3発目 納豆の見た目はいかがですか?

 授業の合間の小休憩時間、俺の周囲には男子たちが集まり、二子はそうそうに教室から消え質問攻めから逃れていた。


「どうやって付き合ったんだ!?」「元から知り合いだったのか?」「キスはしたのか?」「弱みでも握ったんだろ!?」「金か!?」「プレゼントか!?」「呪ってやる!!」「九条院さんはどうするんだよ!」「戸越さんは!?」「お前こないだ小倉にも迫ってたよな!?」「芦谷さんはどうした!!」「長井さんも告白されたって言ってたぞ!!」


 色々な質問が飛び交う。後半は仕方ねぇだろ性分なんだから。てゆうかこっちから告白したが全員俺を振ってるんだから俺が別の女に告白して悪い道理はないだろ。


「付き合った理由は、俺から告白した。昨日転校してきたから初対面だな」


 俺がそう言うと男子たちはさらに質問攻めをしてくる。


「どこまでやったんだ!?」「お前まだ童貞だろ!!」「二子ちゃんかわいいよな? 俺のこと紹介してくれよ」「戸越さんや九条院さんはどうするんだよ!」


 俺はその質問に対して答える前にチャイムが鳴る。次の授業が始まると男子たちは蜘蛛の子を散らすようにきえていった。次の授業が始まる頃にはしれっと自席に座っている二子。なんだろう。せっかく彼女ができたのに何から何まで思っていたのと違う気がする。


 ただ本人は思いっきり恋人のつもりだ。ただし言動だけであり、行動はあまり恋人らしくはない。


 俺はこのまま二子と付き合い続けるかいきなり悩んでいる。そもそも付き合い始めてからいきなり同居生活な上にいたはずの親は、俺の知らないうちに追い出されている。


 それになんでOKしてくれたのかもいまだにわからないんだよな。気の迷いと言っていたがそのあとの流れがおかしい。


 父さんと母さんを海外に送るには事前に行動しなきゃだし明らかに時間も足りない。元から仕込んでいたと考えるべきか?


 それはそれとして昼休みくらい付き合っているんだし一緒にいてもいいよな? そう思いながらも授業の合間の拷問を耐えながら俺は昼休み二子を連れ出しどこか人のいない場所を探す。


 二子は俺に腕を掴まれたまま黙ってついてくるだけだった。


「二人きりになりたいの?」

「え? あー、人のいない場所を探しててだな」

「二人きりになりたいのね」


 いや、間違ってないけどニュアンスが違うような。ん? いや、恋人らしいことをしたかったわけだし間違っていないか。俺は周囲の質問攻めから逃れる事ばかりを考えていて、いつの間にか逃げるが目的になっていたが、二人きりになりたいも高校生カップルなら当たり前の行動か。


「二人きりになって……何をしたいのかしら?」


 二子がそう言って上目使いで俺を見る。俺は少し考えてから答えた。


 したいことならたくさんある。手を繋ぐはやはり登下校か。一緒に昼を食べるのもいいし、キスもしてみたい。もっとこうドキドキするような青春を味わいたい。


「その一緒に飯にしねーか?」

「お弁当もないのに?」


 そういえば朝、用意してない。そう思って固まっていると二子はクスクスと笑っていた。そして彼女はポケットからブロック状の携帯食糧を取り出した。


「こんなものしかないけど、分けてあげるわ」

「あ、じゃあせめて飲み物買ってくるわ。何がいい?」

「炭酸」

「わかった」


 俺は二子をあまり人の来ない空き教室において近くの自販機まで向かい飲み物を二つ買ってきた。そして彼女のところに戻ると、二子は窓際にもたれかかり、外の景色を眺めていた。


「戻ったぞ。ほら、炭酸何がいいかわからなかったらサイダーにしたぞ」

「ありがとう」


 俺は二子の隣に座り、一緒に買った飲み物を一口飲む。炭酸が口の中ではじける感覚と甘みが口の中に広がる。


「はい、お食べ」


 そう言われ、彼女はブロック状の携帯食糧の包装を剥がし、手に持ったまま俺の口元に突き出す。これはあーんって奴なのか? なんか餌付けっぽいなこれ。 てゆうか餌付けじゃね?

「いや、自分で食えるけど?」

「いいから食べなさい。それともいらないの?」


 飯抜きは正直キツイが購買まで行けばまだ何もないというわけではない。しかしこの状況でクラスメイト達の多い購買に行くのもな。


 俺は意を決して二子から食べさせてもらった。口の中がパサつくし、正直食べなれた微妙な味だ。


「おいしい?」

「…………まあ? それなり?」


 俺の答えに二子はため息をつく。


「まぁ、コンビニの売れ残りですものね。こんなものでよければ毎日食べさせてあげるわ」


 いや、さすがに遠慮するわ。そう思いながらも彼女がもう一本差し出すので、俺はもう一つも食べる。そんな俺の顔を見て彼女は言うのだ。


「まだ食べたいのかしら? 甘えん坊ね」

「甘えん坊って…………」


 いや、確かに餌をねだる犬猫みたいな行動だったが。しかし、俺って二子から見たらこんな感じなのだろうか?


「もう一本いる?」

「いや、お前も食べろよ。食べさせてやろうか?」

「嫌よみっともない」

「え? …………え?」


 俺が困惑していると、彼女はそのまま携帯食糧をかじる。そして食べながら俺に言った。


「だって餌を乞うて口を開けて待っているなんて……恥ずかしくないのかしら?」

「彼氏にやらせておいてか?」

「そうよ。自分じゃ恥ずかしくて出来ないわ」


 こいつに告白したの失敗したのでは???????

 こいつの良いところが外見しかねえ。いや、外見で告白したのは俺だけどさ。


 こんなことなら浅葱や光相手に粘っていれば…………ただ嫌われているわけでもないし、二子もきっと良いところがあるはずだ。…………ある…………はずだ。俺はそう思いながら二子と一緒に昼休みを過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る