第13話 パーティー編成

 翌日、エリンは学校の教室に入ると自分の席にタミル君が座っていた。

 どうしたんだろう? タミル君の席って、ルーク君の前の席だったよね?

 オロオロしていると、ルーク君の声が聞こえた。


「エリン、おはよう。君の席は僕の前の席に変わったんだ。机を含め私物は全て入れ替えてあるから安心してくれ」


「……はい?」


「今日から僕たちは同じパーティーだ。だから席は近い方が良い。それは剣聖であるドランも言っていたとおりだよ。タミルには僕の方から了承をもらっているから大丈夫だ」


 あれれ……私は何も聞かされてないんだけど。ま、まあ、同じパーティーだから席は近い方がいいよね。

 戸惑うエリンを余所に、それを聞いていたアリスがルークに詰め寄る。


「い、今、ルークとエリンがパーティーを組んだって聞こえたんだけど!?」


「ああ。昨日、正式にパーティーを組むことになった。僕が誘ったんだ」


「エェェェェェェェ! ルークから誘ったの! 私とは組んでくれないのに!?」


「僕とエリンは非戦闘系だからな。僕がアリスとパーティーを組んでもしょうがないだろ」


「うっ……そ、それはそうかもしれないけど」


「先生が来たみたいだぞ。アリスもエリンも早く座るんだ」


 ワタワタしながらエリンがルークの前の席に座ると、ちょうど教室のドアが開きシエル先生が入ってきた。


「みなさん、おはようございます。今日はダンジョンについて学習します。例年はもっと後に行うのですが、今年は英雄職が二人もいるので早めに実施することになりました。詳しいことは順を追って説明するので、まずは3~4人でパーティーを組んでください。このパーティーは今後の授業でも同じ仲間になりますので慎重に選んでくださいね」


 なんというタイミング。ルークは昨日の自分を褒めちぎりたい気分になっていた。

 アリスはドランと取り巻きであるサミエルとトムの4人でハーティーを組むことが決まった。アリスはルークとパーティーを組みたいと必死になって抵抗していたが、シエル先生に説得され泣く泣くドランと組むことになった。


 残りは非戦闘スキルを持つ6人。ルークはエリンを連れて少し離れる。するとタミルを中心とした仲良し三人組も少し離れた。教室の中央にポツンと1人、フードを被った小柄な女の子が立っていた。


 ルークはこの子について全く見覚えが無かった。勇者だった前回も一度も話さなかった可能性がある。そのぐらい存在感の無い子だった。


「あら、シャルさんは一人みたいね。ルーク君のパーティーは2人だけだから、そこに入ってちょうだい」


 シャルと呼ばれた女の子は、その場から動くこと無くルークとエリンのことをジーッと見つめている。ルークは仕方がなさそうにシャルの近くまで歩き、フードをめくった。


 そこにはサファイアブルーの瞳が似合う銀髪の少女の顔があった。そして頭に生えているネコ耳がピコピコと動く。


「君は猫人と人のハーフかな?」


「にゃ、にゃ、にゃにするニャー!」


 その光景に教室がザワザワし始めた。


「アイツ、猫人のハーフだったのか」

「いつもフード被ってるからおかしいと思ったんだ」

「亜人って学校に通えるのか?」


 シャルはすぐにフードを被り直しネコ耳を隠した。


「そういえば洗礼の儀式のときに、『野良猫』の職業だったやつがいたな。あれはお前だったのか! 野良猫ってどんな職業なんだよ。ギャッハハハハ」


 今、ドランのやつ『野良猫』って言ったか? それはおもしろいじゃないか……当たり外れはあるが、大化けするかもしれないぞ。


 ルークは周りを無視するように、シャルの手を取った。シャルは何事かとうつむいていた顔を上げてルークを見る。

 そこには爽やかな笑顔をした黒髪の少年の顔があった。


「君は猫人のハーフなんだろ。どうしてそれを隠すんだ? 君の身体能力は人よりも遙かに優れている。それには『野良猫』という職業は、多種多様でどんなスキルが発生するかわからない面白い職業なんだ。今のうちから凹む必要なんか全く無いよ。君は優秀だ。是非僕たちのパーティーに入ってくれ」


 その言葉にエリンは頬を赤くし、アリスは「エェェェェェェェ!」と心の中で絶叫をあげていた。

 シャルは一瞬何を言われたのか理解できず目をパチパチさせていたが、ルークの言葉の意味がわかるとまた顔を伏せた。


「グスッ……しょうがないからパーティーに入ってあげるニャ……です」


「ああ、よろしく。僕がちゃんと育成するから安心してくれ」


「私はエリン。シャルさんよろしくね!」


 シエル先生が笑顔でパチパチと拍手すると、みんなからも拍手が送られた。その光景を見て「チッ……」とドランだけは舌打ちしていた。


「パーティーを作り終えましたので、これから冒険者ギルドに行って冒険者として登録します。登録費用は学校で支払いますので安心してください」


「先生、どうして冒険者になるんですか?」


「タミル君、良い質問です。ダンジョンには冒険者しか入れないことになっています。だからみなさんには必ず冒険者登録してもらいます。学校を卒業した後、冒険者ギルドを退会するかどうかは、みなさんが自由に選んでください」


 それから先生と生徒一同は町の広場に面したところにある冒険者ギルドへ向かった。

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