第31話 ハージマルダンジョン攻略(3)

「うーん。この程度の戦闘なら、あと5回はいけそうだ。思ったより魔力量は増えてるんだな。勇者でいうところのレベル20ぐらいか? 8歳の夏前でこの能力スペックなら上出来だ」


 そう言うルークの周りには、大量の大ネズミの死体が散乱していた。その数およそ40匹。すでにシャルが倒した大ネズミはダンジョンに取り込まれ始めていた。


「さあ、実験材料があるうちに急いで検証に入るとしよう」


 そう言うと、ルークは片っ端から大ネズミの死骸を『コレクト』でカード化していく。


「よしよし、良い調子だ。今日はボスを倒すだけのつもりだったけど、丁度良い実験ができる」


 その後も作業を繰り返していると、19枚の時点でカード化に失敗した。


「19枚までか。手持ちのカードと合わせると33枚。これが今の俺のカード化できる上限枚数…………」


 ルークは手に持ったカードの束を眺めながら、肩をワナワナと振るわせる。

 そして、両手でカードを頭上へとばら撒いた。


「クッククク、アッハハハハハ。ノエル、おまえは完全にやらかしたぞ! 何が呪いだ! 完全にご褒美じゃないかッ!!」


 ルークは両手を掲げながら、大声で笑う。

 それはかつて、自分から自由を取り上げ奴隷のように扱った女神をあざける笑いであった。

 

 ルークは今朝の時点でカード化できる上限は21枚。それが大ネズミを倒した今では33枚に増えていた。これほどまで急激に職業の熟練度が上がることはありえない。

 なぜなら熟練度を上げるのに必要な経験値は、レベルが上がれば上がるほど取得できる量が減るからだ。つまり経験値減少と呼ばれる現象が発生してしまうのだ。


 ルークは以前から、自分の職業の熟練度に疑問を感じていた。毎日のようにカード化できる上限枚数が増えたり、図鑑機能を覚えたりと能力が拡張されていく。

 これは前回勇者だったときと比べても、あり得ないほど早い成長だった。


 これについて、ルークは2つの仮説を立てていた。『収集家』という職業の特性なのか、あるいは『女神の呪い』でレベルが1固定になったことが原因なのかと。


 そして今回一度に大量の魔物を倒し、職業の熟練度がどのように変化するかルークは検証を試みた。その結果、レベルが1なことで経験値減少が発生しない。つまり『女神の呪い』はルークにとってご褒美だったのである。


「あぁ……本当に愉快だ。『収集家』という最高の職業に就けて、さらに熟練度を爆上げできる。まさか、ノエルに感謝する日がくるなんて思ってもみなかったよ」


 ルークは一息つくと周りを見渡した。するとバラバラに落ちたカードの枚数が減っていることに気づいた。


「あっ、マズい。あまりに嬉しくてカードをばら撒いたんだっけ。ヒーリル草とかドロップ化しない素材は消えてしまったか……」


 ルークの作ったカードは、ダンジョンの空気に触れるとドロップ化してしまう。

 魔物カードであれば、50パーセントの確率で魔物を倒したときに現れるドロップ品に変化する。しかしドロップ化に失敗した場合、カードは消滅してしまうのだ。


 では、ドロップ化しないヒーリル草などの素材カードの場合はどうなるのか? これは100パーセントの確率でドロップ化に失敗するため、カードは消滅してしまうのだ。


 ルークは慌ててカードを拾い集め、カードホルダーにしまっていく。

 しかし、あるカードを手にしたとき、ルークは目を大きく開けたまま固まってしまった。


 そこには『暗視スキル☆1』と書かれていた。


「こ、これはまさか……大ネズミのスキルがドロップしたのか? けどスキルがドロップするなんて聞いたことがない。……いや、違うのか。もしかして、今までドロップしていたけど、誰も気づけなかっただけ!?」


 ルークは自分の思いつきに唖然とした。そしてすぐにその可能性に興奮する。


 これって大発見だよな! そもそもスキルなんて見えないモノをドロップされても、気づけるわけがない!!

 このスキルカードを使えば、スキルを覚えられたりするのか!?

 マジ、どうするんだコレ。世界の常識が大きく変わるぞ!


 興奮冷め止まぬまま、ルークは早速スキルカードを使おうとする。


「……手に持っていても何も起きないぞ。もしかして……」


 ルークはカードを胸に抱きしめるように持ち『リリース』と唱えた。

 するとカードは消えた。


「これで覚えられたかな?」


 ルークは『ステータス』で確認してみるが、暗視スキルは覚えていなかった。


「……ということは、今のでスキルカードを1枚無駄にしたのか? 勢いのままに実験してしまったけど、もしスキルカードが超レアアイテムだったら……早まったかもしれない」


 ルークは慌てて床に落ちている残りのカードを拾い集める。その中からなんと『腐食液スキル☆1』を見つけた。


「こ、これは……スライムがドロップ化してスキルカードになったのか? ん……ということは、ダンジョンの外の魔物もスキルカードに出来るってことだよな! マジかァァァァァァァァァァ!! これが本当なら、いろんな魔物からスキルカードを作れるじゃないか! 絶対にこのカードの使い方を見つけ出してやる! 絶対にだッ!!」


 ルークはスキルカードを頭上に掲げて、誰もいない通路で力強く宣言したのであった。



――――――――――――――――

後書き失礼します!


1/28(日)に『プロローグ』(第0話目)を投稿させていただきました。


そちらもお見逃しなく!

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