第23話 エリンのお店

 いつもの森の遊び場でエリン、シャル、ミアの3人はルークから勉強を教わっていた。


「よし、いつもより早いけど今日はこれで終わりにしよう。これからエリンのお店に行こうと思う」


「エェェェェェェェ! うちのお店に何しに行くの?」


「君のお父さんは鍛冶師だよ。装備を買いに行くに決まってるじゃないか」


「うちで買ってくれるの? それは嬉しいけど、変なことしないよね?」


 ルークは首をかしげる。


「心外だな。いつ僕が変なことをしたんだい? 全く心当たりがないんだが」


 エリンは心当たりしかなかったが、口で勝てる気はしないので全て呑み込んだ。


「お金は各自持っているね。もしどうしても欲しいものがあって、お金が足りないときは僕に言ってくれ。物によるけどパーティーのお財布から貸し出すことも考えるからね」


「……ん。それは安心」


 えっ、シャルちゃん。安心なの? 私は怖いんだけど……

 こうしてミアを残して3人は町の広場へ向かった。

 広場へ着くとルークは教会へケアルの実の納品を済ませる。

 毎週一度行う納品で、ルークは既に両親より大金を稼ぐようになっていた。


「お待たせ。それじゃあエリン、案内してくれ」


「うん。こっちだよ」


 エリンに案内されて歩くと、少し古いお店があった。

 店の前には樽が置いてあり、見習いの鍛冶師達が打った格安の剣が縦並ぶ。そして店内の横にある工房からは金槌の音が聞こえてくる。そこはエリンの父親の工房で、お店は母親が見ていた。


「ただいま」


「あらエリン、おかえり。今日はお友達と一緒かい」


「お母さん、今日はお客さんとしてきたの。この人達は私のパーティーメンバーだよ」


「そうだったんだね。いらっしゃい。いつもエリンと遊んでくれてありがとね」


 ルーク、シャルの2人はペコリと挨拶をする。

 エリンの母親エリサはといい、エリンに似た茶色髪の『人』である。エリンの父親はドンカといい『ドワーフ族』だ。


「今日は装備を買いに来ました。ナイフとショートソードを見せてください。エリンはいつもショートスタッフを使っているけど、メイス槌矛の方がいいと思うけどどうかな?」


「えっ、メイスなんか重くて振り回せないよ?」


「そんなことないよ。エリンを見ていると腕力の値が伸びてる気がするんだ。もしかするとお父さんがドワーフ族だからかもしれないね。騙されたと思って、そこのメイスを持ってみてほしい」


 エリンは「そうかな……」と首を傾げながら、壁に立てかけてあるメイスを持った。みんなから少し離れて軽く振ってみる。エリンは驚いた顔でルークを見る。


「あれれ、前まで持てないぐらい重かったのに……」


 ルークはドヤ顔で頷くが、母親のエリサはビックリしたまま立ち尽くしていた。

 8歳児できゃしゃな体つきのエリンが、見るからに重いメイスを軽々と持っているのだ。自分のお店の商品でなければ、メイスの方がおかしいと疑う光景だった。


「あ、あんた……いつの間にそんな力持ちになったの?」


「アハハハ、きっとルーク君のおかげかな。毎日勉強とトレーニングをしているからね」


 エリサはルークを見る。黒髪の少年は優しく笑う。


「エリンはとても優秀なんです。それにこのシャルも優秀です。だからしっかりとした武器が欲しくてここに来ました。予算の都合もありますが、まずは僕たちにオススメの武器を見せてください」


「よ、予算って……ハッ、わ、わかりました。ちょっと待ってください。今お持ちします」


 エリサは急に丁寧な言葉遣いになり、エリンを連れて店の奥へ行く。

 ギョッとした表情で、誰にも聞こえないようにエリンに尋ねる。


「え、エリン。もしかしてあのルークって子。貴族様じゃないだろうね?」


「えっ、違うよ。トーザさんとハルナさんの子供だよ。あの森の近くの家に住んでるの」


「本当だろうね? あの雰囲気としゃべり方は、とても8歳児とは思えないんだけど……」


「あれはルーク君がおかしいの。性格も行動も全てがおかしいから気にしなくて大丈夫だよ」


「そ、そうなのかい……まあ、わかったわ。それでどのぐらいの金額の武器がほしいんだい?」


「たぶん……ひとつの武器で銀貨20枚ぐらいかな?」


「へ……?」


「えっ? たぶんもっと出せると思うけど、それはルーク君に聞かないとわからないよ」


「いや、いや、ちょっと待ちな。8歳児の子供が1つの武器に銀貨20枚!? Dランクの冒険者が使うレベルの武器だよ」


「うん。私たちのパーティーは冒険者ギルドで依頼とかも受けてるからお金はあるんだ。もうすぐFランクに上がれるって受付のメアリーさんに言われたぐらいだよ」


「……お母さん、全く知らなかったわ。今の学校はすごい進んでいるんだね」


 ルーク君が異常なだけだよとエリンは思ったが、これを口にするのはやめておいた。


「お待たせ。ナイフとショートソードね。あとメイスは今持ってくるよ。エリン、重いから手伝っておくれ」


 エリサとエリンはまた店の奥へ、メイスを取りに行く。

 ルークはその隙に、全ての武器をカード化し元に戻す。ナイフとショートソードが8本あるうち、一番高いDランクが3本あった。

 シャルはその3本のうち一番軽量な片刃のショートソードを選んだ。


 ルークも試しにいくつかの武器を持ってみる。どの武器も重心のバランスやグリップの握り具合が絶妙だった。こんな田舎の町にこれほどの鍛冶師がいたとは、前回は全く気づかなかった。ルークはエリンの父親の技量を高く評価していた。


 それからエリサとエリンが戻ってきた。エリンは短いショートメイスを選ぶ。持ち運びを気にしていたが、ルークが「カード化すればいいんだよ」と伝えると笑顔になった。


「ルーク君は何か買わないの?」


「ああ、僕の装備は十分間に合っているからね。けど実は作ってもらいたい物があるんだ。エリサさん、図面を引いてきたので見てもらえませんか?」


 そう言うとルークはエリサに1枚の紙を渡す。

 紙に書かれた図面の緻密さにエリサは言葉を失った。

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