ。
「ええ、帰るわ。私と…………ナツトの家にね?」
「なっ!? そんな……納豆君! 私というものがありながら!!」
「いや、俺お前と付き合ってねーから」
「毎日告白していた幼馴染ですよ!?」
いやまあ何も間違ってないけど、毎日告白してフラれた幼馴染とは同棲しねーだろ。高校生の彼女より同棲しねーだろ。いや、高校生の彼女とも同棲しねーけど。
「話は決まったわね。ナツトと私は別れる気はなくても、アサギとヒカリは諦めない。よくわかったわ。だったら私はあなた達が諦められるくらいナツトとラブラブなところを見せてあげるわ」
「え? ちょっと楽しみ」
「納豆君! 鼻の下が伸びてますよ不純です!!」
「そ、そうだよ! 彼女だからってそういうのは早いと思うな!!!」
二子の宣言に光が食いつき、それに浅葱が同調する。それにしてもラブラブなとこを見せつけようとは…………早速どうですか? 抱き着いてきてもいいんですよ?
俺がちらちら見ていると二子はそれに気付いて声に出す。
「え? 何見てるのナツト、気持ち悪いわね」
「よし、抱きついていいぞ」
そう言うと二子はクスリと笑ってこういった。
「自然にしてなさい気持ち悪いわね」
そういう割には楽しそうにしている二子を見て、俺はホッとしているし、浅葱たちはムーっと頬を膨らませる。
その後は先ほどのギスギスした空気とは打って変わって二子と浅葱たちは打ち解け始めた。元々、浅葱も光も友好的な人間だし、二子も害がなければ邪険にはしない。仲良くなるには時間はいらなかったのだろう。
そして帰路に向かう。光は駅に向かうが俺と二子と浅葱は同じ方向だ。光とはそうそうに別れ三人で帰宅。とりあえず二子の同棲はもう突っ込まれないようだ。もっと気にするところだと思うが本人たちが突っ込まないならいいか。
「納豆君! また明日!! 明日には私の事好きになってますからね!」
「おーう! なんだそれ呪いか?」
そう言って浅葱はニッコリと笑って手を振った。俺も手を振ると二子が肘で小突いてきた。痛いわボケ。
「ほら帰るぞ」
「ええ…………もうクタクタ」
そう言った二子は俺に抱き着いてくる。俺はそんな二子を引っ張りながら家にあげながら思う。こういうところを浅葱や光に見せつけるんじゃないんですか?
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