20発目 薙刀の届く範囲、護れる範囲
ある日のことだ。登校してすぐ、神薙さんから屋上に呼び出された。一応親友の彼女だし告白ではないだろうが…………一体何の話だろうか。…………いや、二子の事だろう。
「話って何神薙さん」
俺が声をかけると、さっきまで空を見ていた神薙さんはこちらを見て話し始める。
「おはようございます水戸君」
そしてまた空を見てから彼女は」ゆっくりと話し始めた。
「明科二子についてお話があります…………貴方が彼女に深入りする前に…………言っておかなければならない事があります」
「ああ」
彼女はきっと二子の事情を知っている。それを二子の口から聞く前に俺が聞いていいのかわからない。でも、俺は二子の事が知りたかったから…………二子には悪いけど、神薙さんの話を聞くことにした。
「明科二子は…………表の人間ではありません」
「表? いやいや…………二子は普通の女の子で……」
わかっている。普通の女の子は彼氏の家に住み着かない。普通の女の子はその環境を住みやすいように俺の両親を海外に飛ばすことなんてできない。
俺が黙るところを見ると神薙さんはため息を吐く。
「わかっているのに…………認めたくない…………愚か者です」
「いや……その、俺は……」
「私は貴方を責める気はありません。貴方では…………彼女を制御できるはずがない。本当は放っておけば終わる関係と思っていましたが、思いのほか彼女は貴方に執着した…………それでは…………私が困るのです」
「なんでだ?」
わずかな沈黙。神薙さんはここまで表情を変えなかったが、少しだけ強張って話す。
「彼女はとある犯罪組織の跡継ぎでしてね……正確には跡継ぎの息子さんが逃げ出して日本人と婚姻し生まれた娘。それが赤科二子です」
「は?」
じゃあ二子は…………
「犯罪組織から逃げ出した親父さんと一般女性の間に生まれた娘…………なら問題ないね…………あいつが悪い奴じゃないってわかればいい」
「その思想は危険です。彼女の居場所がばれれば…………貴方も…………彼女の周囲の人間も!!」
「それでも構わない」
俺は……二子と一緒に居たい。彼女の事情を知るのは怖いけど、それ以上に一緒に居たいと思えた。彼女はそれを望んでいると思ったから。
「はあ……」
神薙さんはため息交じりにそう吐くと立ち上がる。そして俺を見ると口を開いた。
「私が何者かも尋ねないのですね…………ですが構いません。貴方が赤科二子を想い、彼女が貴方を想うのであれば………もう好きにしてください。私も好きにさせてもらいます」
そう言って神薙さんは屋上を後にした。俺はしばらくそのまま立ち尽くすことしかできなかった。
そして授業が始まる前に俺は教室に戻ると、先に戻っていた神薙さんは授業の準備をしていた。俺が戻ってきたところで、二八や浅葱が声をかけてくる。
「おいおいどこ行ってたんだお前」
「あいや…………、トイレだよ」
さすがにお前の彼女と一緒に屋上にいたって言いにくいな。
「なんだよウンコか?」
「ぶっ飛ばすぞ」
女子の目の前でウンコとか恥ずかしいことやめろよな。そう思い、二子を探すと彼女は自分の机に座って窓の外をじーっと眺めるだけだった。
彼女が…………悪い奴らから逃げ出して、痕跡を出さないために俺の家にいる事が都合が良かったのだとしても…………俺は彼女と一緒にいようと思う。
「二子!」
「ナツト? 授業始まるわよ」
「声掛けたかっただけだよ」
「…………? 変なの」
二子は少しだけ嬉しそうに笑う。
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