7発目 納豆の臭みは気になりますか?
俺と二子は教室に入った。浅葱がこちらを睨みつけてくるが、俺はそれを無視して自分の席に向かう。
浅葱はすぐ近くの席だ。周囲は俺たちに何かがあったと察し近寄ってこない。
そんな中、心配しながら光がこちらに近づいてきた。クラスも違うのに朝からここにいるのは、誰かに用事でもあったのだろうか。
「納豆、九条院さんと何かあったの?」
光に尋ねられる。俺はなんて答えればいいのだろうか。
「ちょっとな…………お前は…………浅葱が俺の事について悩むとしたら…………検討はつくのか? あ、それが何か教えてくれなくていい。俺が考えるから」
俺がそう言うと光はすらっと答えた。
「つくよ。だって私たちライバルだったから」
その一言はまるで強い衝撃で殴られた気分だった。
まだ推測。推測に過ぎないが、自分は彼女たちを…………傷つけていたのだろうな。
だからと言って、今更二子と別れるのも違う。付き合えそうだから移るのは最低だ。俺の妄想であることを祈りたい。
それに昨日の夜少しずつ二子を信じようと決めたのだ。俺は自分の彼女の二子に視線を向けるが、彼女は何こっち見てるの? と言いたげな表情だ。
「そうか…………光から見た俺ってどんな奴だった?」
「そうだね…………諦めの悪くて自分のやりたいことに全力で……良い奴だよ納豆は!」
そう言って笑って教室を出て自分のクラスに戻る光。評価が思ったより高い。今まで俺がフラれ続けたのが本当に…………誰でも良いから告白していたせいなのかもしれない。
正確には誰でも良い訳ではない。俺が可愛いと思える彼女が良いのであって…………その枠組みに入れば誰でも良かった。でも、俺は漠然と彼女が欲しくて誰かと特定の個人と付き合いたかった訳じゃない。
それは悪い事なのか?
なんだか、責められている気分だ。俺は気落ちしながら自席に座る。そして、二子を見ると彼女は俺を見ずにスマホをいじっていた。
我関せずといったところだろう。捨てられない自信があるのか。それとも本当は捨てられても良いと思っているのか。
昼休み、俺と二子は一緒に人のいない場所に向かった。中庭の端の方だ。
「炭酸で良かったよな」
「ええ」
そう言って彼女はコーラを受け取ると、カシュっと音を立てて開ける。そして昼ご飯は俺が用意した弁当だ。元々浅葱との稽古のおかげで早起きだったから作るのはそこまで苦ではなかった。
弁当を食べ始めるが甘い雰囲気などない。無言で食べていたら二子の方から話しかけてきた。
「どうするの? あの二人」
「どうすることもできねーよ。俺は二人と付き合えなかった。それだけだ。お前から逃げない限り俺とお前は恋人だ。今は誰でも良いとは思ってないから」
俺はそう言って二子を見つめてから弁当を食べる。しかし、二子は黙ったまま俺を見つめ返して言う。
「律儀ね。誰でも良かったから私に告白したくせに」
「根に持ってるのか? それならお前は俺が良かったから返事したのか?」
俺がそう言うと、彼女は少し考えてから言った。
「今となってはどうで良い事よ。転校初日。初対面の私達。貴方の言葉。私の返事。それは全部偶然だったかもしれないわ。でも偶然ってそんなに悪い事かしら?」
偶然か。俺がたくさん告白した中で、偶然いい返事をくれた彼女が今を気に入ってくれているのに、俺は何をウダウダと考えていたのだろうか。
「ありがとな二子。お前と付き合えてよかった」
「そう、私もよ」
そういう二子はこちらに一切視線を向けず青空を眺めるだけだった。表情も笑っている様子もなくただ何かを考えているようなそういう表情。
食べ終わった弁当を片付け、昼休みはまだ時間が余っている。何を話せばいいのかわからない沈黙。
「俺の好きなとこってあるか?」
「ナツトの好きなとこ? …………匂い?」
「え!?」
「…………あー間違えた…………従順なとこね」
間違えたってなんだよ。てゆうか匂いか…………そういえばこいつ俺の服着たがったり、俺のベッドで寝たがったりしたよな。
…………まあ、ちょっとその恥ずかしいな。
「二子?」
「何よ?」
俺が二子に呼ぶ掛けると、彼女は少し機嫌の悪そうな表情で俺を見つめる。
「抱き締めてやろうか?」
「…………そう、貴方が抱きしめたいのね。受けてあげる」
そう言った彼女はニヤッと笑い、俺の胸板に顔を埋める。やっぱ匂い嗅ぎに来てませんか?
「…………その…………腕はまだかしら? これでは私が一方的に飛び込んでいるようだわ」
「はいはい…………俺のわがままに付き合ってくれてアリガトナー」
そう言って彼女の背中に腕を回し抱き締めてやると、二子はぎゅっとしがみ付いてきた。
浅葱と光。彼女たちの事はフラれ続けたができれば友人でいたい。それは俺のエゴなのだろうか。
それに俺は二人以外にもたくさん告白していたっけ。特に多いのがあの二人なだけでさ。あーあ、俺って本当に嫌な奴だなー。
「俺さ、お前の事告白した時以上に気に入ってるんだ」
「私も後悔していないわ」
そう言っている二子の表情は、俺の胸板に埋めていて見る事は出来なかった。彼女がどんな表情で後悔していないと言ったのか。それだけが気になっている。二子の表情が気になる。そう思った俺は彼女の顔を上げさせる。彼女はその行動に驚きはしなかったが、少し拗ねている様子だった。
「いきなり何?」
「あ、いやお前の顔が見たくて」
「…………ふーん。感想」
感想? 感想か。そうだな。俺は二子の頬を両手で包むと、彼女は少しくすぐったそうにする。
「最高だな」
「…………私、ペットじゃないわ」
どうやら可愛がり方が気に入らなかったらしい。俺の彼女はわがままで甘えん坊でよくわからないところは多いけど、現状は満足している。
でも本当にわからないところは、いつか聞き出したいものだ。
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