第14話 月夜の宴

 冒険者ギルドに入ると数人の冒険者がいた。彼らは生やさしい目で生徒達を見ていた。都市国家バルムを拠点としている冒険者にとって、学生が授業の一環で冒険者登録するのは知っているからだ。


 生徒達は渡された登録用紙に授業で習った自分の名前を記入する。登録が終わると次はパーティーの申請用紙が渡された。ルークはエリンとシャルと一緒に必要事項を記入していく。


「ルーク君、パーティーの名前の欄があるよ。何にするの?」


「そうだな……何か候補はある?」


「わ、私は特に無いかな。ルーク君が決めていいよ」


「……ん」


 冒険者ギルドに来るまでの道中で、ルークとエリンはシャルが猫人の方言を隠すため、あまりしゃべらないようにしていることに気づいていた。猫人の方言とは、語尾に『ニャ』がつくことだ。


「僕が決めていいんだね。そうだな……これでいいか」


 ルークが申請用紙にペンを走らせると、2人は書かれた文字を読んだ。


【パーティー名】月夜のうたげ


「ルーク君、パーティー名には賛成なんだけど、この名前に何か意味はあるの?」


「アハハハ。別に大した意味はないけど、ただ太陽が嫌いなだけかな」


「シャルもそれでいい……」


 ルークは太陽の女神ノエルへの意趣返しに、月の女神にあやかる名前を付けた。

 こうしてルーク、エリン、シャルの3名で『月夜の宴』は登録された。アリスとドランのパーティー名は『英雄のつどい』。パーティー名についてアリスは興味がなかったので、ドランが1人で決めていた。


「これで必要な手続きは全て終わりました。みなさんの手元にある冒険者カードを見てください。ここに書かれてあるランクが冒険者ランクになります。登録したばかりなので全員がGランクです。依頼達成したときの評価は冒険者ポイントとして貯まります。そしてポイントが一定量を超えるとランクは上がる。つまり誰からも評価されるような素晴らしい働き方をすれば、それだけ早く高ランクの冒険者になれるわけです」


 シエルは生徒を見渡し質問が無いことを確認する。


「それでは今からパーティーで依頼を受けてください。依頼が終わったら冒険者ギルドに戻ってきて受付に報告するように」


「先生。どの依頼でもいいんですか?」


「冒険者が受けられる依頼は、自分の冒険者ランクの1つ上のランクから受けられます。ただGランクだけば、Gランクの依頼しか受けられません。Gランクの依頼に危険なものは無いので、パーティーで自由に選んでいいですよ。あと報酬はきちんとパーティーメンバーで当分に分けるように。ドラン君、ちゃんと守るようにね」


 ドランは頷いていたが、内心は「なぜ、わかった?」と動揺していた。



 ◇



「ねぇ、本当に依頼を2つも受けてよかったのかな?」


「ああ。全く問題ない」


「ハイポーションは高い。銀貨5枚はする……シャルはお金持ってない」


「それも全く問題ない」


 エリンとシャルは不安そうに顔を見合わせる。ルークだけが陽気に歩いていた。

月夜の宴が受けた依頼は2つ。『ヒーリル草の採集』と『ハイポーションの入手』だ。


 ルークは寄るところがあると言い、まずは町の広場へ向かった。広場に着くとルークは2人を待たせ一軒のお店に入っていく。エリンはそのお店の看板を見ると『契約屋アラン』と書かれてあった。

 少しするとルークはお店から出てきて、いつも遊んでいる森へと移動する。


「さあ、ここでヒーリル草を探すよ。シャル頼んだよ」


「ん……任された」


 ルークはヒーリル草のカードを元に戻しシャルに渡す。シャルはヒーリル草掴みながら『探索』と唱えた。ネコ耳がピクピクと動くと、シャルはすぐに走り出した。

 2人がシャルに追いついたとき、そこはヒーリル草の群生地だった。


「す、凄いよ、シャルちゃん! ヒーリル草がこんなに沢山生えてるよ!」


「さすが『探索』スキル。シャルは間違いなく当たりの『野良猫』だよ」


「ん……」


 頬を赤くしたシャルはそっぽを向いていた。それを見たエリンは「可愛すぎる!」と頭を撫でる。この2人は冒険者ギルドに行く道中で、かなり仲良くなっていた。


 シャルの職業『野良猫』は、多種多様なスキルを覚えられる。何を覚えるかは親の能力や自分の才能に大きく影響される。つまり『野良猫』という職業は、個人による当たり外れの落差が大きい職業なのだ。


 そしてシャルが覚えていたスキルは『探索』だった。これは探したい物を手に持ち『探索』と唱えると、捜し物がどこにあるかわかるという優良スキル。熟練度により探索の制度や範囲が増える。このスキルをシャルが使えると知ったとき、ルークは心の中で激しくガッツポーズをした。


「それじゃあ。地面から3センチぐらいの高さで切って、僕のところに持ってきてくれ。そうすればヒーリル草はまた伸びて収穫できるからね」


 ルークはいくつかの袋を広げ準備する。当初は父親の水筒ぐらいの体積までしかカード化できなかったが、熟練度が上がった影響で今では一辺1メートルぐらいの箱までならカード化できるようになっていた。


 2人が持ってくるヒーリル草をルークは次々とカード化しランクを確認。そしてカード化を解除してからランクごとに分けて置いていく。

 エリンとシャルが取り終えたとき、ルークの前にはヒーリル草が山積みされていた。


「いやぁ、これは予想以上の収穫だね。エリンには悪いんだけど、もう一踏ん張りがんばってほしい。スキルの熟練度も上がるしね」


「私は大丈夫だよ。それよりもルーク君はそんなにスキルを使って魔力は大丈夫なの?」


「ああ、僕は人よりも魔力が多いんだ。だから気にしないでくれ。ただ魔力切れになるとかなり苦しいから、エリンはキツくなったら我慢しないで言うんだよ」


「うん。ありがとう」


 ルークはF+だったヒーリル草をカード化し、エリンはそれに『進化』をかける。それによりカードは『ケアルの実』に進化する。このケアルの実は、ハイポーションを作るときに必要な材料だ。


 それが一通り終わると、エリンの魔力が続く限りカード化されたヒーリル草のランクを『強化』で上げていった。


 最終的にはケアルの実が10個。ヒーリル草F+が14本、Fが20本になった。それらは一度袋に詰めた後、袋をカード化して鞄にしまう。これら一連の出来事を見ていたシャルはビックリしっぱなしだった。


「ルークとエリンのスキル、す、凄すぎるニャ!」


「アハハハ。シャルちゃんは興奮すると『ニャ』がでるんだね。私は可愛いくて好きだからいつも付けてほしいなぁ」


 それを聞いたシャルは頬を赤くし顔をプイッと背ける。


「シャル、君の『野良猫』はスキルを覚えやすい。これから先、沢山のスキルを覚えていくから楽しみにしているといいよ。どんなスキルを覚えても、僕がちゃんと育成するから安心してくれ」


「……ん。よく分からないけど、ルークに任せた」


 3人は少し休憩した後、森を後にした。


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