2発目 納豆の事が好きなんですか?

 朝、俺のスマフォに通知が来ている。どうやら通知の主は浅葱あさぎのようだ。


 浅葱からのメッセージには『寝坊ですか? 今日の告白ができませんよ?』


 メッセージを確認する俺は浅葱に返信をする。


『わりぃ。俺、彼女できた。もし練習相手が必要なら俺みたいな雑魚じゃなくて強そうなやつを探してくれ』


 そう返信をすると、いきなり電話が鳴る。浅葱からだ。


「どした浅葱?」

「納豆君、彼女ってどういうことですか? 明科あかしなさんですか!?」


 浅葱はものすごい勢いで喋りだし、電話越しでも取り乱している事が分かる。


「ああ。昨日、二子にこと付き合うことになったんだ」

「そ、そうです…………か」


 浅葱は何故か消沈しているような声を出しているが俺には何もわからなかった。そもそも浅葱は俺の告白を全て断っていただろうし、俺が付き合い始めたからと言って…………やはり朝稽古の相手としてちょうど良かったのか?


「なあ浅葱、お前もしかして俺の事をさ…………その…………「わあああああああああ!!! 良いです言わなくて!!! 切りますね!!!!」


 …………そうだよな。幼馴染の恋心? モテたい精神? を利用して自分が強くなるためにしていたなんて言いにくいよな。俺の胸にしまっておこう。


 てゆうか普通こういう時は彼女からのモーニングコールが来るべきではないだろうか。


「あ…………俺、二子の連絡先知らねぇ。教えてもねーわ。一緒に登校できねぇじゃん」


 そう思って俺は母さんが用意してくれているだろう朝食を食べるために一階のリビングに向かう。普段なら父さんと母さんの話し声が聞こえてくる頃合いなのだが…………あれ? 今日はやけに静かだな。調理する音すら聞こえない。てゆうかリビングの明かりがすりガラス越しに漏れていない。


 俺は恐る恐るドアを開けると、台所にいるはずの母さんはいない。食卓に座ってメールチェックをしている父さんもいない。


 代わりにテレビ前のソファで横たわっている人物がいた。


「何やってるんだお前?」

「? おはようナツト…………」


 長い金髪に碧眼の美少女。明科あかしな・ミハイロヴナ・二子にこが寝ていたのだ。しかも俺の部屋着にしているジャージを着ている。


 俺は急いで父さんと母さんを探すがその姿はどこにもなく、二子の方に視線を向けると、彼女はゆっくり立ち上がり、こちらにのそのそと歩いてきた。そして一言。


「洗面所ってどこだったかしら? 運んでもいいわよ?」

「え? えっとこっちだな…………????」


 なんで両親がいなくて、こいつがいるんだ!?!?!???!?!?!?!?


 俺は二子にこを連れて洗面所まで案内する。そして顔を洗い終わった彼女は、俺に言う。


「おはようナツト…………ソファってあまり寝心地が良くないのね」

「え? あ、そうだな…………なんでお前いるの? 逆に父さんと母さんはいねぇし訳わかんねぇよ」


 俺がそう呟くと、彼女は何事もなかったようにしゃべりだす。


「お義父様とお義母様なら海外よ。出張に行って貰ったわ」

「え? ん?」


 父さんの出張に母さんが着いていったのならいなくてもわからなくもない。だが、それって事前にわかる事だし、俺が知らないのはおかしい。あと少し気になるのは行って貰ったという言い回しだ。それから…………。


「じゃあなんでお前がいるんだよ」

「? 私達恋人でしょ? それ以上に理由はある?」


 理由あるだろ!? 高校生の恋人は同居しねぇんだわ!!


 だがしかし、彼女の行動を止めるものはいない。彼女はリビングのカバンの脇に置いてある綺麗に畳まれた制服に手を伸ばして俺の方に視線を向ける。


「着替えたいのだけど…………どこか良い場所はあるかしら?」

「え? ああ、そうだな。今日も学校はあるし遅刻はできねーな。母さんの部屋を使ってくれ。こっちだ」


 そう言って彼女を母の部屋に案内する。状況はまだ納得できていないが、このままここで言い争うのはそれこそ時間の無駄だろう。


 とにかく家の事は放課後に回そう。両親がしばらくいない事を考えると、とりあえず俺と二子が納得できればいいのだろう。


 母さんの部屋で制服に着替えて貰っている間に俺も制服に着替え、トーストを焼いてマーガリンやジャムを塗るだけの簡単朝食とお湯を入れるだけで飲めるコンソメスープを用意し、ペットボトルのコーヒーをコップに注いだ。


 彼女もリビングにおりてきて、何のお礼も言わずに食事を始める。しいて言うなら、なんか少し祈っていた。


 パンをかじりながら優雅にコーヒーを飲む美少女。一応俺の恋人のつもりらしい。なんかもう本当に高校生カップルってこういうのだっけ? って思ってる。


「学校。行くわよ」


 そう言って彼女は俺の腕を引っ張っていく。俺はなされるがままに彼女に連れられ学校へ登校するのだった。


 最初こそ何もなかったが、同じ高校の奴らが集まってきた辺りで異変に気付かれる。そう、俺の隣に浅葱以外の女子がいて一緒に登校しているのだ。


 しかも美女なら誰でも告白する俺と、昨日転校してきたハーフの美少女の組み合わせなら、注目しないはずもない。


 そして案の定俺たちに気付いて話しかけてくる生徒が現れた。戸越光とごし ひかりだ。


「え? ちょっと納豆、それ誰? 昨日言ってた転校生!?」


 そう言えば光は二子と会うのは初めてか。


「彼女の二子だ。二子、こいつは戸越光とごし ひかりと言ってまあ友達だな」

「友達って…………まあそうか」


 光はどこか腑に落ちないようなリアクションをしている。そんなに俺の友達って嫌なのか? やっぱり節操なしに見えてたりするのかな?


 二子は光に軽く会釈して言う。


「ええ、初めまして。明科あかしな・ミハイロヴナ・二子にこです。ヒカリさんねよろしく」

「あ…………うん、よろしく」


 光は二子と握手をして、そのまま俺の耳元に顔を寄せる。


「彼女って本当? だって納豆だよ?」

「仕方ねーだろ。OK貰ったんだから。あと彼女出来ない理由がおかしいだろ」


 俺がそう言うとまだ納得していない雰囲気だ。え? 俺ってそんなに彼女出来なさそうな見た目だったりするの? 確かに彼女欲しいっていつも言っているけど。それがいけないって言われたらまあわからんでもない。


 そして二子の方を見ると、光に聞こえないように俺に言う。


「ナツト…………浮気は三人までよ?」

「しねぇよ!?」

「ん?? 納豆何話してたの?」


 光が俺たちに言うが、俺は首を振ってごまかす。これ以上説明すると面倒になるからな。そんな会話の途中で光は言う。


「ところで……どうして明科産は納豆と一緒に登校してるの?」

「それは……」


 俺が答えようとする前に二子が言う。


「どうしてって…………同じ家から同じ目的地に向かうのだからわざわざ別行動する必要はないでしょう?」


 二子がそういうと、光の目は見開いてゆっくりと顔がこっちに向いて喋り出す。


「同じ家からってどういう事かな納豆?」

「いや、その……それについては俺も説明願うとこだから俺に聞かないでくれ」


 同じ家にいる理由なんて俺もわかんねーよ。今のところその理由を知っているだろう少女は俺たちの会話を静観している様子だ。


「もう行こうぜ? 遅刻しちまうぞ?」

「え? うん」


 そうして俺と二子と一緒に光もついてくる構図になった。別に女二人をはべらせているつもりはないが、はたから見ればそう見えなくもないだろう。そして教室につくと、すぐに浅葱に捕まり質問攻めを受ける。


「どういうことですか納豆君!!」

「ん? いやだから付き合うことになったって言っただろ? それ以上はねーよ」

「違いますよ!! どうして朝から明科さんと一緒にいるんですか!?」


 浅葱の大声により、クラス全員が注目している。やはり女子からフラれまくっている俺と美少女転校生の組み合わせは異常なのだろう。


 クラスのざわつきをどうしたものか。いいや、開き直ろう。


「いやぁ俺達付き合うことにあったんだよ!」


 そう言って俺は二子の肩に手を回すと二子はツーンとした表情のまま淡々と答える。


「そうね」


 そのあまりの温度差にむしろクラスは困惑していた。浅葱は二子の手を取って「大丈夫ですか? 弱みとか握られていませんか? あ、いえ納豆君はそんなことする人間ではないのですが!!」とか言ってる。


 まあ、そうなんだよな。あって一日で俺と付き合い始めたんだ。付き合いの長い浅葱ですら裏があるのではないかと疑っても仕方ない。


 そんな中、教室の空気が煩わしくなったのだろう。二子が口を開く。


「確かアサギさんね? 彼と付き合い始めたのは事実だし、弱みも握られていないわ。安心して頂戴」

「は、はあ。わかりました」


 浅葱が納得しきれていなそうな返事をして、二子は自分の席に着くために俺の手を離す。そしてそのまま自分の席に座って窓の外を眺めるのだった。


 俺の周囲にはクラスの男子たちが集まってきてHR始まるまで質問攻めにあったが、正直俺からも答えられることはほとんどなく、男子たちは俺が何かを秘密にしていると勘違いして質問攻めはヒートアップしていった。

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