第35話 ハージマルダンジョン攻略(7)

 ルークの話を聞いた後のシャルは、何か吹っ切れたような顔をしていた。

 戦い方も今までとは変わり、ただ相手を倒すだけではなく索敵や誘導など、様々な状況を意識して戦うようになっていた。


 これにはルークも内心驚き、シャルのセンスの良さを改めて評価するのであった。


 5階層を進むにつれ、エリンとシャルの戦い方にお互いの長所を活かすチーム戦術が見られるようになる。シャルは相手の意識を自分に向け、エリンの攻撃範囲内に相手をおびき寄せる。そしてエリンが大人顔負けの打撃で相手を屠った。


 この戦い方により、2人は危なげなく5~8匹ぐらいのゴブリンを相手にできるようになっていた。


「2人とも凄いじゃないか。今日一日で見違えるぐらい強くなってるよ」


「エヘヘヘ。そうかな。シャルちゃんが一緒だと、凄く戦いやすいんだよ。私なんかメイス振るだけでいいし」


「シャルもエリンがいると凄く楽ちん。それにいろんな戦い方の練習もできるニャ」


 2人は顔を見合わせて笑い出す。


「さてと、そろそろボス部屋につくぞ。あそこに見える扉の先がそうだ」


 ルークが指を差すと、2人は少し緊張したように視線を向ける。


「ルーク君は、ボスがどんな魔物か知ってるの?」


「もちろんだ。ボス部屋にはボブゴブリンが一匹いる。ただ、まれにレアボスと呼ばれるボスがでてくるときがある」


 レアボスの存在は、様々な英雄譚により広く知られていた。ただし冒険者からは、一部の高ランク冒険者を除き忌諱ききな存在として扱われていた。


「レアボスって、あの出てきたらすぐ逃げろって言われてるレアボスのこと? えっ、入門ダンジョンのここにも出てくるの!?」

 

「もちろん出てくる。レアボスは魔法攻撃をしてくるゴブリンメイジだ。少し厄介なのは、ボブゴブリンやゴブリンファイターが一緒にでてくるところだな」


「ご主人様、もし、レアボスが出てきたらどうするニャ?」


 エリンとシャルは不安そうな顔でルークに尋ねる。


「もちろん、喜ぶに決まってる!」



「「……はい?」」



 ルークの笑顔に2人は戸惑う。


「実はダンジョン図鑑の魔物カードの種類は8枚なんだ。ここまで集めたのは6枚。そうなると、残り2枚はボスと……」


「れ、レアボスなの!?」


「アハハハ、そういうこと。困っちゃうよね、レアボスが出てくるまで図鑑を完成コンプリートできないなんてさ」


「けど、ダンジョンは一度ボスを倒すと、もうボスと戦えない。どうするんだニャ?」


 ダンジョンボスはパーティーにボスを未討伐のメンバーがいないと出現しない。3人のパーティーでは、メンバーを入れ替えても3回しかチャンスはないのだ。


「簡単だよ。もしレアボスじゃないときは逃げればいい。入門ダンジョンはボス部屋からいつでも出られるんだ。それよりも上位のダンジョンでは、エスケープボールという脱出アイテムを使う。けど、これを使うとダンジョンの外に出ることになるから、またボス部屋まで戻ってこないといけないんだけどね」


 る、ルーク君。それって入門ダンジョン以外も全てレアボス倒すつもりってことかな? いや、いくらルーク君だって、物語に出てくるような魔物を倒すなんて言い出さないよね。


 エリンが心の中でルークに質問しているうちに、ボス部屋の前まできてしまった。


 エリンとシャルが扉の前で立ち尽くす横で、まるで家に帰ってきたかのようにルークは緊張感なく扉を開けて中へ入っていく。

 2人はルークの姿が消えると、慌ててボス部屋へ入っていくのであった。


 3人がボス部屋に入ると、扉は自動的に閉まった。

 ルークは振り返り、扉を指差し2人に向かって説明する。


「今、扉が閉まったけど、入門ダンジョンだけは内側からも扉を開けて外に出られるんだ。だからここから逃げられるよ」


「そうなんだ。それじゃあ、私とシャルちゃんはルーク君が問題なく勝てそうと思ったら外に出るね」


「ああ、それでいいよ。ちゃんとボスの倒し方も見ていてくれ。2人とも僕がボスを倒しきるまでに、ちゃんと逃げるんだ——って、あれ?」


 ルークはこの部屋の奥から、複数の魔物が出てきたことに気づいた。


「オォォォォォ! なんてラッキーなんだ! 出たよ。レアボスをいきなり引き当てちゃったよ!」


 ……レアボス? まさか、レアボスが出てくるの!?

 ルーク君って、ちょっと待って! ……ダメだ。嬉しそうに叫びながら行っちゃったよ。隣にいるシャルちゃんも、ワクワクしながらルーク君に目が釘付けになってるし。


 レアボスだよ。みんな逃げ出すような怪物なんだよ! ルーク君、アレは宝箱じゃないんだからね!!


 ルークが走る先には、ゴブリンファイターが5匹。そして後方には一際大きな身体に鎧を装備しロングソードを持ったボブゴブリンと、ローブ姿で杖を持つゴブリンメイジの姿があった。


「アハハハ。絶対に逃がさないよ。まあ、ボスだから逃げることはないんだろうけどね!」


 ルークの身体が紫紺色しこんいろに輝き出す。そしてルークはナイフを構えながらつぶやいた。

 

「……紫の奥義『紫月しげつ』」


 するとルークの身体を纏っていた紫のオーラが、右手に持つナイフに集まり幻想的な刀身をつくり出す。


 ルークはゴブリンの集団から5メートル以上離れた位置で止まると、オーラを纏ったナイフを横に一振りする。ナイフに纏っていたオーラは、紫色の閃光となってゴブリンの集団を襲った。


 その一撃は、一番手前にいたゴブリンファイターの胴体を真っ二つに切り裂いた。


 ルークは自分の放った閃光の威力を確認するとニヤリと笑う。そして、まだオーラを纏ったままのナイフをゴブリンの集団めがけて幾重にも斬りつける。一振りごとに紫色の閃光はゴブリンを襲い無残な姿へと変えていった。


 9回目の閃光が放たれた後、この部屋に生きた魔物の姿は無くなっていた。

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