第29話 ハージマルダンジョン攻略(1)

 翌日、学校が終わるとルークはエリンとシャルを連れ、いつもの森の遊び場とは違う方向へ歩いていた。


「ねぇ、ルーク君。いつもの広場で勉強はしないの? 反対方向へ歩いているよ」


「うん。今日は勉強を休みにしてハージマルダンジョンへ行くよ」



「「……はい?」」



 予想外の答えにエリンとシャルの声が揃う。


「ん? 昨日、学校の授業で行ったダンジョンのことだよ。あそこはハージマルダンジョンって名前だから覚えておいてくれ」


「いや、いや。それぐらい覚えているし、いきなり行くって言うからビックリしたんだよ」


「……ん。ご主人様はいつも突然すぎるニャ」


 ルークは「そうか?」と笑い、足を止めること無く進んでいく。


 いつものことだけど、私とシャルちゃんのビックリはルーク君には全く届かない。

 エリンは軽く嘆きながらため息をついた。


「それでルーク君、ダンジョンには4時間ぐらいしかいられないけど、それまで何するの?」


「2階層の踏破? 魔物の素材集めかニャ?」


 ルークは振り返り、2人を見て首を傾げる。


「何を言ってるんだ? ボスを倒しに行くんだよ」



「「……はい?」」



 本日2回目のビックリである。


「あっ、ダンジョン図鑑のことが気になった? あれは学校の授業のときにやるのが丁度良いんだ。授業形式でつまらないからね。アハハハ」


 エリンとシャルは「気になっているところはそこじゃない」と首を横にブンブンと振って抗議する。


「ん? 違うの? あっ、そういうことか。一昨日買った武器を試したいから、魔物をガンガン狩りたいってことね! その気持ちはとても分かるんだけど、それは明日以降にしてくれ。ドランと勝負をしてるからね。今日は時間もあまりないし、とりあえず倒してこよう」


「な、なんかいろいろ違うし、それにボスが『とりあえず』ぐらいの扱いになってるし!」


「そ、そうニャ! いきなりボスと戦うなんて無謀ニャ!」


 2人は全くかみ合わない会話をなんとか合わせようとするが、近づくどころかどんどんズレていくようにしか感じない。


「安心してくれ。ボスとは最初から僕一人で戦うつもりだ。ここのボスは入門ダンジョンだけあって大して強くない。むしろ、そこへ行くまでの方が大変なぐらいさ」


 ここしはらくの間、ミアとシャルが素材を集めてくれたおかげでボーナスポイントで能力値は大分上がっている。さっさと入門ダンジョンを終わらせて、次に進まないと。アルカディア学園へ行く前に、周辺の初級ダンジョンは全て攻略しておきたいからな。



 ◇



 ルーク達はハージマルダンジョンの2階層に着いた。すでにダンジョン図鑑を完成させていることもあり、真っ直ぐ2階層まで歩いてきた。


「さあ、ここからは少し走るよ。2人は遅れないように僕に付いてきてくれ!」


 そう言うとルークは通路を駆けだした。


「ご主人様。待つニャ! エリンははぐれると道がわからないニャ!?」


「アハハハ。シャルは心配性だな。昨日、あれだけ歩いたんだぞ。エリンだって覚えているよ。よし、最短ルートで行くぞ!」


「は、早いよ。ちょ、ちょっとルーク君、それに私、道は覚えてない——って、通路の先に魔物がいる!」


 地面をスルスルと滑るように移動してくるのは、リトルスネークという蛇型の魔物だった。ルークは腰からナイフを抜き、走りながら地面スレスレにナイフを一閃。胴体を真っ二つにされたリトルスネークは衝撃で宙を舞った。


 見る人が見れば、熟練の冒険者を彷彿とさせる動きでルークは魔物を仕留めていく。その動きに2人は目を丸くする。


「動き滑らかすぎるニャ……」


「ルーク君って、こんなに強かったんだ!」


 魔物を倒してもルークは走る速度を落とさない。その速度にエリンとシャルはなんとか付いていく。

 ルークは呼吸を乱すことも無く、楽しそうに笑いながらすれ違う魔物をナイフで次々と屠っていく。そして5分ぐらいで2階層を突破したのであった。


「ぜぇ……ぜぇ……、る、ルーク君、キラキラが出ちゃいそうだよ」


「エリンは体力や機敏の能力が伸びてないな。職業からして知力や魔力が伸びるんだろうけど……あっ、腕力が一番成長しているのか? とにかく、このままじゃ物足りない。もっとトレーニングの時間を増やした方が良さそうか……」


 え、今なんて言ったの? 今でさえトレーニングの時間に、5キロの重りを背負って1時間走らされてるんだよ。これ以上ハードになったら死んじゃうよ。


「る、ルーク君。私は大丈夫だよ。うん、絶対に大丈夫だからァァァ!」


「そうか? エリン、ここは入門ランクとはいえダンジョンの中だ。危険だから無理はしないで、キツかったらちゃんと言うんだよ」


「う、うん。ありがとうね。泣きそうなぐらい嬉しいよ」


 シャルは今のやり取りを見て、絶対に泣き言を言わないと心に誓ったのであった。

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