第12話 3つの約束
「さて、これでエリンの職業の問題は解決した。今度は僕の3つのお願いを聞いてもらうよ」
ゴクリ……エリンは唾を飲んでルークの言葉の続きを待つ。
「そんな心配しないでくれ。とても簡単なことだよ。1つ目は僕とパーティーを組んで欲しい。お互いのスキルを活かすためにもどうかな?」
「う、うん。もちろんだよ。こちらこそお願いします」
エリンはペコリと頭を下げる。それを見ていたミアは嬉しそうに拍手していた。
「2つ目は僕がエリンのスキルを必要としたときに協力してほしいんだ。図々しいようだけど、可能な限り僕の依頼を優先してほしい。これはエリンの職業の謎を解いたご褒美みたいなものかな」
「ルーク君のお手伝いをすればいいってことだよね。もちろん良いよ!」
エリンは笑顔で頷いた。それを見ていたミアは頬をにんまりとさせていた。
「3つ目は僕の能力について秘密にすること。もちろん親や先生達にもね。珍しいスキルというのは、ときには権力者のオモチャになることがある。僕は貴族に強引に連れて行かれて、奴隷のような人生を送るのは真っ平ごめんなんだ」
「えっ! そんなことになっちゃうの!? わ、私がレアだってことも隠した方がいいのかな?」
「うーん。僕なら絶対に秘密にしておくかな。もしエリンも秘密にしたいのなら、僕は誰にもしゃべらないけど、どうする?」
「わ、私も秘密でお願いします! けど、家族や先生にも秘密にした方がいいの?」
「家族や先生を信じてないわけじゃないんだ。秘密っていうのは知ってる人が増えれば増えるほどすぐにバレる。本当に秘密にしたいことは、知っている人を極力減らさないと」
「そ、それなら、ルーク君のスキルのこと私に教えちゃっても良かったの!?」
「……正直言うと教えたくなかった。けど、エリンが困っているようだったからね。だから3つの約束を要求したんだ。僕は君が約束を守ってくれる人だって知っているからね」
「う、うん。ま、任せてよ。私は絶対に守るよ。親にも先生にも言わないもん」
エリンは力強く頷いた。この人は私と同じ年齢とはとても思えないほど、沢山のことを知っている。もしかしたら大人の人達よりも。
ルークはエリンから信用を得られたことに満足し1枚のカードを取り出した。『リリース』と唱えると1枚の紙が現れた。
「これは契約紙と呼ばれるものだ。この紙に約束を書いて契約師に契約魔法をかけてもらうと約束を破れなくなる。念のため約束は契約魔法でしてもらうけどいいよね?」
「えっ、えっ、契約魔法って……そこまでするんだ……」
エリンは契約魔法について、父の職場で耳にしたことはある。契約を破ると大金を払ったり奴隷に落ちたりするとか。ものすごく恐ろしいものらしい。
エリンがドン引きしているのに気づいたミアがルークに注意する。
「お兄ちゃん。契約魔法を使う理由をちゃんと説明しないと、エリンお姉ちゃんがドン引きしてるよ」
「ん? あっ、なるほどな。エリン、この契約は君を縛るつもりじゃなくて守るためにするんだよ。先に僕と契約してしまえば、後から悪意のある人が無理矢理エリンと契約しようとしても成立しないんだ」
「そ、そうなの?」
「ああ。例えば君のお父さんが詐欺にあって借金したとしよう。そのお金の代わりに君を売ろうとしても、僕の契約があるから売ることはできないんだ。その他にも契約魔法を悪用して、君の口から無理矢理僕たちの秘密を聞き出そうとしても防げるんだ。身を守るためにこのぐらいするのは普通だよ。なあ、ミア?」
「うん。わたしもお兄ちゃんと契約しているんだよ。攫われて奴隷に売られることがないようにね」
「そ、そうなんだ。ハハハ」
「契約書の内容を相手に伝えきちんと理解してもらわないと契約魔法は成立しない。これから書かれていることを読むから、わからないことがあれば質問して欲しい」
ルークは契約紙に書かれてある内容をエリンに説明する。先ほど説明した3つの約束とほぼ同じ内容だったが、次の一文が追加されていた。『この契約は全ての契約において最優先に適用される。契約内容について不明な点がある場合は、解釈する際にルークの同意を必要とする』
ルークは説明が終わるとナイフを取り出し、自分の親指をそっと切る。そして自らの血で契約紙に捺印した。
エリンもルークに習い、恐る恐る契約紙に血印したのであった。
「これで僕たちは正式なパーティーだ! とりあえず僕は契約師のところへ行って契約魔法をかけてもらってくる。だから今日は解散でいいかな?」
「う、うん。なんかすごく不安なんだけど……きっと気のせいだよね」
「ああ、間違いなく気のせいだ。僕が君をきちんと育てるから安心してほしい。僕は広場の方へ行くから途中まで送るよ。さあ、ミアも帰るよ」
こうしてルークのパーティーに最初のメンバーが加わるのであった。
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